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「シュガーマン 奇跡に愛された男」

「シュガーマン 奇跡に愛された男」

1970年代初めにデビューしたデトロイト生まれのミュージシャン、ロドリゲス。当時のアメリカ社会をリアルに捉えた歌詞と音楽性から、ボブ・ディランとも比較されるほど将来を嘱望されていたが、発売した二枚のアルバムは、セールス的には惨敗。レコード会社との契約も打ち切られ、ロドリゲスは表舞台から姿を消す。しかし彼のアルバムは、なぜか遠く離れた南アフリカで、アパルトヘイトに抵抗する若者たちの思いを代弁する音楽として大ヒット。それから数十年後、南アフリカのロドリゲスのファンたちは、死亡説も囁かれていた彼の消息を辿りはじめる‥‥。

シュガーマン 奇跡に愛された男」は、文字通り、嘘のような本当の話を題材にした、爽快なドキュメンタリー・ムービーだった。南アフリカのファンたちがロドリゲスを探し当てた後に起こった奇跡のような展開はもちろん感動的だったけれど、個人的には、彼の娘たちが語ってくれた、表舞台から降りた後のロドリゲスの人生の物語に胸を衝き動かされた。本当に実直に、誠実に、淡々と積み上げていった人生。南アフリカでのフィナーレは、道を踏み外すことなく丁寧に生き続けた彼が当然報いられるべき結果だったのだと思う。

この世界には、こんな人がいるのだな。捨てたもんじゃない。

「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」

「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」

今日は取材に行く予定が先方の都合でキャンセルになったので、先日封切られたインド映画「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」を観に行くことにした。シネマライズは火曜がサービスデーらしく、1000円。ラッキー。

オーム・シャンティ・オーム」を観るのは、これが二度目。最初に観たのは、ラダックで長期滞在していた頃、ノルブリンカ・ゲストハウスの台所にある小さなテレビでだった。僕はヒンディー語がほとんどわからなかったし、英語字幕もなかったのだが、それでもストーリーがまるっと理解できてしまうくらい、この映画は単純明快でわかりやすい。ただ、日本語字幕がついたことで、前半の台詞に張られた伏線が理解できて、いろいろ腑に落ちたのはよかった。

もはや説明不要のボリウッドのスーパースター、シャールク・カーンは、安定感抜群のエンターティナーぶりを発揮しているし、この作品がデビューとなったヒロイン、ディーピカー・パードゥコーンの燦然と輝く美しさには、客席の女性たちからもため息が漏れていたほどだった。華やかで、可笑しくて、大げさで、切なくて‥‥そして観終わった後、ものすごくすっきりして気持いい。まさにイマドキの正統派ボリウッド娯楽映画だと思う。

自分でも可笑しかったのが、この映画を観ていて、やけに気分が落ち着くというか、ホームゲームのような居心地のよさを感じたということ。何なんだろう、この安心感は(笑)。インドとラダックで過ごした穏やかな日々を、どこか思い出していたのかもしれない。

Aside

女優オードリー・ヘップバーンが登場するチョコレートのCM。光が燦々と降り注ぐイタリアの港町で、身動きが取れなくなったバスから颯爽と降り立ち、オープンカーの後部座席に乗るオードリー。往年の名画を思い起こさせる微笑を浮かべる彼女が、全部CGで描かれているというのだから、びっくりだ。VFXの進化も、行くところまで行き着いたなという感じ。

本づくりという博打

生まれてこのかた、ギャンブルの類にはほとんど手を出したことがない。

パチンコは思い出せないくらい昔、物珍しさに千円くらい使ってみたが、まったく面白さを理解できなかった(笑)。競馬も、麻雀も、まったく経験&興味なし。あ、五年ほど前にマカオに行った時、カジノで大小をやって、一瞬で100ドルすった記憶がある。つまり、博打に対する興味もなければ、勝負運もからきしという人間だ。

ただ、今の自分の仕事‥‥本づくりという仕事は、傍目には穏やかに見えるかもしれないが、博打に近い要素はかなりあると思う。Webで見かけた細田守監督のインタビューを読んで、映画と書籍という違いはあるにせよ、その辺のことをあらためて自覚した。

映画の価値は、有名な原作とか、有名な監督、クリエイターがやっているからじゃない。その映画に今まで見たことがない価値があるからでしょう。見たことのない面白さを提供することに価値があると思う。そういう価値がみんなと共有できた時に成功するんじゃないか。常に挑戦しないと映画を作る意味がないんですよね。じゃないと誰も振り向いてくれないですよ。‥‥という意気込みがあるんですけど、映画が常に挑戦であることはイコール博打なので、毎回々々どうなるかわからないです。

誰かの後追いではなく、常に新しいことに挑戦して、見たことのない面白さを提供すること。それはリスクを伴う博打で、当たるか当たらないかは本当に神のみぞ知る、だ。でも、安全牌だけ切り続けるようなやり方には、正直、さして興味はない。僕も、挑む気持を忘れないようにしたいと思う。

「南極料理人」

「南極料理人」たぶん三年くらい前に公開されてたのだが、見たいと思いつつ見逃してしまっていた映画「南極料理人」を、Apple TVで借りて観た。

南極観測越冬隊の調理担当として、南極のドームふじ観測拠点に赴任していた方の実話を基にした映画。この基地、南極の中でも標高3800メートルのひときわ寒冷な場所にあり、平均気温はマイナス50度、寒い時はマイナス70度まで下がるという。あまりに寒すぎて、生物もウイルスも生存していないそうだ。この極限の地を舞台に、八人のむさ苦しい男たちが、なんてことない日々を過ごすという物語(笑)。そのギャップが面白いのだけど。

この映画のテーマはとてもシンプルで、「みんなで食べるごはんはおいしい」ということに尽きる。長く単調な観測生活でささくれた心も、一緒にごはんを食べていると、少しずつときほぐれていく。一つのおにぎり、一杯のラーメン。それが与えてくれる力は、ものすごく大きい。東京で暮らしていると、ちょっとコンビニに走ればいつでも何でも食べられるけれど、時として、食べ物のありがたみを忘れてしまいがちになる。そういえば、今くらいの季節にラダックで暮らしていた時、手に入らない新鮮な青い野菜が食べたくて食べたくて、野菜の夢を見たもんなあ(笑)。

ごはんを食べるのは、大事だ、ほんと。