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幸せな時間

昨日の夜は、代官山蔦屋書店で「撮り・旅! 地球を撮り歩く旅人たち」刊行記念のトークイベントだった。前日の朝までは定員の半分くらいの予約状況だったのに、そこから急に申し込みが殺到して、結局、本番ではぎっしり満席。大勢の人の前に出るのはひさしぶりだったので緊張したが、一緒に出演してくださった写真家の三井昌志さんと中田浩資さんのおかげで、会場もかなり盛り上がっていたように思う。自分自身のトークに関しては、いつものごとく、頭の中がまっしろになっていたので、あまりよく憶えてないのだが(苦笑)。

イベントの最中は周囲を見回す余裕も全然なかったけれど、終了後、お客さんたちが買ったばかりの本を両手で胸に抱えて、頬を紅潮させて目を輝かせながら会場を後にするのを見ていると、何というか、ぐっとくるものがあった。何もないまったくのゼロの状態から企画を立ち上げ、苦労して、苦労して、苦労して‥‥何度も心をへし折られそうになって。それでも、みんなから預かった写真を、言葉を、思いを守り抜くと決めて、意固地なまでに信念を通して。そうして生まれてきた本が、自分の目の前で、読者の手に渡っていく。一人の編集者として、書き手として、撮り手として、こんな幸せな時間を味わえることが、一生のうちに何度あるだろうか。こんな時間を味わえる人が、この世界にほかに何人いるだろうか。

僕は本当に、たまたま巡り合わせがよかったのだ。その巡り合わせを、大事にしていかなければ、と思う。

「“旅”が始まったばかりの国、バングラデシュ」

ダイヤモンド・ビッグ社の「地球の歩き方」編集部のサイトで、今年二月に行ったバングラデシュの取材レポートを遅まきながら連載していくことになりました。これから十月頃(「地球の歩き方バングラデシュ」の改訂版が発売される時期)までかけて、全部で四回に分けて掲載されていくそうです。これに合わせて写真を選び直し、文章も新たに書き起こしました。サイトのデザインがやや古いため見づらく感じられるかもしれませんが、写真は一応Retina対応にしてもらっているので、ある程度はディテールも見られると思います。

タイトルは「“旅”が始まったばかりの国、バングラデシュ」。まだ観光というものが未発達な、でも、だからこそ感じることのできるバングラデシュの魅力と奥深さを、門外漢ながら伝えていければと思っています。

「撮り・旅! 地球を撮り歩く旅人たち」

「撮り・旅!」撮り・旅! 地球を撮り歩く旅人たち
編者:山本高樹
定価:本体1600円+税
発行:ダイヤモンド・ビッグ社
B5判128ページ(オールカラー)
ISBN978-4478046159

「旅」と「写真」という切っても切れない関係にあるものをテーマにした新しい本が、まもなく発売になります。写真を撮らなくても旅はできるかもしれないけれど、旅の中で風景や人々や出来事に出会い、心がふわっと揺れた時にシャッターを切ってゆくと、その人の旅はもっと豊かで深いものになります。今やすっかり手垢のついた「絶景」という言葉などではとうてい括ることのできない、旅人たちが目にしてきた世界のありのままの姿、彼らの「旅」そのものが、凝縮された一冊です。

見本誌出来

朝、宅配便で「撮り・旅!」の見本誌が届いた。

慎重に梱包を解き、本を一冊取り出す。カバーと帯、クラフト紙の表紙、微塗工紙の本文紙、肝心の印刷の具合を確かめながら、1枚ずつページをめくっていく。特に問題はないようだ。よかった。ほっとした。うれしいというより、とにかくほっとした。

ほっとしたら、力が抜けた。それから一日、何もする気が起きず、腑抜けのようになって過ごした。終わった。終わったんだな。

あと二カ月

台風が近づいてるからか、風が強く、やたら蒸し暑い。何もしなくても気力がそげていく。

終日、部屋で仕事。昨日取材した分の原稿に取り組む。夜までにはほぼ形になったが、明日からはまた、いくつか書かねばならない原稿がある。小さいながらも切れ間なく仕事が来るというのはありがたいことなのだが、「撮り・旅!」という難関を終えた後なので、正直、しばらくぼーっとしていたい気分なのも確か。

誰もいない湖のほとりで、一週間くらいテントを張って、歩き回って、写真を撮って、本を読んで、寝転んで空を見上げて‥‥。あと二カ月ほどしたら、たぶん、そんな日々が来る。