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虹の向こうへ

朝から、みぞれ混じりの雪が降り続く。部屋でラーメンを作り、コーヒーを淹れ、今書いている本の次章のレイアウトラフを描く。夕方、雪が止んだ頃に身支度を整え(ヒートテック上下着用)、出かける。青山のスパイラルで開催される、畠山美由紀のトークイベント&ミニライブへ。

店舗内に椅子を並べた小さな会場に、たぶん100人以上の人が集まって、立見の人も大勢いた。トークイベントでは、畠山さんと、先日出たアルバムのアートワークを描かれた奥原しんこさんと、「SWITCH」編集部の川口さんが登場。畠山さんと奥原さんはともに気仙沼の出身。震災の頃のそれぞれの様子と、その後の被災地での取り組みの話を聞く。状況は未だに難しいことを忘れず、少しずつでもできることをしていかなければな、とあらためて思う。

その後のミニライブでは、笹子重治さんのギターにのせて、畠山さんがのびやかに歌う、歌う。特に、「わが美しき故郷よ」の詩の朗読から歌へとつながる流れでは、泣けて仕方なかった。演奏が終わった後も、なかなか鳴り止まない拍手。最後はボサノヴァ調の軽やかなアレンジで「Over the Rainbow」。短いけれど、素晴らしい時間だった。

越えていこう、虹の向こうへ。

声とギターの休日

いい天気。電車に乗って都心へ。日曜なのに、まるでラッシュアワーのように人が多く感じる。師走だなあ。

渋谷のカフェ・マメヒコでコーヒーを飲み、代官山の蔦屋書店へ。この店、なかなか面白い。文学やアート、旅、料理といったテーマで緻密なコンテキストを組んだ棚作りがすごく楽しい。何となくぶらついているうちに、思いがけない本と出会えるチャンスがある。

夕方、吉祥寺まで戻ってきて、前から楽しみにしていた、キチムで開催される羊毛とおはなのカフェライブへ。お二人との距離が、ものすごく近い! こういうこぢんまりとした空間で彼らのライブを体験したいとずっと思っていた(でも東京でのカフェライブはすぐにソールドアウトしてしまう‥‥)ので、ようやく念願が叶ったというわけ。

薄暗い店内で始まったライブは、本当に素晴らしかった。声とギターだけで、あんなにも心地いい空間を生み出して、聴く人の心を穏やかにさせるとは‥‥。アンコールで、マイクなしで歌ってくれたクリスマスソング、最高だった。いろいろあった一年の終わりに、いいライブで聴き納めをすることができた。

口パクという嘘

年の瀬になって、テレビで大がかりな歌番組が放映されることが多くなってきた。そういう番組をたまに横目で見ていて思うのは、実際には歌わず、口パクで出演している歌手が多いこと。特に、大人数で激しいダンスを踊るアイドル系グループの大半は口パクだ。

まあ、ぜいぜい息を切らしながらヨレヨレの生歌を聴かせるより、綺麗に整った音を流して口パクで合わせる方がリスクが少ないという、テレビ業界の常識みたいなものもあるのだとは思う。この間、某番組に出演していた国民的アイドルグループが、口パクのつもりで曲に入ったらボーカルが出てなくて、あわてて生歌に切り替えたものの、音程が「迷宮入り」して悲惨なことになったという、気の毒(?)なニュースも目にしたけど。

ただ、口パクはやっぱり、歌っているフリをしているという、嘘でしかない。そして嘘は、本当には人の心を動かすことはできないし、たとえ心を動かされた人がいたとしても、それはほとんど騙されているようなものだと思う。

歌手とかアーティストとか名乗るなら、正々堂々と歌ってみろや。

畠山美由紀「わが美しき故郷よ」

畠山美由紀の曲は、昔から好きでよく聴いていた。気がつけばソロアルバムはほぼ全部持っているし、Port of Notesのベスト盤もある。特にお気に入りの「わたしのうた」は、iPodに入れてラダックに持って行ったりもした。豊かな低音から伸びやかな高音まで、素晴らしい安定感で歌い上げる彼女の歌声は本当に魅力的で、機会があればライブにも足を運んでみたいと思っているのだが、未だ叶わないでいる。

その畠山美由紀の5枚目のアルバム「わが美しき故郷よ」は、過去の彼女の作品とは、根本的に違う。彼女の故郷は、宮城県気仙沼市。3月11日の東日本大震災の後、これまでに感じたことのない痛みと喪失感に苛まれながら、彼女は歌い手として必死の思いでこの作品に取り組んだのだという。

いつも心の奥底にある、大切な故郷の記憶。そこではずっと、美しい海と山と川と、懐かしい町と、心穏やかな人々が暮らしているはずだった。そのかけがえのない故郷で、たくさんの命と、たくさんの大切なものが失われてしまった。書かずにはいられなかった言葉。歌わずにはいられなかった曲。その抜き差しならない彼女の思いが、この作品の中にぎゅっと込められている。特に、表題曲となっている「わが美しき故郷よ」の詩の朗読と楽曲は、じっと耳を傾けていると、目に涙が滲んできて仕方なかった。

どれほどの哀しみに襲われようと、それでも、地球は回り、夜が明け、明日が来て、人生は続いていく。みんな、胸の奥に痛みを抱えながら、互いに手を差し伸べ、優しい言葉をかけあって生きていくのだ。彼女は未だ癒えない哀しみとともに、これから続いていく世界を全力で肯定しているように感じた。

忘れてはいけないものがある。たとえそれが、哀しい記憶であっても。

ツイてない日

夕方、電話が鳴る。以前、名刺交換をしたことのある方から「取材ができるライターさんを探していて、山本さんだったら‥‥」という相談。取材日を聞いてみると、あいにく、来週の大阪取材の日と重なっている。あちゃー。

先方はかなり困っているようだったので、友人のライターにもあたってみたのだが、みんな忙しくてNG。何も助けてあげられないまま、電話を切ることになった。申し訳ないことをした。

気を取り直して、音楽でも聴こうかと思ってボーズのイヤフォンを手に取ったら、あー! 断線してる! かれこれ三年近く使ってきて、特にラダックでは酷使してきたから‥‥。どうしよう。とりあえず、iPhone 4付属のイヤフォンは手元にあるのだが、ボーズに比べると音質が圧倒的に劣るし‥‥。

そんなこんなで、いろいろツイてない日。こんな時もあるさ。