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マルチな黒子

昨日のエントリーで、ライターという職業にもいろんなタイプがあると書いた。自分自身のキャラクターを前面に出す人。自分の気配を消して黒子に徹する人。特定の分野のスペシャリスト。いろんなジャンルをこなせるマルチな人。

僕自身のキャリアをふりかえってみると、まず、雑誌の編集部に在籍していた頃に編集者に必要なスキルのイロハを学んだ。フリーランスになってからは、IT系、広告・デザイン系などの雑誌で主にインタビュー記事を担当。2007年にラダックで長期取材をして最初の単著「ラダックの風息」を出した頃から、周囲から依頼される仕事がしぜんと旅行関係にシフト。ただ、今でも旅モノだけで生計を立てているわけではなく、国内では教育関係のインタビューの仕事などもたくさんやらせてもらっている。

今になってあらためて思うのは、フリーランスになる前の編集者時代に基本的なスキルを習得できていたのがよかったし、典型的な黒子の仕事である編集業務の面白さを体感できていたこともプラスに働いた。加えて、フリーランスになってからジャンルに囚われることなくいろんな種類のインタビューを経験したことで、「マルチな黒子」とでも呼ぶべきスタンスで動けるライターになれたのも大きかったと思う。

今でこそ、ラダック関連の本などからの印象で、旅行関係に特化した作家的なタイプのライターというイメージを持たれている面があることは否定できない。ただ、逆に言えばそれも「マルチな黒子」のライターとしての仕事を通じて積み上げてきた、ものすごくベーシックなスキルがある程度あったからこそ、ある種の余裕を持って出せた結果だと思う。それに、依然として「マルチな黒子」としての仕事も少なくない割合で続けているわけだし。

最近、Webメディアなどでキャリアをスタートさせているライターの方々の中には、最初から自分の個性やキャラクターを強烈に前面に押し出したり、あるジャンルやスタイルに極端に特化したりした形で文章を書いている人も少なくない。そうした個々の仕事自体は別に問題ないが、編集者としての土台のスキルがない人や、「マルチな黒子」として立ち回れる器用さのない人だと、キャリアを重ねるにつれて、だんだん苦しくなっていくだろう。

ライターとしてのキャリアのスタートは、まずは編集の仕事のイロハを覚えてから、「マルチな黒子」として動ける経験を積み、状況に応じて得意分野のスペシャリストを目指すのが、結果的には一番良い結果につながると、僕は思う。

ライターが用意すべきもの、すべきでないもの

ライターという職業は、人によって仕事の流儀がさまざまだ。自身のキャラクターを売りにする人、黒子に徹するのを好む人。ある分野に特化している人、どんなジャンルでもマルチにこなせる人。

ただ、どんなスタイルのライターであれ、取材やインタビューの前には、取材するテーマや内容、人に関して、ある程度きちんと予習して、できるだけ多くの質問項目を用意しておくべきだとは思う。これは、取材そのものを質問項目に沿ってガッチガチに進めていくための準備ではない。むしろその逆で、取材相手の話が思わぬ方向に転んだりした時にも柔軟に対応できるようにしておくための準備だ。もちろん、しっかり予習をしておくことで、限られた時間内でより深掘りした取材をすることも可能になるだろう。

逆に、ライターがあらかじめ用意しておくべきでないものは、「結論」だ。このインタビューはこういう風に話を進めていって、こういう感じのコメントを引き出し、この「結論」に落とし込みたい、という思惑がライターの態度に透けて見えると、取材を受ける側は強烈な違和感を感じる場合がある。ライターはけっして、あらかじめ用意した「結論」に相手を誘導しようとしてはならないと思う。

こういう「結論」ありきの取材は、大手の新聞や雑誌の記者でさえ、往々にしてやらかしていると聞く。取材にはできるだけ謙虚に、ありのままの話を聞く姿勢で臨みたい。

夜更かしとクリエイティブ

毎朝7時台に起きて、午前中からチャキチャキと仕事を進め、夜は12時前後に寝てしまうというリズムに、すっかり慣れてきた。以前は10時か11時に起きて、夜中の2時3時に寝るという生活だったが、人間、やればできるものだ。

まあ、それよりもだいぶ昔、三十代になるかならないかの頃から、仕事とかで徹夜をすることは、まったくしていない。当時、かなりムチャクチャな生活をしていて体調を崩してしまったのがその理由だが、徹夜しなければ納品できないような進行スケジュールはそもそも最初から組まないようにする、と決めてしまったら、睡眠時間は割とすんなり確保できるものだとわかった。

クリエイティブ系の仕事をしてる人や、あるいは作家やアーティストの方の中には、夜更かししたり昼夜逆転してたりする方が調子が出てはかどる、と考えている人も多いと思う。その時点でのその人の創作活動には当てはまっているのかもしれないが、昼夜逆転の生活のペースを何年、何十年も続けるのは、まず無理だ。絶対に、身体がもたない。歳を重ねれば重ねるほど、あっちこっちにガタがくる。

海外の著名な作家にも、毎日規則正しい生活リズムを保ちながら、長い期間をかけて淡々と書き進めていくタイプの人は多い。僕もええ歳こいたおっさんなので、まずは健康第一で、今の生活のペースをキープするようにしようと思う。

リズムに馴染む

終日、部屋で仕事。午前中は仕事関係のメール連絡と、短めの原稿の編集作業。おひるは冷凍してあったスープを温めて簡単にすませ、スーパーで食材の買い出し。家に帰ると、タイ関係の初校がレターパックで届いていたので、テーブルに広げて校正作業。一段落したところで、夕飯の支度。根菜と豚バラの煮っころがしを仕込む。

こういう生活のリズムに、最近、かなり馴染めてきたように思う。引っ越す前はどうなるかと思ってた朝型生活へのシフトもすんなりできたし、仕事に集中する時間帯と、家のことを片付ける時間帯とをうまく切り分けられるようになってきた。今のところ、どこにも無理は生じてないし、心地よいとすら思えるほど。

でもまあ、そのうち、そういうリズムを、変えたくなくても変えざるを得ない時期が来る。それが今の自分の仕事の宿命。今度は割と長いんだよなあ。来年早々に、二カ月くらい……。ほんと、我ながら、やれやれ、である。

写真展の設営

昨日は夕方から綱島ポイントウェザーへ。11月20日(火)から始まる写真展「Thailand 6:30 P.M.」の設営に行った。

今年の春に三鷹で開催した展示から、写真をさらに10枚ほど増やして再構成。当初はパネルを壁に細い釘を打って固定しようと思っていたのだが、釘打ち音をさせるとお店の2階の住人から苦情が来るらしく(苦笑)、ネジフック(ヨートとヒートン)でパネルを壁に吊るすことにした。

枚数が枚数なので、事前にFacebookで、近隣の知り合いで設営を手伝っていただけそうな方を募集したのだが、なんと、4人もの方々にお越しいただけることになった。しかも、大先輩の庄司康治さんや、松尾純さんのお兄様の松尾洋さん、以前ヌブラ取材の際にお世話になった岩井さんご夫妻と、こちらが申し訳なくなるような方々が。みなさん、設営作業をものすごくテキパキと進めてくださって、僕が周囲でアワアワしてるうちに、2時間もかからずに設営完了。終電間際までかかると思っていたので、本当に助かった。

重ね重ね、ありがとうございました。そんなこんなで写真展「Thailand 6:30 P.M.」、いよいよ始まります。12月2日(日)まで。