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「Jab Harry Met Sejal」

シャールク・カーンとアヌシュカー・シャルマー主演、イムティヤーズ・アリー監督のラブストーリー。「面白くないわけないじゃん、観たい!」と去年からずっと思っていて、iTunesでサントラまで買った「Jab Harry Met Sejal」。先日、エアインディアの機内でようやく観ることができたのだが……。

パンジャーブ出身で今はヨーロッパでツアーガイドとして生計を立てている、女たらしのハリー。ある日、ガイドしたグジャラートからの団体ツアーの終了後、ツアー客の女性が一人、彼の元に引き返してきてしまう。ツアー中に大切な婚約指輪をなくしてしまったその女性、弁護士のセージャルは、一緒に指輪を探してくれるようにハリーに強要。指輪探しの珍道中が始まり、やがて二人は……。

ヨーロッパ各地の旅の映像は華やかで美しいし、音楽もノリノリだし、アヌシュカーのコケティッシュな演技は可愛いし、無精髭を生やしたシャールクは安定のシャールクっぷり。しかし、「なくした婚約指輪を探してヨーロッパを旅して回る」というそもそもの設定にリアリティがなさすぎて、どうにもこうにも無理がある。探し方も行き当たりばったりで、本気で探すならさすがにもっと効率と確率の高いやり方もあるだろうに、と。無理な設定のために、物語もあちこち跳ねてしまってる印象で、観ていて落ち着かなかった。

もうひと息、ふた息、がんばってほしかったなあ。インド国内でも、シンプルなラブストーリー&ロードムービーの需要はこれからも確実にあると思うので。

「Tubelight」

この夏、エアインディアの機内で観た2本目の映画は、カビール・カーン監督、サルマン・カーン主演の「Tubelight」。同じ顔合わせで大ヒットを記録した「Bajrangi Bhaijaan」(日本でもようやく2019年に公開されるらしい)がインドとパキスタンを舞台にしていたのに対し、「Tubelight」は1960年代の中印国境紛争が主要なテーマになっている。

北インドの街で暮らす、心優しいがやや知恵遅れのところがある兄ラクスマンと、しっかり者の弟バラトは、幼い頃から固い絆で結ばれた兄弟だった。やがてバラトは軍に入隊し、中国との国境付近へ。その後バラトは、戦闘に巻き込まれて捕虜になってしまう。一方、ラクスマンが残る街には、中国系の母と子が移り住んできて、住民との緊張が高まっていた……。

前作の「Bajrangi Bhaijaan」同様、国や人種の違いを超えた人と人との結びつきというこの作品のテーマには、かけがえのない価値があるとは思う。ただ、主人公ラクスマンを演じるサルマン・カーンの演技は、ちょっとわざとらしいというか、ナチュラルさに欠ける部分があって、そのいまいちハマりきってない感じが作品全体に及んでしまっていた印象がある。個人的にも、今回の主人公にはあまり感情移入できなかった。

ちなみに、ソーヘル・カーン演じるバラトが派遣される戦場のシーンは、主にラダックで撮影されたのだそうだ。あと、シャールク・カーンの出演シーンにはかなりびっくりした(笑)。

「Dangal」

2016年末に公開されて以来、インドのみならず世界各国で大ヒットを記録した、アーミル・カーン主演の映画「Dangal」。日本国内でも今年の春先に公開されたのだが、配給元の宣伝手法に関して個人的に許せない点がいくつかあったので、抗議の意味も含めて、日本ではあえて観に行かなかった。で、夏にエアインディアに乗った時、機内でようやく全編に目を通した次第。

マハヴィールは才能に溢れたレスラーだったが、経済的な理由でレスリングの道をあきらめざるを得なくなる。「息子が生まれたら、その子をレスラーに育てて自分の夢を託そう」と思い立つが、生まれてくるのは女の子ばかり。ところがある日、長女ギータと次女バビータが近所の男の子たちをケンカで叩きのめすほど腕っぷしが強いことがわかり、マハヴィールは彼女たちをレスラーに育てようと決意する……。

