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「Finding Fanny」

Finding Fannyデリーから成田までの機内では、2時間以上の大作ばかり観ようとすると時間が足りなくなるので、短めの作品も一つ入れた。それが「Finding Fanny」。インド映画にしては一風変わった作品という前評判は聞いていた。

物語の舞台はゴアの田舎町。若き未亡人アンジーの隣の家に住む老人ファーディーの元に、40年以上前に投函した手紙が未開封のまま返送されてくる。それは当時、ファーディーが愛していたファニーという女性に結婚を申し込んだ手紙だった。アンジーはファーディーに、ファニーを探しに旅に出ることを提案する。その旅には、アンジーの亡き夫の母親ロージー、かつてアンジーに振られたことを未だに引きずるサヴィオ、ロージーを追い回す芸術家ドン・ペドロが加わり、オンボロ車に乗っての珍道中が始まる‥‥。

この作品、舞台が異国情緒豊かなゴアの田舎で、登場人物たちの台詞も大半が英語なので、いわゆるインド映画としての特徴は薄く、どちらかというとかつてゴアを植民地にしていたポルトガルなど南欧で撮られた映画のような雰囲気を湛えている。ディーピカやアルジュンをはじめ、俳優陣の演技も自然体でいい感じなのだが、作中至るところに埋め込まれたブラックユーモアが、僕にはどうにも笑えなくて、引っかかるものを感じてしまった。旅に出た意味があったの? それで納得するの? それでもってその結末? うーん、どうなんだろ、というのが正直な感想。確かに、インド映画とは思えないほど洒落た雰囲気の映画なのは間違いないのだが。

今までになく自然体で艶めかしいディーピカの演技を観たいという方にはいいかもしれないけれど、少なくとも猫好きの人は、やめておいた方がいいんじゃないかと思う(苦笑)。

「Highway」

Highwayデリーから成田に戻るエアインディアの機内で観ようと決めていたのは「Highway」。劇中歌のミュージックビデオをYouTubeで観て、この映画がキナウルとスピティでも撮影されていると知ってしまっては、見逃すわけにはいかない(笑)。

結婚式を目前に控えたヴィーラは、ある夜、家をこっそり抜け出してつかの間のドライブを楽しんでいた時、偶然ガソリンスタンドで遭遇した強盗団に拉致されてしまう。ヴィーラが有力な実業家の娘と知った強盗たちは彼女の処遇について言い争うが、一味の一人のマハービールはヴィーラを利用しようと、わずかな仲間とともに彼女を連れて逃亡の旅に出る。ある時、一行は警察の検問に引っかかってしまうが、ヴィーラはなぜか、トラックの荷台で警察から身を隠した‥‥。

誘拐された娘と誘拐した側の犯人が、逃亡を続けるうちにいつしか‥‥という筋書きは、割と予想しやすい展開なのかなとも思ったのだが、この「Highway」に関しては、ヴィーラがマハービールとともに逃げることを選ぶ、ある必然的な理由が隠されている。トラックで、バスで、そして徒歩で、インド各地を経巡る旅の中で、二人は互いをいたわりながら、徐々に心を通わせていく。だがその先には‥‥。

この映画、音楽もなかなか旅情を誘う素晴らしさで、キナウルからスピティへと抜けるバスの旅の時に使われていた「Kahaan Hoon Main」という曲は、僕が今年スピティで車に乗っている時もよくかかっていた。まあでも、ろくな装備も持たずにスピティから徒歩で山を越えて一気にカシミールまで行くのは絶対ムリ、というツッコミは一応入れておきたい。その山越えの道、自分で歩いたことがあるので(笑)。

やりきれない哀しみに満ちたロードムービーだけれど、車窓を流れるインド各地の風景と、アーリヤー・バットの迫真の演技を含め、一見に値する作品だと思う。

「Queen」

queen成田からデリーに向かうエアインディアの機内で観た2本目の映画は「Queen」。2015年のフィルムフェア・アワードを受賞した作品で、機会があればぜひ観なくてはと思っていた。

菓子店の箱入り娘のラーニーは、結婚式を直前に控えたある日、婚約者のヴィジャイから急に破談を言い渡される。突然の申し入れに呆然とする家族。ショックに打ちひしがれたラーニーは閉じこもって泣き暮れていたが、ヴィジャイと計画していたハネムーンのヨーロッパ旅行に、なぜかたった一人で行くと言い出す。あらゆることに慣れない海外一人旅で右往左往しながら途方に暮れるラーニーを、パリ、そしてアムステルダムで待ち受けていた出会いとは‥‥。

