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バックパッカーとは何か

二十代の頃から、僕はあっちこっちの国をふらふらと旅してきた。そういう話を人にした時、「あ、じゃあヤマタカさんは、バックパッカーなんですね!」と言われたりすると、ちょっともじもじした気分になる。

そもそも僕は、自分はバックパッカーなのだと意識したことがほとんどない。バックパッカーって、何なのだろう? 世の中には、それが何か特別な存在であるかのように定義する人もいる。でも、僕からしてみれば、バックパッカーというのは「荷物をバックパックに詰めて、主に海外を旅している人」というくらいにしか思えない。強いて付け加えるなら、「パッケージツアーを利用せず、主に自分自身の力で手配をして旅している人」くらいだろうか。

バックパッカーになって旅をすること自体は、別に特別でも何でもない。それで誰かを助けたり、何かを生み出したりしているわけではないのだから。旅を通じて得た経験を、誰かのために役立てることができるかどうかは、その後のその人の生き方次第。すっかり無駄にしている人も、もしかしたらいるのかもしれない。僕自身、その経験を今に活かせているかどうか、自信はないけど。

だから僕は、「ヤマタカさんって、バックパッカーなんですね!」と言われたら、否定してしまうわけにもいかないので、「あ、そんな大層なもんじゃないんで、ほんとすみません」と謝ることにしている(苦笑)。

ここではないどこかへ

終日、部屋で仕事。肩凝りも昨日よりはかなり楽になって、執筆に集中できるようになった。草稿は、全体の約半分くらいにさしかかったところ。

日がな一日机に向かっていると、例によって、どこか旅に出たい‥‥という気持がもやもやと湧いてくる。「何言ってんの、毎年のようにラダックに行ってるじゃん!」と言われそうだが、僕にとってラダック行きは、旅というより‥‥帰省みたいな感じ(苦笑)。知らない国の知らない街に行って、おろおろ右往左往してみたい。愉しいんだよなあ、右往左往するの(笑)。

でも、海外への旅とはいかなくても、自分をすぱっと切り替えられる旅はできるような気がする。国内にだって行ったことのない場所はたくさんあるし、登ってみたい山もたくさんある。忙しくても、時間は作ろうと思えば作れるわけだから、今年はもうちょっとそういう上手な時間の楽しみ方にトライできれば、と思う。

行ってみたいな、ここではないどこかへ。

連絡先の交換

僕が初めて一人で海外を旅したのは、22歳の時。その頃は、旅先で知り合って仲良くなった人がいると、帰国した後にやりとりするために、お互いの住所と電話番号を交換したものだった。それで、旅先から絵ハガキを書いて送ったりもしたっけ。何しろ当時は、インターネットなんてほとんど使われていなかったから。

30歳の時に半年間のアジア横断の旅をした時は、連絡先として交換するのは、名前とフリーメールのアドレスに変わっていた。それでしばらく互いの状況をメールで知らせて、別の街で再び合流できそうなタイミングがあれば連絡を取って落ち合ったり。昔に比べればずいぶん便利になったけど、旅先で偶然に再会する喜びは、ちょっぴり削がれたような気もした。

そして最近は、メールアドレスだけでなく、「Facebookでフォローしてもいい?」とも訊かれるようになった。今では、インドやヨーロッパにいる知り合いとも、ほとんどリアルタイムでやりとりできる。確かに、コミュニケーションの距離感はものすごく近くなった。でも、何か味気ない気がしないでもない。

異国の切手が貼られた絵ハガキを受け取っていたあの頃の方が、やっぱり嬉しかったな、何となく。

ロストバゲージ

10月初旬、ラダックでの取材を終え、飛行機でレーからデリーに向かう時のこと。

レーの空港でチェックインする時、僕が手荷物で持ち込んでいた手提げ袋が、セキュリティチェックで引っかかった。その中には、お土産に買ったナチュラルソープが1ダースほど入っていたのだが、担当者曰く「固形石鹸は機内に持ち込めません」とのこと。‥‥あんないい香りのするものが、プラスチック爆弾に思えるのだろうか(苦笑)。ジェットエアウェイズのキャビンアテンダントが預かって運んでくれることになったので、僕は言われるままに石鹸を別の袋に入れて渡すことにした。

飛行機は一時間ほど遅れたものの(この路線では日常茶飯事)、約一時間後、デリーに到着。きらびやかなターミナルに降り立った僕は、自分のバックパックを引き上げた後、別に預けていた石鹸を受け取るため、バゲージエンクワイアリーのカウンターに行ってそのことを告げた。

10分経ち、20分経ち、30分経ち‥‥我が石鹸は、いっこうに出てくる気配がない。で、40分後。男の担当者がおもむろに「残念ながら、あなたの手荷物はロストしてしまいました。つきましては‥‥」としおらしく言いはじめた。

ちょ、ちょっと待て。たった一時間のフライトで、そんな簡単にロストバゲージするのか? 石鹸といっても、合計で1000ルピー近くも払って買ったものだ。あきらめるわけにはいかない。

「あなた方の会社のキャビンアテンダントに直接渡したんですよ。まだ機内に置いてあるんじゃないですか? もう一度、探してきてください! すぐに!」

で、さらに20分後。「見つかりました。機内に残ってました。機内にはこういうものは持ち込めませんので、以後気をつけてください」

あー、やっぱりね(苦笑)。「ゴメンナサイ」のひとこともないけれど、まあ、見つかっただけましだった。あきらめなくてよかった。ジス・イズ・インディア。

移動か、それとも沈没か

昨日は、日帰りで鎌倉に遊びに行った。前から行ってみたかったカフェ・ヴィヴモン・ディモンシュでオムライスとマンデリンを堪能し、晩秋の海辺をぶらぶら歩き、夜は旅音の林澄里さんと本田あまねさんのトーク&スライドショーに参加。写真と絵と音楽と楽しいおしゃべりで、異国の安宿のロビーでくつろいでいるような気分になった。

そのトークの中で、旅人の行動パターンが「移動型」と「滞在型」(またの名を沈没型)の二つに大きく分かれるという話が出た。林さんは移動型で、気に入った街でもだいたい三日で次の街に移動するのだという。

で、自分はどうかなあ、と思い返してみると‥‥やっぱり僕も移動型で、二、三日で次の街に向かってしまうことが多かった。ただ、いったんその街が気に入ってしまうと、一、二週間くらいは平気で居座ってしまうこともあった。見どころが多いか少ないかは関係なく、おいしいごはんが食べられる場所と、気持よく散歩したりできる場所があれば、僕にとっては十分だった。

そういう意味では、ラダックを気に入って足かけ一年半も居座り続けてしまった日々は、壮大な沈没だったと言えなくもない(笑)。