沖縄の宮古諸島には、古くから受け継がれてきた独特の歌の文化が残されている。重い人頭税に苦しめられた厳しい暮らしの中で生まれたアーグ(古謡)、そして祈りの場所である御嶽(うたき)で捧げられた神歌(かみうた)。それらを歌い継いできた宮古諸島の人々についてのドキュメンタリーが、この「スケッチ・オブ・ミャーク」だ。
映画の造りとしては、島の人々の暮らしぶりやインタビューが、彼らのコンサートの模様と絡めて構成されているあたり、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を彷彿とさせる。僕たちが暮らしている同じ日本の中に、こうした素晴らしい祈りの歌の文化が残されていたことは、本当に驚きだ。これ以上ないほど素朴で、どこか懐かしく、大いなるものへの畏敬の念に溢れていて、聴いていると名状しがたい何かが心に沁み渡ってくる。
昔から当たり前のように口承で受け継がれてきたこれらの歌は、今では次第に記憶する人々が減り、受け継いでいくことが困難になっているという。僕が以前訪れたラダックのダーで暮らす「花の民」ドクパの人々も、古くからの土着の信仰に根ざした歌の文化を持っているのだが、同じように口承で受け継ぐことが困難になっているという話を聞いた。おそらく、世界のさまざまな場所で、こうした希少な文化が近代化の波に呑まれて消えようとしているのだろう。そういう意味では、古くからの記憶を持つ宮古諸島の老人の方々の声を記録したこの映画は、大切な役割を果たしたのではないかと思う。
同じ日本人なら、この映画を見届けておくことをおすすめする。