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良い知らせ

雪がちらつく、冷え冷えとした一日。出かける用事がなくて助かった。ずっと家に引き籠って過ごす。

今日は一つ、良い知らせが来た。今月末から、ある取材企画に裏方として協力するためにインドに行く可能性があったのだが、その取材許可がインド大使館から下りたのだという。現地での手配に必要な時間を考えるとギリギリのタイミングだったのだが、どうやら予定通りに行けることになりそうで、ほっとした。

‥‥まあ、行くなら行くで、あの国のことだから、いろいろ大変なことも待ち受けてるだろうし、インド行きによって他の仕事のスケジュールが一気に厳しくなるから、しんどいのは間違いなさそうだけど。ともあれ、これ以上無駄にインドに振り回される恐れはもうなくなったので、それだけは気が楽になったかな。

とりあえず、来週末からもいろいろあるので、うっかり体調を崩したりしないように、気をつけねば。

「地球の歩き方 タイ 2015〜2016」

arukikata_thai15昨年に引き続き、撮影とデータ取材の一部を担当させていただいた「地球の歩き方 タイ 2015〜2016」が、2月6日(金)頃から発売されます。今回の改訂版では、巻頭のカラーグラビアにあるタイ国内の世界遺産(アユタヤー、スコータイ、シー・サッチャナーライ、カムペーン・ペッ)の紹介記事で5ページ、タイ北部の町ラムパーンの紹介記事で4ページの写真と文章を提供しています。それ以外では、タイ中部と北部の章トビラの写真も。タイに行く予定がある人だけでなく、特に行く予定がない方も(笑)、書店で見かけたら一度手に取ってみていただけると嬉しいです。

リスクについて

十数年前、約半年をかけてアジアを横断する旅の途中、パキスタンのペシャワールに何日か滞在していたことがある。当時のパキスタンは今と比べるとまったく平穏な状態だったが、隣国のアフガニスタンは、タリバンの台頭に伴う内乱によって混迷を極めていた時期だった。

ペシャワールの安宿のドミトリーには、僕以外にも結構大勢の日本人旅行者が泊まっていた。彼らの間では、どうやったらペシャワールからアフガニスタンに入って戻ってこられるか、という話題でもちきりだった。カメラなどをいっさい持たない状態で入れば、途中でタリバンに捕まっても大丈夫らしい、とか何とか。彼らがアフガニスタンに行きたい理由は、単に怖いもの見たさの好奇心と、危ない国に行ってきたと周囲に自慢したい功名心でしかなかった。僕はそんな彼らの話を聞きながら、心底くだらない、と思っていた。

異国を旅したり、あるいは暮らしたりしていると、常にある程度のリスクがつきまとう。時にはどうにも避けようがない事態も起こりうる。ただ、常に用心深く行動して、冒さなくてもいいリスクを冒さないようにすれば、そうした確率をぐっと減らせることは間違いない。あの時、ペシャワールから物見遊山な気分でアフガンに行こうと話していた日本人たちは、まったく冒す必要のないリスクをわざわざ抱え込もうとしていた。

世界各地の紛争地帯で活動するジャーナリストたちは、その地で起こっていることの真実を伝えるという目的のため、リスクを冒してまでも危険な場所に赴く。ジャーナリストにも正直ピンからキリまでいろんな人がいるが、彼らは危険な状況下でも、彼らなりに最大限のリスクマネジメントをして、身の安全を図ろうとしている。それでも時には判断ミスをしたり、万全を期していたのにどうにもならない事態に巻き込まれたりすることはありうる。

心あるジャーナリストであれば、自分がリスクを冒して危険な地域に入った結果、危機的な状況に陥ってしまったら、それを非難されても仕方ないと思うだろうし、逆に聖人君主のように祀り上げられたら違和感を感じるだろう。常にそういう覚悟を持って取材に臨んでいる人は少なくないと思う。

