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「アーティスト」

以前から気になっていたものの、映画館で観る機会を逸してしまった「アーティスト」を、Apple TVでようやく観ることができた。第84回アカデミー賞で作品賞をはじめ五部門を制したこの映画、3D映像やCG処理が当たり前のこの時代に、なんとモノクロームの(ほぼ)サイレント映画である。だが、それがいい。そのスタイルでしか描けない、それでこそ描けるテーマを持った映画だから。

20世紀初頭、サイレント映画のスターだったジョージは、アーティストとしての自分の流儀にこだわるあまり、トーキー映画の台頭に乗り遅れ、若く溌剌とした女優のペピーと入れ替わるように落ちぶれていく。はたして彼らは‥‥というストーリー。物語としては、悪人は誰も出てこないシンプルなおとぎ話そのものだが、本当に細かいところまで、作り手のサイレント映画に対する愛情と畏敬の念が込められているのが、観てるだけで伝わってくる。きっと僕が観たことのない古典映画へのオマージュが、そこらじゅうに散りばめられているに違いない。それを見分けられないのが、ちょっと悔しくもある。

うまいなあ。本当にうまい。ぐうの音も出ないくらい、いい映画だ。

「最強のふたり」

パリの大邸宅で暮らす富豪のフィリップは、愛する妻を病で失い、パラグライダーの事故で首から下が麻痺する重傷を負った。周囲の人々が腫れ物に触るような憐れみと金目当てのへつらいで接する中、スラム街育ちで前科持ちの黒人青年、ドリスだけは違っていた。次から次へと辞めていく介護者の面接に来たドリスは、「不採用にしてくれ。そうすれば失業手当がもらえる」と言い放ち、フィリップにも何の同情も示さなかったのだ。何から何まで正反対の二人は、やがて不思議な友情で結ばれていく‥‥。

この「最強のふたり」(原題:Intouchables)は、2011年にフランスで年間興行収入トップを記録し、国民の三人に一人は観たという映画だそうだ。僕も前から気になっていて、昨日吉祥寺バウスシアターで観てきたのだが、じんわりとした感動に浸れる、予想以上の良作だった。たぶんそれは、フィリップが負っている身体的なハンディキャップが、ヘタな悲哀や感動の仕掛けに使われていなかったからだろう。身体の不自由も社会的な格差も関係なく、フィリップとドリスが同じ人間として互いに認め合い、育んでいく友情の確かさが、自然にテンポよく描かれていく。わかりやすく盛り上げたクライマックスではない、さらりとしたさりげない幕切れも、この映画らしいなと思った。

しかし、この邦題はやっぱり、ちょっと微妙‥‥(苦笑)。

辿り着いたその先で

昨夜は、パタゴニア東京ゲートシティ大崎店で、冬のラダックをテーマにしたスライドトークイベントに登壇した。ただでさえマイナーなラダックという地域の、しかも観光客がほとんど訪れない冬の話をするという、ターゲットが狭いにもほどがある(笑)イベントだったにもかかわらず、定員を上回る85名もの方々が来場してくださるという、まさかの展開。どうなることかと思ったが、関係者の方々のサポートもあって、何とかやりきった。モエツキタ。シロイハイニナッタ。

トークの中でも皆の注目を集めていたのは、やっぱりチャダルの話と写真だった。凍結した川の上を歩いて旅するという世界でも他に類を見ない冒険だから、当然といえば当然なのかもしれない。ただ、あの時の僕が、凍った川の上を歩くことそのものよりも遥かに心惹かれたのは、つらい道程を歩き続けて辿り着いたその先で出会った、冬のザンスカールで暮らす人々の姿だった。

今までもこれからも、僕が取り組むのは、頂に登ったり、困難な道程を制覇したりすることではない。そんな厄介なことは他の人にお任せする(笑)。僕は、辿り着いたその先で、目にしたもの、出会った人々のことを伝える。それが自分の果たすべき役割だと思っている。

旅人バザール

昨日は、鎌倉・材木座の古民家ゲストハウス「亀時間」で開催された、旅人バザールへ。今回は出店する側なので、グレゴリーのデイアンドハーフパックがぱんぱんになるほど商品を詰め込んで行く。特に本がかなりの重量で、それを背負っての道中(結構歩く距離が長い)は、ちょっと心が折れそうだった(苦笑)。

亀時間を訪れたのは初めてだったのだが、築八十年以上経つ立派なお屋敷で、すごく雰囲気がいい。商品を並べ終え、正午に開場。とたんに、お客さんがどっと押し寄せて、あれよあれよと売れていく。たぶん売れないだろうと思っていた不要品が、数十分のうちにほとんど売り切れてしまった。その後は多少落ち着いたものの、やっぱりお客さんはものすごく多い。ほんと、トイレに行く時間を見つけるのも難しいほどだった。あんなフリマ、見たことない(笑)。

他の出店者さんも感じのいい方々ばかりだったし、鎌倉在住の友人の宮坂さんご夫妻や、リトスタの元スタッフのアッキーさんも訪ねてきてくれて、嬉しかった。ああいう旅好きの人たちばかりが集まる気持のいい時間と空間を共有できたのは、得難い体験だったと思う。あまりに大盛況過ぎて、自分が買い物をする時間がまったくなかったので、次回は客として参加したい(笑)。

主催の亀時間さんと旅音の林さん、どうもありがとうございました。

朝の茶話会

朝、代官山蔦屋書店へ。今日は「トラベルコーヒートーク」というトークイベントへの出演。平日の午前中の開催で、告知期間もほんの一週間くらいだったのだが、最終的に二十人以上の申し込みがあったらしい。ありがたいことだ。

会場は店内のカフェスペースで、テーブルを差し挟んで気楽に話をする、まさに茶話会という感じ。今までにない近い距離感でのトークイベントだったのだが、みなさんとても感じのいい方々で、質疑応答でも熱心に質問してくれる方が多かった。こういうちょっとしたきっかけで、ラダックに興味を持ち、好きになってもらえたら、これほどうれしいことはない。

終了後、コンシェルジュの森本さんとおひるをご一緒してから、原宿に移動。来週あたりから始まる地方取材案件の打ち合わせ。それを終えて家に戻り、メールの連絡業務をあれこれやってるうちに、どうにもこうにも眠くなってきた。さすがに疲れてたらしい。一時間ほど仮眠して、現在に至る。

ホッとひと息つきたいところだが、これからまだまだイベントや仕事が目白押し。がんばらねば。