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「ヒンディー・ミディアム」

2017年にインドで公開されてスマッシュヒットを記録し、海外でも高い評価を得た映画「ヒンディー・ミディアム」。日本でも9月6日(金)から公開されることになったのだが、ひと足先にマスコミ試写で拝見してきた。

デリーの下町育ちのラージは、身一つからの叩き上げで婦人服店の経営を成功させた。今は妻のミータと娘のピアとともに幸せに暮らしているが、目下の悩みは、ピアのお受験。経済的には問題ないけれど、学歴が低く英語も苦手な二人は、娘を英語教育の受けられる一流の私立校(イングリッシュ・ミディアム)に入学させたいと考えている。滑稽なほど熾烈なお受験競争に右往左往するラージは、とうとう書類を偽造までして、貧困層の子供向けの優先入学枠を狙うのだが……。

インドの学校は、全国津々浦々にある公立校のほか、大都市などにある私立校がある。特に有名私立の一貫校は、入学できれば将来が約束されたも同然になる(と考えられている)ので、ものすごい倍率での競争が繰り広げられる。この映画で描かれているお受験狂騒曲も、実はそこまで誇張された表現でもないのだという。現代インド特有の階層社会や教育制度のこじれた部分を浮かび上がらせつつ、それらを物語にうまく織り込んでコミカルに仕上げた脚本が秀逸。主演のイルファーン・カーンの力の抜けたトボけた演技(でもキメる時はキメる)も、作品全体に安定感をもたらしていた。

インド人と英語というテーマの作品だと、最近では「English Vinglish」(邦題「マダム・イン・ニューヨーク」)がすぐに思い浮かぶし、教育に関しては言わずもがなの「3 Idiots」(邦題「きっと、うまくいく」)や、同じくアーミル・カーンの「Taare Zameen Par」(邦題「地上の星たち」)など多くの作品がテーマとしている。人間一人ひとりの持つ本来の価値は、学歴や収入や社会的地位などに囚われないところにあるはずだ。この「ヒンディー・ミディアム」も、そうした当たり前のこと、でも多くの人々がともすれば見失いがちなことに、あらためて気付かせてくれる。

10連休への違和感

日頃からフリーランスの立場で仕事をしている自分にはいまいちピンとこないのだが、世間では明日からゴールデンウイークが始まる。今年は、政府が何だかんだと休日を付け足して、10連休になっているのだそうだ。

休日が増えたと喜んでいる人もいれば、職種の都合でまったく休めないという人もいる。行楽地は混雑するだろうし、普段の生活圏で休む店が多いと不便なこともあるかもしれない。そんな中で、僕が以前から個人的に違和感を感じているのは、「そもそも、休日以外に休みたい時でも、それなりにまとまった期間の休暇が異様に取りにくい日本の風潮って、何なの?」ということ。休日だから休んでいい、そうでない時は休んじゃダメ、という全員右へ倣え的な慣習に囚われているのが、アホらしくて。

定時に帰ると、なぜか「真面目にやれ」と怒られたり。逆に建前上は残業禁止なのに、膨大な量の仕事を押し付けられて、家に持ち帰ってやらざるを得なかったり。有給休暇の権利をもらっても、それを行使するのがはばかられる雰囲気が職場にあったり。

こういうことに関する日本での「当たり前」は、他の国々ではまったく「当たり前」ではない。ほんと、バカバカしいな、と思う。

正義の在処

今の日本という国からは、正義というものが、刻々と失われつつある。

政治家たちは息を吐くように嘘をつき、バレても何の責任も取ろうとしない。警察も検察も司法も、首を傾げたくなるような所業を繰り返している。それらにマスメディアは目をつぶり、くだらないニュースしか流さない。以前は「これは間違いなく正しい」と当たり前のように思えていた社会の中の基準が、ことごとく揺らいでいる。

今は、誰かや何かを盲目的に「間違いなく正しい」と信じることが、危険な時代になってしまったのだと思う。真実はどこに、どんな形であるのか。それは、いくつもの客観的な事実を突き合わせて、自分たちで確かめるしかない。正義の在処は、本当の意味での真実を確かめたその先にある。

面倒なことは、さっさと

昨日は午後から渋谷方面で、打ち合わせの予定が2件。どうせ出かけるなら朝イチで家を出て、午前中のうちに面倒なことをさっさと終わらせておくことにした。

面倒なことというのはもちろん、確定申告。1月にインドに出発する前に泣きながら準備しておいたかいがあって、帰国した後、留守の間に届いていた支払調書と帳簿を突き合わせても、数字はピタリと合っていた。なので、このまますぐに税務署に行ける、と思ったのだ。

荻窪税務署の申告会場がオープンする少し前に列に並び、第二陣くらいのタイミングで中へ。決算書類に粛々と数字を記入し、パソコン入力コーナーでも粛々とデータを入力。問題なく手続きを終え、印刷してもらった書類一式を支払調書などと一緒にまとめて投函。ふー、片付いた。

毎度のことながら、確定申告を終えた後の、何ともいえない解放感。おひるに旅人の木で食べた油そばのうまかったこと。これで、もう少しちゃんと儲かっていたらいいんだけど(苦笑)。

「Newton」

タイ取材のために羽田を飛び立って、台風24号の暴風の余波に揺れる機内で観たのは、インド映画「Newton」。「クイーン」などで独特のトボけた味の演技を見せている個性派俳優、ラージクマール・ラーオの主演作。海外の映画祭などでも話題になっていた作品だったので、観てみることにした。

舞台はインド中部チャッティースガル州のジャングル地帯。毛沢東派の武装勢力が支配するこの一帯には、わずかながら先住民が暮らす村々がある。公務員で生真面目な性格のニュートンは、このジャングル地帯で実施される選挙管理員に自ら志願する。何かにつけて非協力的なインド軍の護衛を受けつつ、現地に赴いたニュートンは、同僚や現地の協力者とともにどうにか投票を実施させようとするが……。

インドの、それも辺境中の辺境での選挙という、かなり特殊なテーマの作品。ミニマルな世界ゆえに、インドの政治や社会の実態(主にダメな部分)がよ〜く表れていたように思う。頑ななまでに杓子定規な主人公ニュートンのふるまいは、時に滑稽ですらあるのだが、それがかえって現実の異様さ、滑稽さ、そしてむなしさを際立たせている。

いつ、どこからゲリラが出没するかわからない、というチリチリした緊迫感をはらみつつ、物語は小さな笑いを交えながら淡々と進んでいく。このまますーっと終わるのかな……というところで、思いがけない展開が、どん、さらにどん、と。何とも言えない後味の残る、不思議な映画だった。