ただ、さしたる覚悟も切実な目的も持たない人が、異国の地で、単なる油断と不注意によるリスクを冒し続けるのは、愚の骨頂だ。自分自身、あらためてそのことを肝に命じたいと思う。

「すごい写真」と「いい写真」

先日のトークイベントの時、「いい写真って何だろう?」というかなりアバウトなお題について、出演者の方々と少し話をした。それについて、その後も一人でちょっと考えてみたので、つらつらと書いてみる。

世間で「すごい写真」と捉えられがちなのは、見た目のインパクトやテーマの珍しさ、撮影時の設定や構図の完成度の高さなどで、「うわ、すごい!」と受け止める人が多い写真という気がする。一方、「いい写真」というのは、最初から問答無用に「すごい写真」と思われるほどインパクトが強くなくても、眺めているうちにいろんな想像をかきたてられたり、撮り手の気持がじんわり伝わってきたりするような写真が多い気がする。まあ、それも一概には言えないけれど。

インパクトや作品としての完成度は確かに「すごい写真」だけど、あまり深みを感じられないという写真は結構あると思うし、逆に、見ててじわじわくる「いい写真」だけど、技術的にちょっと惜しかったりする写真も多いと思う。趣味で撮ってる分には別にそこまで気にしなくていいんだろうけど、仕事でお金をもらう形で撮っている身としては、「すごくて、しかもいい写真」を目指さなきゃならないのも確か。なかなか難しいことなのだが。

僕自身、旅先で写真を撮る時は、あーでもない、こーでもない、と思い悩んで右往左往しながら、失敗に失敗を重ねつつ撮っている。あれこれ考えたところで狙い通りに撮れるとはかぎらない。でも、常に考えていなければ、いざという時に絶対に反応できない。失敗をくりかえすうちに、ふとした瞬間に、思いがけない形で、「これだ」と思える一枚が撮れることがある。その時の自分の気持を、すとんとそのまま素直に込めることができた写真。そういう一枚が、僕にとっては「いい写真」なのだと思う。

あの日から

昨日は、モンベル渋谷店での「撮り・旅!」トークイベント第2弾。会場はぎっしり満席で、毎度のことながら、自分が何をしゃべったのかろくに覚えてないほどあっぷあっぷの状態だったが、出演者のお三方にも助けられ、どうにか無事に終えることができた。終わった後、近くの居酒屋でやった打ち上げが本当に楽しくて(同業者同士だとやっぱり俄然盛り上がる)、終電間際まで、かれこれ6時間くらい飲み続けた。

去年の代官山でのトークイベントの時など、「撮り・旅!」関係で何か節目になるような出来事があるたびに、2012年の夏のあの日を思い出す。

その年の春に「ラダック ザンスカール トラベルガイド」を上梓した後、僕は次の具体的な目標を見つけられずに宙ぶらりんな気持のまま、スピティの山の中をしばらく歩いて旅してから、乗合ジープでマナリに来ていた。それまでずっと埃まみれの日々だったから、ヴァシシトでは僕にしては割といいホテルに泊まり、きれいなシーツのベッドでごろごろしながら映りの悪いテレビを眺めるだけで、他に何をするでもない、だらけた時間を過ごしていた。

そんな時だ。ふっと、旅と写真の本を作ろうかな、という考えが舞い降りてきたのは。それはもう本当に単純な思いつきで、そういう本があったら自分が読みたいな、というだけのものだった。でも、その思いつきが、帰国してしばらくしてから次第に形を成していき、出版社との一年に及ぶ交渉の後、本当にたくさんの方々から力をお借りできたことで、「撮り・旅!」という一冊の本になった。

ヴァシシトでごろごろしてたあの日のどうということのない思いつきが、これほど大きな流れになるとは、正直、予想もしていなかった。世の中、何が起こるかわからない。でも、この本を自分の力だけで作り上げたとはまったく思っていない。ただただ、周囲の人々に助けられ、背中を押してもらえたことで、どうにかここまで来られたのだと思う。

さて、次はどうするかな。実はもう、たくらみはあるのだけれど。