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「世界の果ての通学路」

On the way to school

子供の頃、小学校や中学校への通学路は、それぞれ田んぼの中を横切る道を2キロほど歩く道程だった。高校からは自転車通学。億劫な時もあったけど、通うのが大変だったという記憶はない。

でも世界には、学校に行くのも一苦労どころではない子供たちがいる。「世界の果ての通学路」は、そんな四組の子供たちの姿を追ったドキュメンタリーだ。野生のゾウが闊歩するケニアのサバンナを、濁った水を入れたポリタンクと薪にするための枝を手に駆け抜ける兄妹。モロッコのアトラス山脈の奥深くにある村から、険しい山越えの道を歩いていく少女たち。荒涼としたパタゴニアの荒野を、妹を後ろに乗せたまま馬を駆っていく少年。南インドの漁村で、足に障害を抱える兄が坐る車いすを押しながら、えっちらおっちら登校する兄弟たち。美しくも厳しい自然、時に苛酷な現実の中で、子供たちは学校を目指す。それぞれが、思い描く未来を掴み取ろうとして。

最近のフランスのドキュメンタリーらしい鮮烈で美しい映像と、ハラハラさせられるドラマチックな展開。細かいことを言えば、撮影や編集の妙によってそういう面が綺麗にできすぎていて、ドキュメンタリーと呼ぶにはリアリティに欠けるきらいはある。ただ、それによって子供たちの逞しさやけなげさが損なわれているわけではない。観て感じ取るべきことは、確かに伝わってくる。

この子たちのように教育を受ける環境に恵まれていない子供のサポートに目を向けることは、もちろん大切。でもそれ以上に、何から何まで恵まれた環境にいるがゆえに、学ぶことの意味と価値を見失いかけている子供たちにも、この作品を見てもらいたいな、と思う。

インド映画の邦題に思う

海外の映画が日本で公開される時につけられる邦題は、昔も今もよく議論を巻き起こしてきた。たとえば、少し前に日本で公開されていた「ゼロ・グラビティ」。僕も先日のバングラデシュ行の時に飛行機内で観たのだが、あれを観た人の多くが「原題の“Gravity”の方がふさわしいんじゃない?」という感想を持ったというのが、よくわかる気がした。

で、インド映画に関しては、英語圏の映画に比べると、こうした邦題にまつわる問題がより生じやすいのは間違いないと思う。その黒歴史の最たるものが「シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦」だった(苦笑)。去年公開された「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」や「きっと、うまくいく」も、ネットでは否定的な反応もあったが、僕としては、苦労して日本語で補った結果としてのそういったタイトルだったのかなと、ある程度納得はしている。

ただ、今年夏に日本で公開される予定の映画「English Vinglish」につけられた邦題が、「マダム・イン・ニューヨーク」というものだと聞いた時は、さすがにがくっときた。邦題なのに日本語ですらなく、何の興味も魅力も感じられないカタカナ英語のタイトルとは‥‥。「English Vinglish」は熱心なインド映画ファンの間で前評判が高く、日本での公開が熱望されていただけに、なおさらだ。この作品をろくに理解してないどこかのお偉いさんが鶴の一声でつけてしまったのではないか、と勘ぐりたくなってしまう。原題をそのままカタカナで「イングリッシュ・ビングリッシュ」にしてしまった方が、よっぽどよかったのに。

邦題は、お客さんを集めるためになりふり構わず付けるものではない。その作品の魅力と価値を少しでも正確な形でお客さんに伝えるためのものだ。作品の魅力と価値をしょうもない邦題が損なってしまうようでは、何の意味もない。

こうなってくると、非常に心配なのが、「Yeh Jawaani Hai Deewani」だな‥‥(苦笑)。松岡環さんのブログでは「この青春は狂おしい」と訳されていたけど。さて、どうなることやら。

「デリーに行こう!」

「デリーに行こう!」

2月15日(土)から公開されるインド映画「デリーに行こう!」の試写会に招待していただいたので、今日の午後、観に行ってきた。そういえば、映画美学校の試写室に入ったのは初めてだ。

デリーに行こう!」についての情報は、松岡環さんのブログなどで目にしていた。エリートキャリアウーマンのミヒカと、がさつなおっさんのマヌが、ひょんなことから道連れになって、デリーに行こうとするのだが、トラブルに次ぐトラブルで、なかなか辿り着けない‥‥という、インドのラジャスタンを舞台にしたロードムービーだという。そう聞いて僕は、インドのテレビドラマとかでよくある、典型的なベタでハチャメチャなコメディ(オーバーすぎる演技とかBGMとか、それはそれで好きなのだが)なのかなという先入観を持っていた。

ところがこの映画、思いのほか丁寧ですっきりした作りで、ベタなノリが苦手な人にも、王道を行くコミカルなロードムービーとして十分楽しめる。砂漠の星空と夜明け、ラクダが牽く荷車、列車の窓から吹き込む風‥‥。最初は高飛車で潔癖性だったミヒカも、旅の中で少しずつ変わっていく。トラブルに遭うたび「たいしたことはない!」と言い放っていたマヌの口ぐせも、物語の最後に、ちゃんと腑に落ちる。単なるコメディではない深みのようなものがある。

でも思うのだが、インドを訪れる日本人の旅行者にも、インドのもろもろに対してミヒカ並みに潔癖なリアクションをしてる人って、結構多いんじゃないかなと思う。僕はもう、何だかすっかり慣れてしまったのだが‥‥その方が変なのかな?(笑)

「旅人は夢を奏でる」

「旅人は夢を奏でる」

ミカ・カウリスマキ監督によるフィンランドを舞台にしたロード・ムービーと聞くと、何だかそわそわして、観ておかなければ、という気になってしまう。「旅人は夢を奏でる」は、その期待を裏切らない佳作だった。

主人公のティモは、フィンランドで成功を収めたピアニスト。でも、その生真面目すぎる性格に耐えられなくなった妻は、幼い娘を連れて実家に戻ってしまった。そんなティモの前に、三歳の時に別れて以来音信不通だった父、レオが現れる。やることなすこと破天荒なレオがどこからか用意してきた車で、なぜか旅に出ることになってしまったティモ。その行く先には、彼の知らない秘密が数多く待ち受けていた‥‥。

「ここはこうなるのかな」という想像を常にちょっとずつ裏切っていく展開が続く、ユーモアと温もりと、そして一抹の寂しさが漂う映画。レオ役のヴェサ・マッティ・ロイリはフィンランドの名優でありミュージシャンでもある人だそうで、ティモ役のサムリ・エデルマンも著名なミュージシャン。映画の中で二人が歌と演奏を聴かせるシーンは、二人の関係が大きく変わるきっかけにもなった印象的な場面で、思わず拍手を贈りたくなった。

離ればなれに生きてきた息子に対する父の思いは、最後の最後に、何を変えたのだろうか。

Aside

昨年末に公開されて以来、インド映画の歴代興収記録を軽々と塗り替えてしまった話題の映画「DHOOM 3」。その劇中歌の「Malang」のフルサイズのムービー。インド映画史上もっともお金のかかったミュージカルシーンではないかとも言われているが、アーミル・カーンとカトリーナ・カイフのアクロバットを交えた熱演は、まさに圧巻。日本での公開も噂されている「DHOOM 3」、その実現に期待。