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優先席

午後、向ケ丘遊園近辺で取材。空はどんよりと曇っていて、行き帰りに昨日みたいなとんでもない雷雨に降られやしないかとヒヤヒヤしたが、どうにか持ちこたえてくれて、ほっとする。

帰り道、下北沢から井の頭線の各駅停車に乗り換え。車内は割と混んでいたが、たまたま目の前の席が空いて、すぐに坐れた。

永福町のあたりで、白髪の老夫婦が乗ってきた。車内をきょろきょろと見回しているので、優先席も塞がっているのだな、と立ち上がって席を譲った。ドア付近で壁に寄りかかろうと移動した時、その反対側にある優先席を見て、驚いた。塞がってるのは塞がってるのだが、年配の人はたった一人だけ。あとはみんな、二十代かそこらの若い人たちばかりだったのだ。

そもそも、そんな若い人たちが優先席を占拠してるのにもびっくりだし、年配の人たちが乗ってきても、みんな席を譲る気配すら見せないのにもびっくりした。以前にも一度、井の頭線で意図的に席を譲ろうとしない人を見かけたけど、今回はさらにひどい。どうなってるの、井の頭線?

何というか、同じ東京に住む人間として、心底恥ずかしいよ、ほんと。

お鉢が回る

午後、南大沢で取材。大学案件では三、四週間ぶりくらい。

六月に入ってから今回までの間にも何件か取材はあったそうなのだが、それには依頼元が新しく契約したライターさんを起用していたそうだ。今日は最先端系のややこしめのテーマの取材だったので、僕にお鉢が回ってきたらしい。いや、何度も言うけど、僕もコテコテの文系なのだが(苦笑)。

苦労しつつもどうにか原稿四本分の取材を終え、片道一時間の電車に揺られて帰路につく。吉祥寺で降りて、リトルスパイスでアジアンレッドカレー。辛味で火照った首筋に、夕方の風が気持いい。

夏至を過ぎて、一年も折り返し。あっという間だな。

三鷹の雹

昼を過ぎてしばらくした頃、部屋の窓から外を見ると、空が真っ暗。遠雷が次第に近づいてきて、雨粒が窓ガラスや外の生け垣を激しく叩きはじめた。

それでもまあ、夏によく降る夕立のようなものかなと思っていたし、実際1、2時間ほどで小止みになったのだが、ネットで流れてきたニュースを見て、驚いた。うちからほんの少し南、三鷹から調布にかけての一帯で、大粒の雹が降りまくって、あたり一面が銀世界になるほど積もってしまったのだという。その気になればすぐ歩いていけるくらいの距離なのに、何という落差だ。

心配なのは、あのあたり一帯の農地で栽培されている野菜や果物。かなりのダメージを受けているのは想像に難くない。よりによって、なぜそこに‥‥。自然は時に、残酷な仕打ちをする。

関口良雄「昔日の客」

sekijitsuずいぶん前に買った本だ。仕事机の脇にあるスライド書棚の一番目立つ場所に挿しておいたのだが、ずっと手に取れないでいた。億劫というのとは、むしろ正反対の気持。せわしい仕事の合間とか、悩みごとで心がざわざわしてる時とかに読んでしまいたくなかった。穏やかな気持でいられる日に、他の何にも邪魔されずに静かにページをめくりたかった、とっておきの本たちの中の一冊だった。

昔日の客」は、かつて東京・大森にあった古書店、山王書房の店主、関口良雄さんが生前に書き溜めていた随筆をまとめた本だ。長らく絶版になっていたこの本を2010年に夏葉社の島田さんが復刻させたことは、当時かなり話題になった。生前の関口さんは尾崎一雄さん、上林暁さん、野呂邦暢さんといった名だたる文学者たちとも深い交流を持っていたそうで、実家が近くにあった沢木耕太郎さんも、若い頃によく山王書房に足を運んでいたと「バーボン・ストリート」に書いている。

この「昔日の客」では、数々の文学者の方々との交流はもちろん、お店にふらっと現れては思い思いの古本を買っていくお客さんたちの横顔や、遠い昔の父親の死や淡い恋の記憶などが、控えめでありながら深く、時にユーモアを湛えた文体で綴られている。何よりも、主役は「本」なのだ。本がすべての人々を、どこかで結びつけている。登場する一人ひとりの、そして関口さん自身の本に対する愛着には、読みながら幾度も胸に込み上げるものがあった。

本は、時に人と人とを出会わせたり、届かないはずの思いを伝えたり、ちょこっと人生を変えたりする。幸運にも僕は、本を作るという仕事に携わらせてもらっている。あらためて誇りに思うし、これからも気を引き締めて、一冊々々、少しでもいい本を作る努力を積み重ねていかなければ、とも思う。

願わくば、往時の山王書房を訪れてみたかった。

取材ノート

昼から南大沢で取材。家を出た時はやたら暑かったけど、現場に着いたとたん、雷鳴とにわか雨。取材を終えて外に出る頃には、嘘のようにまた晴れ上がっていた。

三月末に買って使いはじめた取材ノートを、昨日までの取材で全ページ使い切ってしまった。結構分厚いノートだったのに‥‥それだけ先月と今月に取材が集中してたということか。今、ぱらぱらめくって読み返してみると、ひどい殴り書きの連続で、僕以外の人には暗号文にしか見えないと思う(笑)。

最近は、取材の時に紙のノートではなく、ノートパソコンを使ってメモを取るライターの方も多いそうだ。人それぞれ、一番やりやすい方法で取材すればいいと思うけど、僕は昨日も書いたようにクラシックなので(笑)、未だに紙のノート派だし、たぶんこれからもずっとそうだと思う。理由は‥‥慣れているからというのが一番だけど、取材の時に相手と自分の間にパソコンを置いてキーボードをパチバチ叩いていると、それが相手との障壁になってしまいそうな気がして。あと、紙のノートは臨機応変に融通が利く。急に歩きながら取材することになってもメモが取れる。フリーズやバッテリー切れの心配もないし。

新しい取材ノートは、さて、何カ月もつだろうか。