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キャンプ・デナリのメッセージ・ノート

この間のアラスカ旅行でキャンプ・デナリに滞在していた時、父の友人だったご夫妻が「うちのキャビンにあったメッセージ・ノートに、章二さんが書いた文章が残っていた」と知らせてくれた。両親は三年前に一度、キャンプ・デナリに泊まったことがあったのだが、母も、父がこんなものを書き残していたとは知らなかったという。

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31〜4/8〜9/2009(4泊5日)

私たち夫婦は定年退職後、世界のあちこちに旅をし、その度に素晴らしい景色や忘れられない体験に出会ってきましたが、ここアラスカ・デナリの秋の旅ほど素晴らしいものはなかったように思う。今日は快晴、朝焼けのマッキンレーから充分に堪能しました。ワンダーレイクの先のバートレイルのトレッキングは、逆光・斜光に輝くアスペンやブルーベリーの黄や赤越しにマッキンレーに向かっていきました。連山は雲の腰帯を巻き、時には鋭い雪嶺が雪を吐いたりしていました。マッキンレー川の広い河原のランチも嬉しいことこの上ない。標高6194m、麓からそびえる高さ5500mは世界一と聞く。何だ! この堂々たる巨大な山塊は。文句なしに威風堂々。

アラスカの山野は意外と女性的で、また湿潤だという印象を受けた。フェアバンクスからデナリまでの列車の旅で充分に黄葉を楽しんだが、デナリの駅から当ロッジまでのバスの旅の車窓風景が何とも素晴らしかった。山岳地帯に広大な河原や湿原(ツンドラ)が続き、野生動物が生を営む姿も見える。カリブー、グリズリー、ビーバー、ムースなども近くに見つけられた。そして、これがアラスカだという印象が日に日に濃く詳細に形成されていく実感がある。

今日でトレッキング3日目。これまでトレッキング・ロードにただの一片のゴミさえもなかった。なんと立派なことか。わが国民は真似ができまい。ロッジのサービスも十二分に満足している。まるで貸別荘のような居心地のいいロッジから、この美しい秋の光景を楽しんでいる。そして美味しい食事。もうすっかり日本のわが家の暮らしも忘れてしまいました。今夕は、夕焼けのマッキンレーが見られるかもしれません。

明日はアンカレッジ、そして、カトマイに行きます。今秋、最高の旅を有難う。デナリ・ロッジよ、アラスカよ。

JAPAN 岡山 山本章二、美枝子

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父のこの文章について、僕が語れることはそう多くない。ただ、言えるのは‥‥父が僕に望んでいるのは、彼ができなかった生き方を、僕がやる、ということだと思っている。

極光の記憶

この間のアラスカ旅行で、二週間の間に二度、オーロラを見た。オーロラ見物が目的のツアーに参加したのに一度も見られなかったという人の話もよく聞くし、同行した僕の母も三度目の北極圏付近への旅行で初めて見たというから、僕は運がよかったのかもしれない。

初めて目にしたオーロラは‥‥今までの人生で目にしてきた、どんなものとも違う領域にある存在だった。雲や雨のように地球の営みに密着した存在でもなく、太陽や星のように宇宙の永遠を感じさせる存在でもない。音ひとつたてず、大気をそよがせもせずに、遥か高空で弾ける光の奔流。とてつもなく巨大で、鮮やかで、激しく、そして儚い。その圧倒的な美しさに、僕は魅入られると同時に、ある種の畏れを感じた。もし、この得体の知れない極光の輝きをずっと眺め続けたら、僕は気が狂ってしまうのではないか、と。

時にオーロラは、空一面に爆発的に広がる「ブレークアップ」という現象を起こすことがあるという。もし、冬のツンドラの中で一人立ち尽くしたまま、そんな凄まじい光景を目にしたら、どんな気持になるのだろうか。

谷に吹く風

ひさしぶりに、ブログをプチリニューアル。ヘッダの写真を変えてみた。スピティの、キー・ゴンパ。

この写真を撮った時は、ちょっと手間取った。当初は、トレッキングの出発地点でもあったこのキー・ゴンパまでジープをチャーターして移動し、ここでゴンパの撮影をした後に何日かトレッキングを行い、帰りは別の村からローカルバスでカザに戻るという計画だった。ところが、キー・ゴンパに着いた時は、あいにくの曇天。写真は撮れなくはなかったが、どんよりとして面白味に欠ける絵柄だった。

で、ガイドのタンジン(テンジンという名のスピティ流発音。ラダックではスタンジンと発音する)と相談して、帰りに天気がよかったら、バスを途中下車してもう一度キー・ゴンパに行って撮影をし、そこからどうにかしてカザに戻ろうと決めた。なぜだかわからないが、このゴンパの写真は、それだけの手間をかけてもしっかり撮る価値があると感じたのだ。

結果は、ごらんの通り。焦点距離12mm(35mm判換算で18mm)のレンズで、スピティの谷に屹立するゴンパを気持よく捉えることができた。考えてみれば、ここまでワイドな画角でうまく画作りできるゴンパって、ラダックには意外と少ないかもしれない。この日も晴れていたのは朝の数時間だけで、昼にはまた曇り空になってしまった。ツキにも助けられた。

今年の夏のスピティでは、ほかにも割と納得のいく写真が何枚か撮れたのだが、次に作る本のことなどもあるので、しばらくは出し惜しみしようかな、と思う。

日常への帰還

日本に戻ってきて、一週間が過ぎた。今年の夏は、ラダックとスピティで二カ月弱ほど取材をして、いったん帰国してからまたアラスカに行ったりしてたから、ずっと旅ばかりしていたような気がする。

戻ってきたばかりの頃はなかなかネジが巻き戻らなくて、鍵を持つのを忘れたまま外に生ゴミを出しに行って、オートロックに阻まれてしばらく立ち往生したりという、いつもなら考えられないようなポカをやらかしたりした(苦笑)。そういうズレも、ようやく埋まってきただろうか。

来週からはまた、取材やら打ち合わせやらの日々が始まる。10月と11月には、ラダックをテーマにしたトークイベントをやることも決まった。自分の新しい書籍の企画も、そろそろスタートさせなければならない。旅の空気から完全に抜け出すには、もうしばらくかかりそうだけど。

アラスカ(6):ケチカン

アラスカを発つ前日、南東アラスカの小さな町、ケチカンを訪れた。ハイダ族やトリンギット族など、トーテムポールの文化を持つ先住民族が周辺に数多く暮らしている町だ。ツアー一行とともに訪れたトーテムポール博物館では、各地から蒐集された古いトーテムポールが展示されていた。本当なら、野ざらしのまま朽ちていくべきなのが、トーテムポールなのだけれど。