インドの伝統的な社会構造の中では、女性はともすると抑圧された立場に置かれてしまいがちだが、最近では、そうした女性が抑圧を跳ね返して自らを軽やかに解き放つ作品もインドで観られるようになってきた。日本でも公開されてスマッシュヒットを記録した「English Vinglish」(邦題:マダム・イン・ニューヨーク)はその典型的な例で、この「Queen」もそうした作品の系譜に連なるものだ。

主演のカングナー・ラーナウトは今のインド映画界きっての若手演技派女優で、コロコロ変わる豊かな表情と台詞、迫真のヨッパライ演技まで(笑)、観ていて本当に楽しい。個人的には、海外一人旅初心者あるあるネタが随所にちりばめられているのもツボだった。新鮮な旅の経験にもまれながら、ラーニーが一人の女性として、でも変にヨーロッパ文化にかぶれたりすることもなく、少しずつ自分自身を見つめ直しながら新たな一歩を踏み出す勇気を手に入れていくプロセスは、心に響くものがあった。意外なことに、日本に関するエピソードも織り込まれていたりする。

この作品、日本で公開したら必ずヒットすると思うんだけど‥‥またシネスイッチ銀座あたりで‥‥どうですかね?

「若さは向こう見ず」

yjhd日本の映画館のスクリーンで観ることを長い間待ち焦がれていた作品を、ついに目にすることができた。「Yeh Jawaani Hai Deewani」、邦題「若さは向こう見ず」。去年のIFFJでの上映時は観ることができず(というかその時期は毎年タイ取材なので)、このまままともに観られずに終わるのかとかなりやきもきしていたのだが、本当にようやく、念願が叶った。

勉強ばかりの生真面目な生活に飽き飽きしていた医学生のナイナは、街で会った高校時代の同級生アディティが参加するマナリへのトレッキングツアーに自分も行こうと思い立つ。そのツアーには、高校の頃から人気者だったバニーとその友達アヴィも来ていた。世界中を旅しながら生きていきたいと語るバニーの自由奔放さに、振り回されながらも惹かれていくナイナ。しかしバニーは、3週間後にインドを離れてアメリカに渡る決意を固めていた‥‥。

物語の主軸はよくできたおとぎ話のようなラブストーリーなのだが、それと同時に、前半はナイナが一人の女性としての自分に目覚めて解き放たれていく物語、後半は世界を旅し続けてきたバニーがそれまで見過ごしていた大切な何かに気付いていく物語と、二人をはじめとする登場人物たちの成長を見守る物語にもなっている。各場面の描写は丁寧で美しく、台詞も気が利いていて、時にぐっと心に刺さる。個人的には、それまでほとんど出番のなかったバニーのお義母さんが終盤になって彼に語った台詞が、いろんな意味で自分自身にもシンクロする部分があって、かなり泣けた。

ヒット曲揃いのダンスシーンも、ここ数年来のインド映画の中では抜群の出来。最初から最後まで存分に浸って楽しんで、すっきりした気分で映画館を後にできる作品だ。スクリーンで観ることができて、本当によかった。

つかのまの日本

昨日の朝、2カ月ぶりにインドから日本に戻ってきた。

今年のインド滞在は、大小いろんな仕事が入り乱れていて、あれやこれやとあたふたしてるうちに、いつのまにか終わっていたという印象。出発前には心配事がたくさんあったし、実際に渡航してからも、特にスピティでありとあらゆるトラブルに見舞われたのだが、最後の最後でツキに見放されずに、どうにか乗り切ることができた。そういう意味では、今年もソデチャン(ツイてる人)でよかったなあと思う。

で、ひさしぶりに日本に帰ってきたのはいいのだが、10日後には再び日本を離れることになってしまった。プレスツアーに同行しての取材で、南アフリカに10日間。そのツアーから戻ってきた後、10月初旬からは、毎年恒例のタイ取材に4週間。何が何だかわからないうちに、このまま2015年が終わってしまいそうな気配だ。

今も南アに出発する前にやらなければならない仕事が山積なのだが、とりあえず深呼吸でもして、目の前のものに一つずつ、確実に取り組んでいこう。