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「デリーに行こう!」

「デリーに行こう!」

2月15日(土)から公開されるインド映画「デリーに行こう!」の試写会に招待していただいたので、今日の午後、観に行ってきた。そういえば、映画美学校の試写室に入ったのは初めてだ。

デリーに行こう!」についての情報は、松岡環さんのブログなどで目にしていた。エリートキャリアウーマンのミヒカと、がさつなおっさんのマヌが、ひょんなことから道連れになって、デリーに行こうとするのだが、トラブルに次ぐトラブルで、なかなか辿り着けない‥‥という、インドのラジャスタンを舞台にしたロードムービーだという。そう聞いて僕は、インドのテレビドラマとかでよくある、典型的なベタでハチャメチャなコメディ(オーバーすぎる演技とかBGMとか、それはそれで好きなのだが)なのかなという先入観を持っていた。

ところがこの映画、思いのほか丁寧ですっきりした作りで、ベタなノリが苦手な人にも、王道を行くコミカルなロードムービーとして十分楽しめる。砂漠の星空と夜明け、ラクダが牽く荷車、列車の窓から吹き込む風‥‥。最初は高飛車で潔癖性だったミヒカも、旅の中で少しずつ変わっていく。トラブルに遭うたび「たいしたことはない!」と言い放っていたマヌの口ぐせも、物語の最後に、ちゃんと腑に落ちる。単なるコメディではない深みのようなものがある。

でも思うのだが、インドを訪れる日本人の旅行者にも、インドのもろもろに対してミヒカ並みに潔癖なリアクションをしてる人って、結構多いんじゃないかなと思う。僕はもう、何だかすっかり慣れてしまったのだが‥‥その方が変なのかな?(笑)

「旅人は夢を奏でる」

「旅人は夢を奏でる」

ミカ・カウリスマキ監督によるフィンランドを舞台にしたロード・ムービーと聞くと、何だかそわそわして、観ておかなければ、という気になってしまう。「旅人は夢を奏でる」は、その期待を裏切らない佳作だった。

主人公のティモは、フィンランドで成功を収めたピアニスト。でも、その生真面目すぎる性格に耐えられなくなった妻は、幼い娘を連れて実家に戻ってしまった。そんなティモの前に、三歳の時に別れて以来音信不通だった父、レオが現れる。やることなすこと破天荒なレオがどこからか用意してきた車で、なぜか旅に出ることになってしまったティモ。その行く先には、彼の知らない秘密が数多く待ち受けていた‥‥。

「ここはこうなるのかな」という想像を常にちょっとずつ裏切っていく展開が続く、ユーモアと温もりと、そして一抹の寂しさが漂う映画。レオ役のヴェサ・マッティ・ロイリはフィンランドの名優でありミュージシャンでもある人だそうで、ティモ役のサムリ・エデルマンも著名なミュージシャン。映画の中で二人が歌と演奏を聴かせるシーンは、二人の関係が大きく変わるきっかけにもなった印象的な場面で、思わず拍手を贈りたくなった。

離ればなれに生きてきた息子に対する父の思いは、最後の最後に、何を変えたのだろうか。

Aside

昨年末に公開されて以来、インド映画の歴代興収記録を軽々と塗り替えてしまった話題の映画「DHOOM 3」。その劇中歌の「Malang」のフルサイズのムービー。インド映画史上もっともお金のかかったミュージカルシーンではないかとも言われているが、アーミル・カーンとカトリーナ・カイフのアクロバットを交えた熱演は、まさに圧巻。日本での公開も噂されている「DHOOM 3」、その実現に期待。

いろいろすっきり

昼、新宿へ。コニカミノルタプラザで開催されているデイジー・ジラルディーニの写真展「POLAR WONDERS」を見る。北極と南極を中心に撮られた写真の数々に息を呑む。ホッキョクグマ、アザラシ、ペンギンなど、極地に生きる野生動物の美しさと儚さ。地球温暖化によって彼らが晒されている危機は、決して見過ごしてはならないものだと思う。

写真展の後は、シネマート新宿で凱旋上映中の「きっと、うまくいく」へ。何だか急に、もう一度大きなスクリーンで見届けておきたくなったのだ。水曜のレディースデーとはいえ、平日の午後なのに、場内はほぼ満席。日本語字幕で観るのは二度目だけど、やっぱり泣けて笑えて、思いっきり感情を揺さぶられ、観終わった後はものすごくすっきりした気分になった。

懸案だった雑誌記事のゲラチェックも、夕方に届いたデータをついさっき、全部チェックし終えた。担当編集さんとデザイナーさんのおかげで、いい記事に仕上がったと思う。いろいろすっきりしたところで、いよいよあさってから、四週間のタイ取材だ。

「風立ちぬ」

「風立ちぬ」

宮崎駿監督の「風立ちぬ」は、観る人によって極端に評価が分かれる作品だと思う。男性と女性とでは受け止め方がまるで違うだろうし、夢見心地のファンタジーや血湧き肉踊るカタルシスを求める人には肩すかしだろう。「沈頭鋲」とか言われても、子供にはチンプンカンプンだろうし。今までのジブリ作品のように、100人中100人が「面白い」と思う映画ではない。

でも僕は、それでよかったんじゃないかなと思う。これは、宮崎監督自身も未だに答えを見出せない衝動に突き動かされて作られた作品だ。個人的な動機で生まれた作品にしか宿らない力のようなものは、確かにある。その力は、すべての人には届かないかもしれないが、届く人には、心の深いところを揺さぶることができる。

「美しい飛行機を作りたい」という幼い頃からの夢を抱いて成長した青年は、自分の設計する飛行機が人殺しのために使われると知りつつも、その矛盾を抱えたまま仕事に没頭する。最愛の妻が病の床に伏しても、彼は仕事から離れることができない。彼が設計した美しい飛行機、九試単戦が軽やかに空を舞った時、彼の脳裏をよぎったのは‥‥。

わかりやすい答えや救いは、何も示されない。青年は苦い思いを噛みしめながら、飛行機の墓場のような荒野に佇む。それでも彼は、生きていかなければならない。どれだけズタズタに引き裂かれたとしても。

それはたぶん、僕たちも同じだ。