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鶴の群れ

キャンプ・デナリに滞在していた時、一人のガイドと親しくなった。彼の名はフリッツ。スイス人である彼は、二十年前にこの地にやってきて、ガイドとして働くようになった。家族は、国立公園の入口でB&Bを経営している。とても気さくな人で、日本人で一人だけストレニアス・グループでのトレッキングに参加していた僕に、「いいぞ、タカ! どんどん歩け! ゴーゴー!」と声をかけて焚き付けたりしていた。

ある日、「ポトラッチ」キャビンでの夕食の時、向かいの席にいたフリッツが僕に訊いた。

「タカ、君は何の仕事をしているんだ?」
「写真を撮ったり、文章を書いたりして、それを本にする仕事をしてるんだよ」
「そうか、フォトグラファーか。僕も一人、日本のフォトグラファーを知ってる。ミチオだ。ミチオは素晴らしいフォトグラファーだった。デナリで撮影していた時、彼はよくこのキャンプ・デナリに遊びに来ていたんだよ」

その時、クァ、クァ、という鳴き声が、遠くから幾重にも重なり合うようにして聴こえてきた。何だろう? みんな席を立って、「ポトラッチ」の外に出る。灰色の空の彼方から、隊列を組んだ鳥のシルエットが近づいてくる。鶴だ。それも、十羽や二十羽どころではない。次から次へと隊列が集まってきて、キャンプ・デナリの真上で渦を巻くように、どんどん大きな群れになっていく。数百羽? いや、千羽以上はいたのではないだろうか。

「サンドヒル・クレーンだ。南の山脈が悪天候で越えられなくて、ねぐらを探してここに集まってきたんだろう。こんな大きな群れを見たのは、二十年ぶりだ‥‥」フリッツが呟いた。

ミチオ‥‥星野道夫さんも、原野で一人でキャンプを張っていた時、こんな鶴の群れを、じっと見上げたりしていたのだろうか。千羽を超える鶴たちは、クァ、クァ、と寂しげに鳴き交わしながら、やがて、北の稜線の彼方に消えた。

スライドトークイベント:冬のラダックと「氷の回廊」チャダル

東京・大崎にあるパタゴニア東京 ゲートシティ大崎店で、冬のラダック・ザンスカールをテーマにしたスライドトークイベントを開催することになりました。冬ならではのラダックの美しい風景や、ロサルやレー・ドスモチェをはじめとする冬の祭り、凍結したザンスカール川の上を旅するチャダル・トレックなどについて、現地で撮影した写真をふんだんに見せながらお話しします。

このトークイベント、入場は無料ですが、設営の関係で事前予約が必要です。事前に主催の風の旅行社(0120-987-553/info@kaze-travel.co.jp)までご連絡ください。会場のキャパが約80名と、僕にしては分不相応に大きいので(苦笑)、よろしくお願いします。

鎌倉アルプス散策

昨日は少しだけ遠出して、鎌倉の天園ハイキングコースというところを歩いてきた。ここは鎌倉アルプスとも呼ばれていて、鎌倉市でもっとも高い、159メートルの大平山に登るルート。あっという間に登れる割には、奥深い森の雰囲気も楽しめる。

スタート地点は、北鎌倉駅。線路沿いで風に揺れるススキが、秋の訪れを知らせていた。

極光の記憶

この間のアラスカ旅行で、二週間の間に二度、オーロラを見た。オーロラ見物が目的のツアーに参加したのに一度も見られなかったという人の話もよく聞くし、同行した僕の母も三度目の北極圏付近への旅行で初めて見たというから、僕は運がよかったのかもしれない。

初めて目にしたオーロラは‥‥今までの人生で目にしてきた、どんなものとも違う領域にある存在だった。雲や雨のように地球の営みに密着した存在でもなく、太陽や星のように宇宙の永遠を感じさせる存在でもない。音ひとつたてず、大気をそよがせもせずに、遥か高空で弾ける光の奔流。とてつもなく巨大で、鮮やかで、激しく、そして儚い。その圧倒的な美しさに、僕は魅入られると同時に、ある種の畏れを感じた。もし、この得体の知れない極光の輝きをずっと眺め続けたら、僕は気が狂ってしまうのではないか、と。

時にオーロラは、空一面に爆発的に広がる「ブレークアップ」という現象を起こすことがあるという。もし、冬のツンドラの中で一人立ち尽くしたまま、そんな凄まじい光景を目にしたら、どんな気持になるのだろうか。

人前に出ること

終日、部屋で仕事。手元にある書き仕事は昨日のうちに終わらせたので、今日は写真のセレクト。とりあえず、再来月にやる予定のトークイベント用の写真から。

今年は、春先に小規模なトークイベントに二つ出たのだが、来月末に一つ、再来月にも(僕にしては)かなり大規模なトークイベントに出ることになっている。今年はラジオからも何度か出演依頼を受けたし‥‥すべてラダック絡みとはいえ、いったいどうしたんだろ。

人前に出るのは本職ではないし、どちらかというと苦手だ。未だにイベントでもラジオでも、口の中がカラカラにひからびて粘膜がくっついてしまうくらい緊張する(苦笑)。でも、自分が取り組んでいること、自分が大切にしていることを一人でも多くの人に知ってもらうためには、こういう人前に出る機会をコツコツ積み重ねていかなければならないことも、身にしみてわかっている。

あー、人前に出ても口の中がひからびない方法って、ないかなー(笑)。