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無になれる時

昨日の丹沢表尾根縦走のような山歩きは、思い返せばずいぶん昔から、断続的にではあるがやっている。

高い山に登るのが好きというわけではない。日本で行くのも、東京近郊の日帰りで歩ける場所ばかり。新規開拓もあまりせず、割とお決まりのルートを歩くことが多い。体力の限界に挑戦するようなしんどい山行より、自然の中を自分のペースでゆったり歩く方が好みだ。

土を踏みしめ、岩を掴み、時に木の幹に触れる。歩いていくうちに、両脚、両手、身体全体の動きとバランスに、神経がくまなく行き届いていく。集中力がほどよく増していく一方で、余計なことを何も考えなくなって、頭の中が、清々しいくらい、ぽっかりと無になる。

たぶん僕は、あの、無になれる感覚が好きなのだ。だから、何だかんだで日帰り山歩きを続けているのかもしれない。

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星野道夫『ゴンベの森へ アフリカ旅日記』読了。チンパンジーの研究と保護に取り組むジェーン・グドール博士とともに、星野さんがタンザニアのゴンベ動物保護区を訪れた、十日間の短い旅の記録。星野さんが撮る写真は、チンパンジーも、現地の人々も、そしてジェーン・グドール博士に対しても、さりげなく、穏やかなまなざしで捉えられている。

〝私たちはある風景に魅かれ、特別な想いを持ち、時にはその一生すら賭けてしまう〟

星野さんにとってアラスカが、ジェーン・グドール博士にとってゴンベの森がそうであったように、僕にとってのラダックも、そういう場所だったのだと思う。

丹沢、春から夏へ


今日は平日休みにして、丹沢表尾根を縦走してきた。何年ぶりだろう?……と思ってこのブログを検索してみたら、2019年以来、6年ぶりだった。コロナ禍の前は、年に一度くらいの頻度で来てたのだが。

すし詰めのバスでヤビツ峠まで移動し、登山口からえっちらおっちら、二ノ塔まで登る。三ノ塔の上から、烏尾山や行者岳、そして塔ノ岳にまで連なる尾根筋を眺めた時、これだー、この風景が見たかったんだ、と何だかすっかり嬉しくなってしまった。


お地蔵さんもお元気そうで。今年のウェアはかなりキマってる感じ。あと、酒のお供物が多すぎ(笑)。

天候は、薄日が時折射す薄曇りといった感じ。直射日光がさほどきつくなかったので助かったが、それでもまあ、暑かった。水を1リットル余分に持って行ったが、それでぎりぎり足りたくらいだった。梅雨に入ったら湿度も上がるし、ここいらを歩くのはさらにしんどくなりそう。秋まで待つか……。


輝くばかりの新緑に覆われた、丹沢の山々。今の季節ならではの風景。驚くほどすぐそばで、ウグイスが高らかに鳴く。

何しろひさしぶりだったので、最後までもつかなと半信半疑だったのだが、割と順調に歩くことができた。今年に入って、一月、二月、四月と山歩きをしていたので、それで足慣らしができていたようだ。大倉尾根の下りで、太腿の筋肉がピリつく寸前くらいまで追い込めたので、今回もいい運動になったと思う。

丹沢表尾根縦走をこれからしてみようかな、と思っている初心者の方へ。三ノ塔から塔ノ岳までの尾根筋では、こまめに休憩を取るようにした方がいいです。急勾配のアップダウンが頻繁にある上、風雨に浸食されて際どくなってる道や鎖場などもあるので、短時間のうちに結構消耗します。名前のついてる場所に来たら、5分か10分座って休んで、心身ともに常に余力を残しておくようにするといいと思います。ご参考までに。

山上の桜


今日は平日休みにして、陣馬山から高尾山までの縦走に出かけた。もともと、三月のうちに行こうと思ってたのだが、急に雪が降った関係で順延となり、ここ最近も変わりやすい空模様が続いているので、比較的天気が安定してそうな今日に、山行の予定をねじ込んだ次第。


