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柴田元幸先生の朗読会

昨日は、梅屋敷の書店、葉々社さんの主催による、翻訳家の柴田元幸先生の朗読会に参加してきた。

柴田先生が登壇されるイベントに参加するのは、これが初めて。一年前に亡くなったポール・オースターの作品の中から、先生が訳出中の『バウムガートナー』や『燃える若者 スティーヴン・クレイン評伝』で印象的な部分の朗読があり、初期作品の『ガラスの街』『幽霊たち』『ムーン・パレス』からの朗読もあった。時に手をふりかざしながら朗々と読み上げる先生の声が、本当に素晴らしくて。先生の手がけた訳文が、それだけ吟味され、磨き込まれていることの証明でもあると感じた。

最後に、『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』を朗読していただけたのも、嬉しかった。僕は映画『スモーク』を映画館で観たのをきっかけに、オースターの本を一冊また一冊と読み耽るようになった人間だったから、なおさら。良い時間だった……。有難うございました。

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アルド・レオポルド『野生のうたが聞こえる』読了。米国ウィスコンシン州を中心とした四季折々の自然と動物について綴った美しいエッセイと、土地倫理という考え方に基づく自然との関わり方の提唱とで構成されている。80年近く前に出版された本だが、少しも色褪せておらず、今の時代にも通じる理念を学べる、名著だと思う。

冬の高水三山


日々せわしないながらも、半ば無理やりに時間を作り、日帰り山歩きに行ってきた。今回の目的地は、奥多摩方面にある高水三山。軍畑駅を出発し、高水山、岩茸石山、惣岳山の三つの山を縦走し、御嶽駅に下りるルートを歩いた。西荻からは中央線と青梅線ですんなり往復できるので、アクセスは意外といい。


高水三山を歩くのは、実は二度目。最初に歩いたのは……2012年の6月(このブログで検索して調べた)。あの時は、曇っていて蒸し暑くて、登山道の左右に鬱蒼と草が茂っていた記憶がある。冬に来たのは初めてだったが、そこまで寒くもなかったし、トレイルには残雪やぬかるみもなく、歩きやすかった。


高水山の山頂の手前にある、常福院不動堂。軍畑駅からここまで、約1時間15分。主な登り行程はここまででほぼ終わり、あとは尾根と下りになる。


高水三山は、いずれの頂上も眺望はそこまで開けていなくて、登山道も大半は針葉樹林の中にある。絶景を求める人には向いていないかもしれないが、個人的には、こういうひなびた低山に何となく惹かれる。高くて眺めのいい場所に登るだけが、山歩きの楽しみというわけではないのだし。

今回のコース全体での所要時間は、ちょうど4時間。13年前に歩いた時も、ちょうど4時間だった(とブログで書いていた)。僕もそれなりの年齢のおっさんだが、13年前と同じタイムで普通に歩けているのには、正直、ちょっとほっとした。

新しいバックパックで


書籍の作業が少し落ち着いたので、今日は平日休みにして、今年初の山歩きへ。おなじみの陣馬山から高尾山までの縦走コース。空は、完璧なる快晴。数日前の雨でトレイルはぬかるんでるかも、と思っていたが、明け方に氷点下まで下がった冷え込みのおかげで、湿った地面のほとんどは凍って霜柱になっていた。

ざくざくっ、と靴が霜柱を踏む音。コココココッ、とキツツキが木の幹をつつく音。時折、尾根の上を、氷のように冷えた風が吹き抜ける。冬の低山ならではの心地よさだな、と思う。こういう気候が、やはり性に合うのかもしれない。

昼も夜もカレー


ここしばらく、ずっと集中して取り組んできた、新刊の原稿の推敲にもだいたい目処がついたので、昨日は一日オフにして、都心をぶらついてきた。

まずは恵比寿に行って、以前から気になっていたソルティーモードというネパール料理店で、ダルバート。シンプルだけど、感動的なうまさ。自分的ダルバートランキングのトップに躍り出た感がある。その後は代官山蔦屋書店や、好きなアパレルブランドの店を巡り、ヴェルデで深煎りコーヒーとベイクドチーズケーキ。安定の味と居心地で落ち着く。

恵比寿から渋谷と表参道を経由して、外苑前まで歩き、牧野千穂さんの個展を拝見する。どの作品も、目にした瞬間、理屈抜きで心が震える。感動するというのは、こういう感覚なのだな、とあらためて思う。自分自身の仕事にとっても良い刺激になった。

外苑前から新宿に出て、自転車用のヘルメットを新しく買い、その後は高田馬場へ。スリランカ料理店のアプサラで、ライオンスタウトをぐびぐび飲みつつ、スリランカカレーのバナナリーフ包みを堪能。昼も夜も、カレーをがっつり食べてしまった。まあいいか。19日は誕生日だし。

満ち足りた午後


およそ一年ぶりくらいに、相方と二人で、深大寺に蕎麦を食べに行った。

三鷹からバスに乗り、終点で降りて、すっかり覚えた道を歩いて、ここで行きつけのお店、玉乃屋さんへ。店の前には結構な長さの行列ができていたけれど、席数が多い上に回転も早いので、そんなに待たされることもなく、敷地内の屋根なし席の端っこに、首尾よくすべり込むことができた。空は清々しい快晴で、見上げると、真っ赤な紅葉の梢が広がっている。

深大寺ビールと天ぷらの盛り合わせ、相方はにしん蕎麦、僕は鴨田舎を大盛りで注文。この日あたりから新蕎麦に切り替わったそうで、口に含んだ太めの十割蕎麦は、驚くほど爽やかでみずみずしい味だった。去年も同じような写真を載せたのだが、あまりにも美味かったので、また載せてしまおう。

何というか……言葉にするのが難しいくらい、満ち足りた午後だった。人によっては、どうということのない時間なのかもしれない。けれど、そういう何気ない時間を、近しい人と分かち合いながら過ごせることは、とても恵まれているし、稀有なことなのだとも思う。そうしたことが当たり前ではない土地は、世界中にたくさんあって、今も刻々と広がっている。

また、蕎麦を食べに来よう。