Category: Diary

丹沢、春から夏へ


今日は平日休みにして、丹沢表尾根を縦走してきた。何年ぶりだろう?……と思ってこのブログを検索してみたら、2019年以来、6年ぶりだった。コロナ禍の前は、年に一度くらいの頻度で来てたのだが。

すし詰めのバスでヤビツ峠まで移動し、登山口からえっちらおっちら、二ノ塔まで登る。三ノ塔の上から、烏尾山や行者岳、そして塔ノ岳にまで連なる尾根筋を眺めた時、これだー、この風景が見たかったんだ、と何だかすっかり嬉しくなってしまった。


お地蔵さんもお元気そうで。今年のウェアはかなりキマってる感じ。あと、酒のお供物が多すぎ(笑)。

天候は、薄日が時折射す薄曇りといった感じ。直射日光がさほどきつくなかったので助かったが、それでもまあ、暑かった。水を1リットル余分に持って行ったが、それでぎりぎり足りたくらいだった。梅雨に入ったら湿度も上がるし、ここいらを歩くのはさらにしんどくなりそう。秋まで待つか……。


輝くばかりの新緑に覆われた、丹沢の山々。今の季節ならではの風景。驚くほどすぐそばで、ウグイスが高らかに鳴く。

何しろひさしぶりだったので、最後までもつかなと半信半疑だったのだが、割と順調に歩くことができた。今年に入って、一月、二月、四月と山歩きをしていたので、それで足慣らしができていたようだ。大倉尾根の下りで、太腿の筋肉がピリつく寸前くらいまで追い込めたので、今回もいい運動になったと思う。

丹沢表尾根縦走をこれからしてみようかな、と思っている初心者の方へ。三ノ塔から塔ノ岳までの尾根筋では、こまめに休憩を取るようにした方がいいです。急勾配のアップダウンが頻繁にある上、風雨に浸食されて際どくなってる道や鎖場などもあるので、短時間のうちに結構消耗します。名前のついてる場所に来たら、5分か10分座って休んで、心身ともに常に余力を残しておくようにするといいと思います。ご参考までに。

おっさんの食卓

GW後半の四連休。相方が神戸に弾丸帰省している間、僕は〆切間近の長文の原稿を抱え、東京の自宅で一人プチ合宿の日々を送っていた。

日々の食事は家で作って食べていたのだが、おっさん一人だし、時間も予算もかけられないので、メニューもさもありなんというものばかりになった。スーパーで買ってきたカツオのたたきと日本酒。宝舞の生餃子を焼いたのとビール。もぐもぐのちょい飲みセットとジントニック。毎日の原稿の苦行の憂さ晴らしも兼ねてはいたが、それにしても、メニューのチョイスがめちゃめちゃおっさんっぽい。この一杯のために生きてるな感が半端ない。

いいんだ、うまかったし、それなりに楽しかったし、原稿もちゃんと納期に間に合わせたんだから……。

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ジャック・ロンドン『火を熾す』読了。ずっと前に相方が貸してくれたのを、本棚に挿したまま、読み終えたような気分になってしまっていた本。ジャック・ロンドンが短い生涯の間に遺した膨大な数の短編小説の中から、柴田元幸さんが選んだ九編が収録されている。冒頭の表題作は、極寒のユーコン準州でなすすべもなく凍え死んでいく男の一挙手一投足を描いた話で、他人事とはまったく思えず(苦笑)、相方が貸してくれた理由がわかる気がした。多作だった故か、作品によって出来にむらはあるが、総じてド直球でフルスイングの文体で、昔のアメリカのベースボールの試合を眺めているような気分になった。

本が出てからの仕事

四月の後半は、文字通り、目が回りそうなほど忙しかった。

遠方での対面インタビューを含むかなりヘヴィな取材が何件か入っていたのに加えて、新刊『雪豹の大地』の発売に合わせてのあれやこれやが、立て続けに。サイン本の量産、ラジオ番組の収録、書店での写真パネルの設営、書店に滞在しての対応、そしてトークイベントが、二週連続。二週目のトークイベントが終わった翌日の日曜は、精も魂も尽き果ててしまって、昼の間ずっと、ベッドから動けなかった。

