与えられた時間の中で

昼、用事があって、恵比寿へ。モックネックのTシャツにコーデュロイのジャケットを羽織って外に出たら、思いの外、肌寒い。冬の気配が忍び寄ってきている。

用事をすませ、ヴェルデでコーヒーを飲みつつ少し本を読んでから、銀座へ。ソニーイメージングギャラリーで15日まで開催されている幡野広志さんの写真展「優しい写真」を見に行く。平日なのに、大勢の人が立ち寄っていた。

展示されていた写真には、何気ない、でも次第に残り少なくなる日常の時間の中で、大切な存在をいとおしむ思いが詰まっていた。「伝えたいことを伝えたい人に伝えられるのが良い写真の一つ」という意味のことを幡野さんは書かれていたが、その通りの写真だと思った。

自分の人生を他の誰かと比べることには何の意味もないけれど、僕の人生は、奇天烈ながらも運に恵まれている方だと思うし、今の自分は、これまでの人生の中でもかなり幸せな日々を過ごさせてもらっているとも思う。とはいえ、そういう日々が未来永劫続くとは思っていない。変化や終焉は、誰の人生にも、いつ訪れるかわからないし、いつか必ず訪れるものでもある。

良い文章を書きたい。良い写真を撮りたい。そして、良い本を作りたい。そのためには、与えられた時間の中で、自分と大切な人たちのために、せいいっぱい、できるだけ良い生き方をしなければ、と思う。そうして、僕よりも少しだけ長生きしてくれるかもしれない本を、この世界に残したい。

食パン、いろいろ

西荻窪に引っ越して、二人暮らしを始めてから、食事が日に二食から三食になった。朝は相方が出勤前の支度で忙しいので、朝食はもっぱらトーストとミルクティー。だから最近は、二日に一斤の割合で食パンを買っている。

西荻窪の周辺には、ちょっとびっくりするほど、パン屋が多い。大手のチェーン店から創業八十年の老舗まで、よりどりみどりだ。食パンしか置いてない店や、週末しか開かない店もある。なので最近は、違うお店の食パンを買って、食べ比べてみたりしている。

最近世間で人気のある食パン(行列ができたりする系?)は、ふんわり柔らかい口どけで、耳も割と薄めのものが多いような気がする。それはそれでうまいと思うのだが、何種類か食べ比べてみてわかった自分の好みは、耳はがっしり、中もぎしっと詰まってて、軽く焼いてからざくっと頬張ると、小麦の香りと旨味がふわっと広がるような食パンだとわかった。

現時点でのマイベストは、前に三鷹に住んでいた頃にもよく買っていたパン屋トキドキさんの食パン。しばらく前にお店の方も三鷹から西荻窪に引っ越しされたので、僕的には本当にラッキーだった。営業は主に週末の二、三日だけで、うっかり遅い時間に行くと売り切れてるので、計画的に買いに行く必要はあるけど。

でも、パンに塗るジャムは、いまだに三鷹北口のエバジャムさん一択。毎月最終土曜日にしか開かないけど、あまりにもうますぎるので、なかなか他のジャムに手を出す気になれない。そろそろストックが尽きるから、今月末、また買いに走らねば。

To do, or not to do

タイから帰国して、あっという間に二週間経った。あまりにもあっという間だったので、正直茫然としている。

帰国して以来、毎日やたらめったら忙しい。タイ関係の編集作業、ラダック関係の編集作業、とあるWebサイトのリニューアル作業のディレクション、来年からの海外取材の打ち合わせ。平日は四六時中、ひっきりなしにいろんなところからメールやらメッセやら電話やらが着弾していて、あれこれ振り回されつつ、合間に必死こいてデスクワークを続けているうちに、一日が終わってしまう。

その時々でやらなければいけないことが多すぎて、ごっちゃになりそうだったので、とりあえず当面の仕事関係のTo Doリストを作ってみたら、異様に長大なリストになってしまって、上から下まで見渡すだけで大変な量に(苦笑)。何をやるべきか、やらざるべきか。いや、仕事に関わることだから、最終的には全部やらなければならないんだけど。

