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竹下通り

今日も原宿の知人の事務所で編集作業。きわどかったスケジュールも、どうにか危険水域を脱したようだ。

一昨日から三日間、原宿駅から知人の事務所までの間を、僕は竹下通りを歩いて往復していた。ほかの道からだと、かなりの大回りになってしまうからだ。でなければ、好き好んで竹下通りに足を踏み入れたりはしない。

地球上の物質の中で、僕という人間を構成しているもの以外の元素を合成したら、竹下通りになるに違いない(笑)。僕にとっては、それくらいなじめない場所だ。あの甘ったるいクレープの匂いを嗅ぐたび、一刻も早く逃げ出したくなる。いつもいつも、ものすごい早足で通り抜けていた。

自分的に、竹下通りを一言で言い表すとしたらどんな言葉がふさわしいかと考えていたら、はたと思い当たった。

‥‥メンドクサイや、あそこは(笑)。

通勤の風景

今日も原宿にある知人の事務所へ。ゲラチェックをみっちりとやる。

二日連続で同じ駅まで電車で往復していると、十年前、出版社に勤めていた頃の気分を思い出す。毎朝人いきれでむっとした電車に乗るのも、毎晩酒臭い空気のたちこめる終電で家に戻るのも、ほとほとうんざりしていた。人と同じことをしなければならないとか、毎日同じことをくりかえさなければならないとか、そういうことが僕はつくづく苦手だったのだと思う。

あの頃に比べると、通勤の風景もいくらか変わったようだ。半分以上の人が、手元のケータイやiPhoneをいじくることに没頭して、周囲との間に見えない壁を作っている。通勤時間が得意な人なんて、そうそういないのだろうな。

うきわねこ

昼、原宿にある知人の編集プロダクションへ。今日から三日間、この事務所に出向いて、編集作業をちょこっと手伝うことになったのだ。どうにもこうにも、にっちもさっちもいかないくらい人手が足りないらしいので。赤ボールペン片手に、しばしの間、ゲラと格闘。考えてみれば、人が作ったゲラをチェックするのはひさしぶりだ。

夕方、外苑前のギャラリーで開催中の牧野千穂さんの個展へ。パステルで描かれた繊細なタッチの原画を間近で眺めることができるのは、やっぱりいいなと思う。これまでに書籍の表紙などで使用された作品も素晴らしかったが、個人的には、現在鋭意制作中という絵本のために描かれた絵が特に気に入った。猫が浮き輪で宙に浮いているのが、何ともたまらない。この絵本、テキストは蜂飼耳さんが手がけられているとのこと。完成が楽しみだ。

ひさしぶりにBook 246をぶらぶらした後、夜は昔の職場の人たちと飲み会。青山にある「おやじ」というホルモン焼の店。店名のように豪放磊落な人が仕切っているのかと思いきや、店主さんは結構繊細な神経の持ち主のようで、注文した肉を出す順番から焼き方まできっちりマネジメントされていた。至極上品なホルモン焼をいただいたという感じ。まあ、僕みたいな人間には、李朝園みたいにテキトーにバンバン頼める方が気楽といえば気楽だけど(笑)。

やりたくないことは、やらない

二十代半ばの頃、僕は、とある旅行情報誌を制作している編集プロダクションで期間限定のアルバイトをしていた。当時の仕事の内容は、いろんな旅行会社から送られてくるディスカウント航空券の情報を一覧表に打ち込み、それを何度も読み合わせして校正してから、印刷所に入稿するというものだった。

ある日、その編プロの社員の一人が、「山本君にやってもらいたい作業がある」と持ちかけてきた。雑誌の各ページの欄外に小さな字で載せている、読者からハガキで寄せられる世界各地のちょっとした旅行情報のデータを整理してほしいのだという。

「わかりました。で、読者からのハガキはどこですか?」と聞くと、その人は僕に、ハガキの代わりに旅行業界誌のバックナンバーを何冊か差し出した。

「この雑誌から適当に情報を拾ってさ、読者のコメントっぽく作っといてよ。文章を書く練習にもなるでしょ?」

読者からのハガキなんて、編集部には一枚も届いていなかったのだ。十秒くらい考えた後、僕はこう返事した。

「すみません。その作業、僕にはできません」
「え? なんで?」
「僕は、そんな嘘は書きたくありません」

その人が怒るのを通り越して、口をぽかんと開け、呆れたように僕を見ていたのを憶えている。

あれからずっと、僕はどうにかこうにか出版業界の端っこにしがみつき、フリーランスで本作りの仕事に携わってくることができた。それはきっと、あの時のように「やりたくないことは、やらない」というスタンスを守ってきたからだと思う。

誤解されたくはないのだが、僕はそんなに仕事を選り好みする方ではない。それを必要としている人がいるのなら、地味で単調に思える仕事でも引き受ける。ギャラに関しても、最低賃金法を下回るレベルでなければ別にとやかく言わないし、どんなにタイトなスケジュールでも、それで依頼主の苦境が救えるのなら、できるかぎりのことはする。

でも、依頼内容があまりにも自分の信義に反していたり、最低限のクオリティを確保できないほどスケジュールやギャラがムチャクチャな条件だったりすれば、僕はきっぱり「できません」と答えることにしている。たとえ、拒否することでクライアントを一つ失ったとしても、まったく怖くはない。どのみち、そんな理不尽な要求をしてくるクライアントとの付き合いは長続きしないからだ。それよりも、理不尽な要求を受け入れて、自分が納得できないクオリティの仕事を手がけてしまう方がよくない。そんな仕事で、自分で自分の価値を貶める必要はない。

どんなに地味でも、自分が納得できるクオリティの仕事を一つひとつ積み重ねていれば、必ずそれを認めてくれる人が現れる。互いに信頼し合えるチームが自然とできていく。やりたくないことはやらないというのが、結局、フリーランスとして生き残っていく一番の秘訣ではないだろうか。

多忙につき

午後、所沢で取材。三鷹からだと国分寺経由で西武線を使って行けるので、意外と近い。取材はなかなか苦戦したが、どうにか乗り切る。

冷たい雨に降られながら帰宅し、風呂に入ってから、しばしの現実逃避に本を読む。‥‥が、52ページほど読んだところで、iPhoneにメール着信。今取り組んでいる案件の編集者さんから。先週納品した原稿の文字数を削る必要が出てきたらしい。電話をかけて、どこをどう削るかコンセンサスを取ってから、再び集中して作業開始。なんとか修正を終わらせて、メールで納品。ようやく今宵のビールにありつく。明日は、今日取材した分の原稿を書かねば‥‥。

‥‥こんな感じで、最近は、忙しいといえば忙しい。まあ、夏の間、ラダックくんだりで二カ月半もサボりまくっていたのに(苦笑)、またこうして仕事を依頼してもらっているというのは、ありがたいことだなと思う。でも、自分自身の企画も忘れてはならないなとも思う。新しい本の企画書は、もう三つくらい揃ってるんだけど‥‥。

興味のある版元の方は、ご一報ください(笑)。