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理不尽な仕打ち

何かが思うように進まなかったり、うまくいかなかったりして、ため息をつきたくなるような時、本棚にある色川武大の「うらおもて人生録」に手が伸びる。この本については前にも書いたことがあるけれど、今でも何か思い悩むたびにページをめくりたくなる本だ。

人間が持っている運は、プラスマイナスゼロ。15戦全勝で勝ちっ放しのまま終えられる人はまずいない。勝てる時にしっかり勝てる最低限の実力をつけ、8勝7敗あたりを狙って、9勝6敗にまで持って行けたら大成功、と戦後の賭場で修羅場をくぐってきた色川さんは書く。

自分自身をふりかえってみると‥‥やっぱり、とんとんくらいなのかな。同年代で会社勤めしてる人に比べればしがない収入で、しかも不安定なフリーランサー。その代わり、行きたい時にどこにでも行けて、好きなことを本に書けるという自由を享受している。社会的な立場の弱さからいろいろえげつない苦労もさせられるけれど、社内で逃れられない人間関係に振り回されるようなストレスはない。自分の名前で書いた本で、喜んでくれる読者の方がいてくれるのは、何物にも代えられない嬉しさだけど。

たぶん人はみな、プラスマイナスゼロの運の波間で、8勝7敗か7勝8敗のあたりの浮き沈みをくりかえしながら、懸命に生きているのだと思う。やるべきことを真っ当に積み重ねていけば、だいたいそうなるのだろう。最低限の積み重ねをせずに大負けをくりかえして人生を呪ってる人もいるが、それは実力からなるべくしてなった結果だと思う。

ただ、時に運は残酷なことをするもので、どう考えても理不尽な仕打ちを人に与えることがある。災害や事故に巻き込まれたり、別に不摂生でもないのに病に冒されたり。そういう話を聞くたびに気の毒に思うし、少なからずぐさりとくるものもあるが、同時にそれは、自分自身の弱さを見直すきっかけにもなる。それまで自分が抱えていた苦労や悩みなど、ちっぽけなものにすぎないのだと気づかされる。

自分にだって、いつ、そういう理不尽な時が訪れるかわからないのだ。やれる時に、やれることを、やる。最終結果がプラスマイナスゼロか、もっとマイナスになったとしても、それも実力と納得して、笑って終えられるように。

枯れゆく花

今日も南大沢で取材。三鷹からは遠いし、取材はむつかしいし、連日かなりしんどかったが、それもひと区切り。

駅からの帰り道、何となく、梅雨は終わったな、と感じる。道端に咲くアジサイの花が、少しずつ朽ちはじめていたから。たぶんこういうことは、気象庁の見解よりも、枯れゆく花の方が雄弁なのかもしれない。

で、今、天気予報のサイトを見たら‥‥明日から、猛暑? いきなりだなオイ。

雲間から射す光

朝から夕方まで、南大沢で取材。今日は三人の方に、合計で六本分の原稿を書くための取材をした。本数もそうだが、ジャンルの振れ幅も相当大きかったので、文字通り脳みそが煮えたぎるような状態(苦笑)。すべてを終えて帰りの電車に乗る頃には、もうよれよれだった。

イヤホンで音楽を聴くともなく聴きながら、席にもたれて呆然としていたら、ふいに窓の外の景色がひらけて、明るくなった。多摩川の河川敷にかかる鉄橋を渡る電車。西の空の雲間から、淡い光が射し込む。そのやさしさに、何だか少しだけほっとした気分になった。

まあでも、取材したら、その分、書かなきゃならないしな‥‥。先は長い。

ばっさり断ち切る

昼、南大沢で取材。今週は三日で五人に取材するが、一人につき原稿を二本作らなければならないので、十本分の取材ということになる。なかなかきつい。

実はというか何というか、再来週明けには飛行機でデリーに飛ぶことになっているのだが、少なくとも今のところ、そうした実感というか高まりみたいなものは、まったくない。完全に今までの日々の生活のリズムにはまったまま、あくせくといろんなことに追われている。

そういう惰性みたいなものにのっかっている日々も、普段はそんなに悪くないと思うのだが、それをばっさり断ち切って旅に出てしまう時間もまた、僕にとってはすごく大切なものだと感じている。あの、ひとりぼっちの、心細い時間。そこから始まる何か。そういうインプットがなければ生み出せないものもあるから。

まあでも、とりあえず、目の前の取材、そして原稿だ。

「感じ」をつかむ

終日、部屋で仕事。一昨日の取材二件分の原稿を書く。

仕事で依頼された原稿を書く時、割と大事だなあと思うのは、「感じ」をつかむということ。依頼内容に相応しく、自分の感覚的にも違和感のない、「こんな感じで書く」の「感じ」。具体的には文体や言葉の選び方、句読点の打ち方など、いろんな要素が絡むのだろうけど、自分の場合はそういうのをひっくるめて「感じ」をつかむことがまず必要だと思っている。

書き手が「感じ」をつかめていれば、その文章には統一されたトーンが生まれるし、たいていの場合、読みやすく、引き込まれやすくなる。書き手が「感じ」をうまくつかめずに手探り状態で書いた文章は、トーンがバラバラで、読みにくくなってしまう場合が多いと思う。

その「感じ」をどうやってつかむのか、自分の中ではまだうまく整理できていないのだけれど‥‥。書く前に頭の中でぐるぐる考えて、「感じ」のイメージを作るしかないのかな。