とりあえず今日のような週末は、メールの数はぐっと減るので、気合を入れて書かねばならないエッセイの原稿に取り組んでいる。集中、集中……。

To Doリストを少しずつでも短くするべく、引き続き地味に、頑張ります。

「バジュランギおじさんと、小さな迷子」

2015年に公開されて以来、インドだけでなく世界各国でも大ヒットを記録した映画「Bajrangi Bhaijaan」。僕もずっと観てみたいと思い続けていたのだが、サルマン・カーンの出演作はほぼ必ず用意されているエアインディアの機内上映でも、なぜかまったくかからない。知人の一人が、この作品を買い付けて日本で公開することを目指してインドで交渉に臨んだものの、価格が折り合わずに断念したという話も聞いていた。もう観ることのできる機会はないのかな……とあきらめかけていたところに、2019年1月から「バジュランギおじさんと、小さな迷子」という邦題で公開されることが決まったとの報せが。件の知人経由で試写会のお誘いをいただいたので、ひと足先に拝見してくることにした。

超がつくほど信心深くて正直者のヒンドゥー教徒、パワンは、とりわけハヌマーン神を熱心に崇めていることから「バジュランギ」(ハヌマーンの別称)と呼ばれている。学業でなかなか芽が出ずに苦労したが、今は亡父の友人ダヤーナンドの家に居候しながら、彼の娘ラスィカーとの結婚を認めてもらうべく、日々仕事に精を出している。そんな彼の前に、一人の迷子の少女が現れる。口をきくことのできないその少女、ムンニを、とりあえず預かることにしたパワン。ところが、ひょんなことから、ムンニがパキスタン人であることがわかってしまう。うろたえたパワンは、ムンニを故郷に送り届けるためにパキスタン大使館や怪しげな旅行会社と掛け合うが、ことごとくうまくいかない。とうとう彼は、パスポートもビザも持たないまま、自らムンニをパキスタンの故郷に送り届けることを決意する……。

ド直球な映画である。構成はとてもシンプルで、時間軸が前後するのはパワンが自らの生い立ちを語る場面くらい。観る者の予想を大きく覆すような展開もなく、たぶんこうなるのかな、という結末に向かって、物語はまっすぐに進んでいく。……なのにどうして、こんなにも、胸にぐっとくるのだろう。観終わった後、体温が2℃くらい上がったのではと思うほど、身体が火照っているのを感じた。こんな風に感じられる映画、なかなかない。

この作品は、「壁」を越えていく物語なのだと思う。国と国との間にある壁。異なる宗教を信じる者との間にある壁。パワンはムンニの手を携えながら、愚直すぎるほど真正面から、一つひとつの壁を越えていく。それは、時に頑ななまでに自らの信仰に囚われていた彼自身が、見知らぬ世界を旅することで解き放たれていく物語でもあった。そんな「バジュランギ兄貴」の旅は、人が人としてまっとうに生きるために本当に大切なことは何なのかを、インドとパキスタン双方の人々の心に呼び覚ましていく。

そう、原題「Bajrangi Bhaijaan」の「バイジャーン」は、「兄貴」という意味なのだそうだ。だから「バジュランギおじさん」よりも「バジュランギ兄貴」とした方が、原題のニュアンスに近い。劇中で「バイジャーン」と聞こえたら、脳内で「兄貴」と変換しながら観るといいと思う。そうしたら、たぶん、ひと味違う感動を味わえるはずだ。特に、あの場面で。

写真展「Thailand 6:30 P.M.」


今年の春先に三鷹のリトルスターレストランで開催した写真展「Thailand 6 P.M.」の拡大バージョンを、綱島のポイントウェザーで開催させていただくことになりました。今回のタイトルは「Thailand 6:30 P.M.」。これまで未公開の写真や今年のタイ取材の際に撮りおろした写真など、約10枚を追加して、展示内容を再構成します。会期は、11月20日(火)から12月2日(日)まで。ご興味をお持ちの方は、ぜひご来場いただけると嬉しいです。

以下、写真展のご案内です。

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山本高樹 写真展「Thailand 6:30 P.M.」

太陽が西に傾き、昼間のうだるような暑さが消えて、暮れ色の空に夜のとばりが下りてくる頃。タイの街は、その素顔を僕たちに見せてくれる。ささやかな電球の灯りの下で交わされる笑顔と、にぎわいと、ちょっぴりの寂しさと。2018年春の東京・三鷹での展示内容に、未公開&撮り下ろし作品を大幅に追加して再構成した写真展。

会期:2018年11月20日(火)〜12月2日(日)
会場:Point Weather
神奈川県横浜市港北区綱島西1-14-18
http://www.pointweather.net/
時間:火曜〜日曜11:30〜21:00 月曜休
料金:無料(会場が飲食店なので、オーダーをお願い致します)