本が出てからも、書いた本人がなすべき仕事は、たくさんある。書店を微力ながら支え、読者にほんの少しでも喜んでもらうための。そういった、本が出てからの仕事を通じて、はじめて自身に還元されてくるもの、気付かされることも、たくさんあると僕は思う。

しかしまあ、疲れた(苦笑)。

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ロバート・バイロン『オクシアーナへの道』読了。ブルース・チャトウィンが15歳の頃から「聖典」と呼んで愛読し、自身がアフガニスタンを旅するきっかけにもなった本。彼が『パタゴニア』を書いた時などには、バイロンのこの本の影響が少なからずあったであろうことが窺える。

1933年から34年にかけて、イランとアフガニスタンを旅した日々を日記体で綴った紀行文。バイロンの主な目的はイスラーム建築の探訪であったので、各地の建築物の様子は偏執的なまでに仔細に描写されていて、独特の美的感覚に基づく歯に衣着せぬ批評とともに綴られている(バーミヤンの大仏に対してもかなり手厳しい)。ただ個人的には、そうした事細かな建築の描写や批評より、何気ない車窓からの風景に彼の心がふと揺れ動いた時の様子や、行く先々でありとあらゆる種類の災難に見舞われて右往左往させられる様子が(気の毒ではあるけれど)面白かった。ともあれ、今となっては貴重な記録であることは間違いない。

山上の桜


今日は平日休みにして、陣馬山から高尾山までの縦走に出かけた。もともと、三月のうちに行こうと思ってたのだが、急に雪が降った関係で順延となり、ここ最近も変わりやすい空模様が続いているので、比較的天気が安定してそうな今日に、山行の予定をねじ込んだ次第。


山歩きは、二月下旬に高水三山を歩いて以来。あの頃に比べると、ずいぶん暖かくなった。陣馬山の山頂に着いた後、上着を脱いで長袖Tシャツだけになったのだが、高尾山から下りに入るまで、それでちょうどよいくらいだった。


春霞のせいで、そこまでくっきりとは見えなかったが、富士山も。見えると、やっぱりちょっとだけ気分がアガる。


城山から高尾山にかけての尾根筋のところどころで、桜が咲いていた。平地の公園とかで見かける桜と少し違って、どことなく野生味のある桜。考えてみたら、桜の季節に高尾山に来たのは、初めてだったかもしれない。思いがけない僥倖。

約一カ月半ぶりの山行だったが、身体はそれほどなまってもおらず、すいすい楽に歩けた。真夏の暑い時期とかは無理だけど、今後も月イチペースくらいで日帰り山歩きに行くようにすれば、足腰のコンディションも維持しやすくなるのかな、と思う。次はどこにするかな。ひさしぶりに、丹沢表尾根縦走に行ってみるか。

柴田元幸先生の朗読会

昨日は、梅屋敷の書店、葉々社さんの主催による、翻訳家の柴田元幸先生の朗読会に参加してきた。

柴田先生が登壇されるイベントに参加するのは、これが初めて。一年前に亡くなったポール・オースターの作品の中から、先生が訳出中の『バウムガートナー』や『燃える若者 スティーヴン・クレイン評伝』で印象的な部分の朗読があり、初期作品の『ガラスの街』『幽霊たち』『ムーン・パレス』からの朗読もあった。時に手をふりかざしながら朗々と読み上げる先生の声が、本当に素晴らしくて。先生の手がけた訳文が、それだけ吟味され、磨き込まれていることの証明でもあると感じた。

最後に、『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』を朗読していただけたのも、嬉しかった。僕は映画『スモーク』を映画館で観たのをきっかけに、オースターの本を一冊また一冊と読み耽るようになった人間だったから、なおさら。良い時間だった……。有難うございました。

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アルド・レオポルド『野生のうたが聞こえる』読了。米国ウィスコンシン州を中心とした四季折々の自然と動物について綴った美しいエッセイと、土地倫理という考え方に基づく自然との関わり方の提唱とで構成されている。80年近く前に出版された本だが、少しも色褪せておらず、今の時代にも通じる理念を学べる、名著だと思う。