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「料理人」としての編集者

ここのところ寝不足な日が続いていたので、昨日の夜は、10時間以上も寝た。でも、いまだに頭がしゃっきりしない。脳が、乾いたスポンジみたいにぱさぱさしている感じ。

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編集という仕事は、料理人の仕事に近いところがあるような気がする。自分の目利きで選びとった食材を、腕によりをかけ、心を込めて調理して、おいしい料理を読者の方にお出しする。自分で執筆や撮影までするなら、それこそ水田に稲を植えるレベルから手がけることになるが、基本的に編集の仕事は、目利きと調理に相当するのではないかと思う。編集者がそうして腕を振るうことができるのは、いい食材を丹精込めて育ててくれる、各分野のスタッフがいてくれてこそだ。

「これでおいしい料理を作ってください!」と、野菜や肉や魚を提供してもらえるなら、そりゃあ燃える。別に高級食材とかでなくても、持てる力を振り絞って、全力でおいしい料理を作る。でも、たまに‥‥まったく食材の目利きをさせてもらえないまま、「これ、とりあえず食べられるようにしてよ」と、生ゴミが詰まった袋をいきなり手渡されるような目にも遭うのだ。用意すべきものも、目指すべき目標も、根本的に間違っている。そういう依頼をしてくる人はたいてい、それが間違っているとは露ほども思っていない。

「とりあえず食べられればいいもの」を作るような仕事は、僕はやりたくない。

バナナの重鎮

午前中から、原宿にある知人の事務所へ。暑い。もうすっかり夏だ。言うまでもなくアウェイな竹下通りを、ホットパンツに生足の女の子たちが、ガシガシと闊歩している。

事務所で仕事をしていると、スタッフの女性の一人が、取材を申し込むための電話をかけはじめた。聞くところによると、とある仕事でバナナの歴史について調べているそうで、バナナの歴史に詳しい人にインタビューするのだという。

「はい、それで今、バナナの‥‥重鎮の方々に、お話を伺えればと‥‥」

重鎮かー(笑)。キーボードを叩きながら、思わず笑ってしまったが、もし、実際にバナナ界における重鎮というポジションの方々がいるのなら、何かすごいというか、楽しいというか。いいなあ、バナナの重鎮。

やがて綺麗な花に

朝から晩まで、ゲラチェック。

赤いゲルインキのボールペンを握りしめ、三種類のゲラを突き合わせながら、一枚ずつ、赤字を書き込んでいく。部屋の中は、デスクからソファからコーヒーテーブルに至るまで、そこらじゅうにゲラが散乱。修羅場と呼ぶにふさわしい光景(笑)。

夜中まで粘って、どうにか六割くらいのチェックを終える。目がショボショボして、これ以上は集中力は保たない。今日は、近所の中華料理屋に晩飯を食べに行った他は、ほんと、仕事しかしなかった。

でも、今、がんばって土を耕して種を蒔けば、やがて綺麗な花が咲くはず。まあ、派手でゴージャスな花にはならないだろうけど、きっと綺麗な花が。

ゲラは心を映す

午後、市ヶ谷で打ち合わせ。今作っている本の初校ゲラを突き合わせながら、出版社の編集者さんと打ち合わせ。会議室の貸切時間をオーバーするまで、みっちりと話し合う。

ゲラチェックは、雑誌の編集者だった頃からの馴染み深い作業だ。自分が作ったページを他の編集者さんにチェックしてもらったことも、数え切れないほどある。誰がやっても同じような作業と思われがちだが、ゲラへの赤字の入れ方には、その編集者の個性や人柄が如実に出ると思う。

印刷みたいに几帳面な字で書かれた赤字もあれば、ザザザッと勢いよく書き込まれた赤字もある。担当者への誠意が伝わるような丁寧な赤字であることがほとんどだが、たまに、明らかにこちらを見下しているような赤字を受け取ることもある。少しでも内容を面白くしようとあれこれ提案してくれた赤字をもらったこともあれば、たいして興味ないと言わんばかりに投げやりな赤字をもらったこともあった。ゲラに書き込まれた赤字は、編集者の心を映すのだ。

今日受け取った初校ゲラには、最初から最後までびっしりと、そして丁寧に赤字が書き込まれていた。いい本を作りたい。そう思ってくれていることが伝わってくるような赤字だった。

プロフェッショナルの条件

以前、「プロフェッショナル 仕事の流儀」で松本人志が取り上げられた時、「あなたにとってプロフェッショナルとは何ですか?」という質問に、彼は「素人に圧倒的な力の差を見せつけること」と答えていた。それは至極もっともな定義だと思う。

でも、最近の僕は、プロフェッショナルの条件について、こんな風に感じている。

やるべきことを、きっちりとやれること。

何か、いきなりハードルがものすごく下がったような気もするが(苦笑)、ここのところ、当たり前にやるべきことができていない取引先に遭遇することが多いのだ。再三確認したにもかかわらず、作業スケジュールが何カ月も遅れてしまうとか。依頼内容や使用範囲に比べて、報酬がありえないくらい安いとか。報酬の入金期日が守られないとか。制作中にトラブルが起こっても、まともに連絡もしてこないとか‥‥。

「素人に圧倒的な力の差を見せつける」ことを目指して働こうにも、その前に足元をすくわれてしまったら、こちらとしても、どうしようもない。かといって、「ま、いいか」と妥協してしまったら、自分の仕事をそのレベルにまで貶めてしまうことになる。ほんと、頭が痛い‥‥。

仕事の選り好みをするつもりはないし、相場より安いギャラでも我慢して、〆切もきちんと守る。だから、依頼する側も、当たり前にやるべきことを、ちゃんとやってほしい。ほんと、プロをナメるな、と思う。