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「南極料理人」

「南極料理人」たぶん三年くらい前に公開されてたのだが、見たいと思いつつ見逃してしまっていた映画「南極料理人」を、Apple TVで借りて観た。

南極観測越冬隊の調理担当として、南極のドームふじ観測拠点に赴任していた方の実話を基にした映画。この基地、南極の中でも標高3800メートルのひときわ寒冷な場所にあり、平均気温はマイナス50度、寒い時はマイナス70度まで下がるという。あまりに寒すぎて、生物もウイルスも生存していないそうだ。この極限の地を舞台に、八人のむさ苦しい男たちが、なんてことない日々を過ごすという物語(笑)。そのギャップが面白いのだけど。

この映画のテーマはとてもシンプルで、「みんなで食べるごはんはおいしい」ということに尽きる。長く単調な観測生活でささくれた心も、一緒にごはんを食べていると、少しずつときほぐれていく。一つのおにぎり、一杯のラーメン。それが与えてくれる力は、ものすごく大きい。東京で暮らしていると、ちょっとコンビニに走ればいつでも何でも食べられるけれど、時として、食べ物のありがたみを忘れてしまいがちになる。そういえば、今くらいの季節にラダックで暮らしていた時、手に入らない新鮮な青い野菜が食べたくて食べたくて、野菜の夢を見たもんなあ(笑)。

ごはんを食べるのは、大事だ、ほんと。

Aside

巷でも話題の、ディズニーの短編アニメーション。フル3DCGらしいのだが、そうとはまったく感じさせない自然な描写に驚かされる。ストーリーもいい。おすすめ。

「アーティスト」

以前から気になっていたものの、映画館で観る機会を逸してしまった「アーティスト」を、Apple TVでようやく観ることができた。第84回アカデミー賞で作品賞をはじめ五部門を制したこの映画、3D映像やCG処理が当たり前のこの時代に、なんとモノクロームの(ほぼ)サイレント映画である。だが、それがいい。そのスタイルでしか描けない、それでこそ描けるテーマを持った映画だから。

20世紀初頭、サイレント映画のスターだったジョージは、アーティストとしての自分の流儀にこだわるあまり、トーキー映画の台頭に乗り遅れ、若く溌剌とした女優のペピーと入れ替わるように落ちぶれていく。はたして彼らは‥‥というストーリー。物語としては、悪人は誰も出てこないシンプルなおとぎ話そのものだが、本当に細かいところまで、作り手のサイレント映画に対する愛情と畏敬の念が込められているのが、観てるだけで伝わってくる。きっと僕が観たことのない古典映画へのオマージュが、そこらじゅうに散りばめられているに違いない。それを見分けられないのが、ちょっと悔しくもある。

うまいなあ。本当にうまい。ぐうの音も出ないくらい、いい映画だ。

「最強のふたり」

パリの大邸宅で暮らす富豪のフィリップは、愛する妻を病で失い、パラグライダーの事故で首から下が麻痺する重傷を負った。周囲の人々が腫れ物に触るような憐れみと金目当てのへつらいで接する中、スラム街育ちで前科持ちの黒人青年、ドリスだけは違っていた。次から次へと辞めていく介護者の面接に来たドリスは、「不採用にしてくれ。そうすれば失業手当がもらえる」と言い放ち、フィリップにも何の同情も示さなかったのだ。何から何まで正反対の二人は、やがて不思議な友情で結ばれていく‥‥。

この「最強のふたり」(原題:Intouchables)は、2011年にフランスで年間興行収入トップを記録し、国民の三人に一人は観たという映画だそうだ。僕も前から気になっていて、昨日吉祥寺バウスシアターで観てきたのだが、じんわりとした感動に浸れる、予想以上の良作だった。たぶんそれは、フィリップが負っている身体的なハンディキャップが、ヘタな悲哀や感動の仕掛けに使われていなかったからだろう。身体の不自由も社会的な格差も関係なく、フィリップとドリスが同じ人間として互いに認め合い、育んでいく友情の確かさが、自然にテンポよく描かれていく。わかりやすく盛り上げたクライマックスではない、さらりとしたさりげない幕切れも、この映画らしいなと思った。

しかし、この邦題はやっぱり、ちょっと微妙‥‥(苦笑)。

「スケッチ・オブ・ミャーク」

沖縄の宮古諸島には、古くから受け継がれてきた独特の歌の文化が残されている。重い人頭税に苦しめられた厳しい暮らしの中で生まれたアーグ(古謡)、そして祈りの場所である御嶽(うたき)で捧げられた神歌(かみうた)。それらを歌い継いできた宮古諸島の人々についてのドキュメンタリーが、この「スケッチ・オブ・ミャーク」だ。

映画の造りとしては、島の人々の暮らしぶりやインタビューが、彼らのコンサートの模様と絡めて構成されているあたり、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を彷彿とさせる。僕たちが暮らしている同じ日本の中に、こうした素晴らしい祈りの歌の文化が残されていたことは、本当に驚きだ。これ以上ないほど素朴で、どこか懐かしく、大いなるものへの畏敬の念に溢れていて、聴いていると名状しがたい何かが心に沁み渡ってくる。

昔から当たり前のように口承で受け継がれてきたこれらの歌は、今では次第に記憶する人々が減り、受け継いでいくことが困難になっているという。僕が以前訪れたラダックのダーで暮らす「花の民」ドクパの人々も、古くからの土着の信仰に根ざした歌の文化を持っているのだが、同じように口承で受け継ぐことが困難になっているという話を聞いた。おそらく、世界のさまざまな場所で、こうした希少な文化が近代化の波に呑まれて消えようとしているのだろう。そういう意味では、古くからの記憶を持つ宮古諸島の老人の方々の声を記録したこの映画は、大切な役割を果たしたのではないかと思う。

同じ日本人なら、この映画を見届けておくことをおすすめする。