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幸せな本

ラダックの風息 空の果てで暮らした日々」が発売されてから、今日で丸二年になる。売り上げ的には、まあ、そこそこという感じなのだけれど(笑)、今もたくさんの人に読んでいただいていることを、本当にうれしく思っている。

あの本は、間違いなく、僕の人生を変えた。生まれて初めて、自分が心の底から書きたいと思えるテーマに挑むことができた。現地取材に取り組んでいく過程で、ラダックでも、日本でも、本当にたくさんの人々が自分を支えてくれていると実感した。そして、本というものは、読者の方々の手に渡り、その心の中にそっと入り込んで、初めて生命を持つのだと知った。書き手にとって、幸せな一冊になったと思う。

自分にとって大切なことを、本に託して、届けていく。ささやかなことかもしれないけれど、これからも、そういう仕事を積み重ねていきたい。

似合わない呼び名

午後、千葉県の柏へ。去年に引き続き、文章の講師として原稿を添削させていただいた方々とのミーティング。

こういう形で参加するのは二回目ということもあって、割と雰囲気にも慣れて、原稿を添削していて気づいたことをいくつかアドバイスさせてもらった。「読者を具体的にイメージする」「ありきたりの形容詞に逃げるのではなく、具体的に描写する」「論点を絞り込んで整理する」「くりかえしチェックして、細部にまで気を配る」‥‥といった感じ。

それにしても、参加者の方々から「先生!」と呼ばれるのは、まじで気恥ずかしい(苦笑)。僕にとって、これ以上似合わない呼び名はないんじゃないかと思う。人にものを教えるなんて、十年早い‥‥。

‥‥いや、そう呼ばれても胸を張って応えられるくらい、もっとスキルアップしなきゃダメだな。

愉しむ気持

今日は割とのんびり。一昨日の打ち合わせの際にこちらで用意することになった、本の全体構成案を煮詰めていく。

僕は今まで、いろんなジャンルの本を作ってきたが、自分が特に好きなテーマの企画だと、どんな作業でも愉しいというか、文字通り、時を忘れて没頭してしまう。先月末に書いていたエッセイの原稿もそうだったし、今回の本(まだ作れるかどうかわからないけど)の作業もそう。本当に、愉しくて愉しくてたまらない。きっと、ニヤけた顔でモニタを見つめていたに違いない(笑)。

作り手がそうやって愉しむ気持を本に込めることができれば、それはきっと、読者にも届く。逆に言えば、作り手自身が何の思い入れも持たずに作った本には、たとえそれがどんな内容のものであろうと、一番大事なものが込められていないのだと思う。

自分の原点

夕方、渋谷へ。映画美学校で開催される「マイキー&ニッキー」という映画の試写会イベントに行く。まさか、2011年になって、ジョン・カサヴェテスの姿を日本の映画館のスクリーンでまた観ることができるとは‥‥。今日は彼の命日でもある。

上映前には、映画プロデューサーの松田広子さんによるトークショーが行われた。松田さんは当時、雑誌「Switch」の編集者として、当時日本ではほとんど知られていなかったカサヴェテス(59歳の若さでこの世を去ったばかりだった)を丸々一冊取り上げた特集号を編纂した方だ。トーク中は、松田さんが米国でピーター・フォークやサム・ショウ、ベン・ギャザラ、そしてジーナ・ローランズを取材で訪ねた時に撮影されていたビデオが上映された。それを観ていると、懐かしさとともに、いつのまにか忘れかけていた熱い気持がこみ上げてきた。

今から二十年近く前、僕は松田さんたちが在籍していた「Switch」の編集部で、使い走りのアルバイトをしていたことがある。まだ右も左もわからない青二才だった僕が、初めて本気で本作りの仕事を目指そうと決意したのは、このカサヴェテス特集号をはじめとする数々の素晴らしい記事を作り出した、松田さんたちの仕事ぶりを目の当たりにしたからだった。真のプロフェッショナルの仕事とは、ありったけの情熱と愛情を注ぎ込むものなのだということを、僕はそこで学んだ。今も手元にあるこの一冊は、僕にとっての原点であり、目標であり、ある意味で未だ越えられない壁なのだと思う。我ながら、最初からずいぶん高いハードルを設定してしまったものだ(笑)。

イベントが終わった後、たぶん十数年ぶりに松田さんにお会いして、ご挨拶をした。‥‥めっちゃ緊張した(苦笑)。松田さんは二年前に僕が勝手にお送りしたラダックの本のことを憶えてくださっていて、素直に嬉しかった。会場から外に出ても、熱い気持はまだ引かなくて、身体がカッカと火照っていた。渋谷駅まで、ダーッと一気に走っていきたいくらいだった。

今まで自分がやってきたことは、間違っていなかった。でも、やるべきこと、目指すべきものは、まだ遥か先にある。

小さな進歩

去年の秋にも担当した、柏市役所から依頼された文章添削の仕事がまた始まった。市民レポーターの方々が執筆した記事を僕がチェックして、よりよくするためのアドバイスをさせていただくという仕事。

前回は初めての担当だったこともあって、添削に手間取った部分も多かったのだが、今回送られてきた原稿を見ていると、以前より少しずつよくなっているという印象。もちろん、手直しが必要な部分もあるにはあるのだが、ところどころに自分自身の言葉で書かれた、キラッとする描写が織り込まれていたりして、それがとてもいい感じなのだ。

自分のアドバイスがその人たちにプラスになったのかどうかはわからないけど、そうした小さな進歩が目に見える形で反映されているというのは、とてもうれしい。何となく、やりがいが出てきた。