実在の親子をモデルにした作品ということもあるが、(日本の配給会社がしゃにむにその方向で推そうとしていた)スポ根映画として見れば、物語はとてもシンプル。試合のシーンはリアルに作り込まれているが、話の展開自体は、ある程度先が読めてしまう。

ただ、この作品の本当の価値は、インドの、特に田舎における女性の社会的地位の低さと偏見についての指摘と、そうした女性たちも自らの意思で人生を選べるようになるべき、という提言にあるのではないだろうか。アーミル演じるマハヴィールは、自分の夢を娘たちに押し付けたというより、娘たちがレスリングを礎として自らの人生を切り開くための手助けをしたのではないか、と僕は感じた。

この映画は、「女性の自立」という視点で観るべきだと思う。

東京とデリーの暑さの違い

ひさしぶりに東京に戻ってきて驚いたのは、今年の夏の暑さ。今日は最高気温は37℃にまで達したらしい。同じ今の時期のデリーの最高気温より、3、4℃は高い。それでも今の時期の東京とデリー、どっちが過ごしやすいかと訊かれたら、やっぱり東京の方がましかも、と答えると思う。

暑さだけでなく、湿気の多さという点でも、東京とデリーはどっこいどっこいだと思う。ただ、東京が比較的単純な蒸し暑さなのに対して、デリーの蒸し暑さは、何というか……澱んでいる。ざらざらした土埃とか、まともに濾過されてない排気ガスとか、けたたましいクラクションとか、ぶつかりそうになりながら(そして時々ぶつかりながら)行き来する車やオートリクシャーとか。空はビニールハウスのように薄い雲の層でぴっちり覆われていて、ぎらつく日差しが容赦なく降り注ぐ。クーラーの効いてる店は数えるほどだし、停電は日常茶飯事。暑さから逃れられる場所は、とても少ない。

だから僕は、夏の東京とデリー、どっちかましかと訊かれたら、東京と答えると思う。どっちが面白いかと訊かれたら……まあ、わからないけど。

旅の中で読んだ本

昨日の午後、予定通りに帰国した。長い待ち時間と移動時間でほとほと疲れたが、一晩ぐっすり寝て、今日はすっかり回復。毎度のことながら、時差ボケに悩まされない体質に生まれてよかったなあと思う。

この夏の旅で経験した出来事については、気が向いたらそのうち書くとして、とりあえず、今回持って行った2冊の本についての簡単な感想を。

1冊は、ジュンパ・ラヒリの短編集「停電の夜に」。彼女の本で最初に読んだのは「低地」だったのだが、その繊細な描写力と緻密な構成、圧倒的な完成度に、ほとんど打ちのめされたといっていいほどの衝撃を受けた。「停電の夜に」は彼女のデビュー作なのだが、これでいきなりピューリッツァー賞を受賞している。今回の旅の途中、デリーからサンフランシスコに向かう機内には、米国で暮らしているらしいインド人が大勢乗っていたのだが、米国育ちのインド人である彼女の創作のルーツは、こういう人たちと共通する部分にあるのだろうな、と思った。

もう1冊は、ブルース・チャトウィンの「パタゴニア」。実は、彼の代表作「ソングライン」を僕はまだ読んでいないのだが(ハードカバーは分厚くて重いので、文庫化されたらそれを旅先に持って行こうとずっと思っていたのだが、なかなか文庫化されないまま、幾星霜……)、巻末の解説で池澤夏樹さんが書かれていた、「ソングライン」が優等生の弟なら、「パタゴニア」はわんぱくな兄という形容は、個人的にものすごくしっくりくる。パタゴニアにまつわる大小の逸話を無数にちりばめた、天衣無縫なスタイルの旅行記。こういうやり方もあるのか、と個人的にすごく参考になった。

どちらも、とても良い本だった。おすすめ。