山歩きは、二月下旬に高水三山を歩いて以来。あの頃に比べると、ずいぶん暖かくなった。陣馬山の山頂に着いた後、上着を脱いで長袖Tシャツだけになったのだが、高尾山から下りに入るまで、それでちょうどよいくらいだった。


春霞のせいで、そこまでくっきりとは見えなかったが、富士山も。見えると、やっぱりちょっとだけ気分がアガる。


城山から高尾山にかけての尾根筋のところどころで、桜が咲いていた。平地の公園とかで見かける桜と少し違って、どことなく野生味のある桜。考えてみたら、桜の季節に高尾山に来たのは、初めてだったかもしれない。思いがけない僥倖。

約一カ月半ぶりの山行だったが、身体はそれほどなまってもおらず、すいすい楽に歩けた。真夏の暑い時期とかは無理だけど、今後も月イチペースくらいで日帰り山歩きに行くようにすれば、足腰のコンディションも維持しやすくなるのかな、と思う。次はどこにするかな。ひさしぶりに、丹沢表尾根縦走に行ってみるか。

『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』

『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』
文・写真:山本高樹
価格:本体2200円+税
発行:雷鳥社
A5変形判 256ページ(カラー84ページ)
ISBN 978-4-8441-3813-6
配本:2025年4月23日

書き下ろしの長編紀行としては、『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』以来、5年ぶりとなる作品を、まもなく上梓します。タイトルは『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』。インド北部の辺境の地、スピティで、野生の雪豹の撮影に取り組んだ日々の記録です。

全世界でも8000頭に満たない数しかおらず、険しい山岳地帯に生息しているため目撃することすら困難なことから「幻の動物」とも呼ばれている、野生の大型肉食獣、雪豹。ふとしたきっかけと成り行きから、彼らの撮影に取り組むことになった僕は、厳寒期のスピティで生きる雪豹をはじめとする野生の動物たちや、彼らの傍で暮らすスピティの人々と、ひと冬をともに過ごしました。その日々の中で僕が目にしたのは、写真だけでは到底伝え切ることができないほど、稀有で生々しく、そしてかけがえのない光景でした。

標高4200メートルの極寒の高地で、巡り巡る命を、見つめ続けた日々の物語。一人でも多くの方のもとに届くことを願っています。

冬の高水三山


日々せわしないながらも、半ば無理やりに時間を作り、日帰り山歩きに行ってきた。今回の目的地は、奥多摩方面にある高水三山。軍畑駅を出発し、高水山、岩茸石山、惣岳山の三つの山を縦走し、御嶽駅に下りるルートを歩いた。西荻からは中央線と青梅線ですんなり往復できるので、アクセスは意外といい。


高水三山を歩くのは、実は二度目。最初に歩いたのは……2012年の6月(このブログで検索して調べた)。あの時は、曇っていて蒸し暑くて、登山道の左右に鬱蒼と草が茂っていた記憶がある。冬に来たのは初めてだったが、そこまで寒くもなかったし、トレイルには残雪やぬかるみもなく、歩きやすかった。


高水山の山頂の手前にある、常福院不動堂。軍畑駅からここまで、約1時間15分。主な登り行程はここまででほぼ終わり、あとは尾根と下りになる。


高水三山は、いずれの頂上も眺望はそこまで開けていなくて、登山道も大半は針葉樹林の中にある。絶景を求める人には向いていないかもしれないが、個人的には、こういうひなびた低山に何となく惹かれる。高くて眺めのいい場所に登るだけが、山歩きの楽しみというわけではないのだし。

今回のコース全体での所要時間は、ちょうど4時間。13年前に歩いた時も、ちょうど4時間だった(とブログで書いていた)。僕もそれなりの年齢のおっさんだが、13年前と同じタイムで普通に歩けているのには、正直、ちょっとほっとした。