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100人中、何人?

僕は基本的にアマノジャクなので、世の中で100人中100人が「いい!」と言ってるものには、怪しんで近寄ろうとしないところがある。百万部のベストセラーの本とか、大ヒット街道爆進中の映画とか、ヘビロテされまくりの歌とか、長い行列のできるパンケーキ屋とか。それは感覚的にひねくれてるところがあるからだろうな、と自覚している。

文章なり写真なりで本を作る側の立場からすると、ビジネスの視点だけで考えれば、100人中100人が「いい!」と喜んで買ってくれるような本づくりを目指すべきなのかもしれない。でも、そうしたアプローチはほぼ間違いなく、うまくいかない。何を伝えたいのかがぼやけて、結局、面白くも何ともないものになってしまう。少なくとも、ひねくれ者の僕は、そういう本を面白いとは思わない。

少なくとも本づくりに関しては、作り手自身が面白いと思えるものをぶれずに目指すのが一番いいと思う。それが、100人中1人にしか届かなかったとしても、その1人の心をほんの少しでも動かすことができたなら、その本には、この世界に存在すべき価値がある。

腑に落ちる

昨日の夜、またしても丑三つ時だったのだが、ベッドに横になってうとうとしてる時に、ぽん、と思いついたことがあった。

それはずいぶん長い間、かれこれ一年近く、どう扱ったものかと思い悩んでいた文章についてのアイデアだった。思いついてしまえば、ある意味とてもオーソドックスな落としどころだったのだが、そっか、それでいいのか、と、僕としてはものすごくすっきりと腑に落ちた着地点だったのだ。まあ、目前の仕事に直接関係のない文章だから、こんな風に今まで頭の中で転がし続けることができたのだが。

とはいえ、これはまだほんの始まりで、これからずんずん、深く深く、潜っていかなければならない。いつかこれを、納得できる形で人に見せられるといいな。

旅との向き合い方

今年に入ってから、トークイベントに出演する機会がやけに多かったのだが、この週末はひさしぶりに観客の立場で、他の方のトークイベントを続けざまに観に行くことになった。金曜の夜は、代官山蔦屋書店での竹沢うるまさんのイベント。そして今日の昼は、4カ月のインドの旅を終えた三井昌志さんのイベントだった。

竹沢さんも三井さんも、「撮り・旅!」での仕事を通じてその人となりはある程度知っているつもりだったが、あらためてこういう機会に話を聞くと、旅との向き合い方、自分自身との向き合い方、写真や文章との向き合い方、本当にそれぞれ個性があって違うのだなと感じた。誰が正しいとか間違っているとかではなく、それぞれが身を以て積み重ねてきた経験を通じて、自らの手で選び取ったものなのだ、と。

僕自身の旅や自分との向き合い方も、竹沢さんや三井さんとはたぶんかなり違う。僕にとってのそれは、心の底から大切だと思える場所を探し続けること。遠く離れていても、大切な人たちを忘れずに思い続けること。もしかするとそれは、もはや旅でも自分云々でもないのかもしれないけれど、僕にとって譲れないものがあるとすれば、それなのだと思う。

‥‥いい年こいて、青臭いこと書いてるなあ(苦笑)。まあいいや。

記憶と言葉

昨日は池袋に出かけて打ち合わせ。夏に発売される予定のムック本に、ザンスカールのチャダルについての写真と文章を寄稿することになった。考えてみると、ラダックやザンスカールについての写真と文章を媒体で発表するのは、結構ひさしぶりだ。ここ最近はスピティが多かったし。

で、昨日今日で写真をセレクトし、レイアウトラフを作り、原稿を書きはじめてみたのだが‥‥いやあ、書けるね。いくらでも書ける(笑)。ずいぶん前の出来事だけど、自分の中で圧倒的に鮮烈に焼きついている記憶があるから、それを必要に応じて言葉に置き換えていけばいい。「ラダックの風息」を作った時も、この時期のことを書くのは本当に愉しかった。

やっぱり、書かれるべき出来事には、しぜんと記憶と言葉が宿っていくのだと思う。

旅と写真とビールの夜

昨日の夜は、下北沢の書店B&Bで、「撮り・旅!」でもお世話になったブータン写真家の関健作さんとのトークイベントに出演させてもらった。諸事情で募集期間が実質2週間ほどしかなかったにもかかわらず、とんとんと順調に予約が入り、当日は完全に大入満員。お店が特別に仕入れたネパールのムスタンビールも完売し、関さんと僕の本もたくさん売れたらしい。ありがたいことだ。

僕にとっては、今年2月に一度やったことのある会場だし、お相手はトークの達人の関さんだし、客席の雰囲気や反応も最初からよかったしで、大丈夫大丈夫と自分で自分に言い聞かせていたのだけれど‥‥やっぱり緊張した(苦笑)。日曜の夜にわざわざお金を払って足を運んでくれた人たちを、自分の話と写真で楽しませなければならないのだから、簡単なわけがない。でも、イベントの後、うっすら上気した頰で会場を出ていくお客さんたちを見送っていると、やってよかったな、としみじみ思った。

昨日来てくれた方の一人が、イベントの感想をツイートしてくださっているのをたまたま拝見したのだが、「二人の写真は、撮影のために訪れた写真家の視点というより、ものすごく写真のうまい現地の人が撮っているようだ」と書かれていたのが、僕には何だかとてもうれしかったし、自分でも腑に落ちた。たぶん、僕や関さんの写真は、彼の地での被写体との距離が、とても近いのだと思う。物理的な距離というより、気持ちの距離が。

こてんぱんに疲れたけど、ほっとしたし、またがんばろう、と思えた一夜だった。