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「ジェントルマン」

ここ最近、仕事で根を詰め続けてるので、息抜きがしたくなって、今日はオフ。キネカ大森にインド映画「ジェントルマン」を観に行った。

マイアミで大企業の営業担当として働くゴーラブは、イケメンで仕事もできるけれど、あらゆることに安定志向で、ガールフレンドのカヴィヤにも退屈がられている。一方、インドでは、彼と瓜二つの顔を持つ男リシが、政府の秘密組織の工作員として、苦悩を抱えながらも暗躍していた。ゴーラブとリシをめぐる謎。彼の正体とは……。

今日は本当に、頭を完全にカラッポにして、何にも考えずにスクリーンを見続けて、あー、すっきりした!と思いながら映画館を後にしたかったので、実際にその通りの気分を味わうことができて、満足。物語としては、ゴーラブとリシをめぐる謎がこの作品最大の仕込みどころで、その後はどうやって話をうまく畳むか、作り手もちょっと悩んだのではないかなと思う。アクション映画にしては、主人公が絶体絶命のピンチに追いやられる場面はほとんどなくて、良くも悪くも危なげなさすぎたし、悪役たちの店じまいのされ方も、至極あっさりしていた印象だった。

でもまあ、いいか。すっきりしたし。これはそういう楽しみ方をする映画だと思う。こういう映画も、あっていい。

「盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~」

ひさしぶりにアップリンク吉祥寺で観たインド映画「盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~」。主演はアーユシュマーン・クラーナーとタッブー。いやあ、ものすごい怪作だった。もちろん良い意味で。

盲目のピアニスト、アーカーシュは、ひょんなことで知り合った女性、ソフィの父親が経営するレストランでピアノ演奏の仕事をすることになり、評判の人気者に。店の常連で往年の映画スター、プラモードはアーカーシュの演奏を気に入り、後添いの妻シミーとの結婚記念日に自宅でプライベートコンサートをしてくれないかと依頼する。当日、プラモードの家を訪ねたアーカーシュが「見た」ものとは……。

この作品、とにかく脚本がトリッキーで、先の展開や伏線の回収の仕方がまったく予想できない。二転三転、四転五転と振り回され、最後の最後で「うわあ」とシビれ、「えっ、どういうこと?」と放り出されて終わる。おそらくかなりの低予算で撮られていると思うのだが、この緻密な構成には恐れ入ったと言う他ない。アーユシュマーンはこういう胡散臭いコミカルな役をやらせると最高に上手だし、タッブーは、まさに怪演、だった。

ちなみに、未見の方でこの作品に興味を持ったは、日本語版の公式サイトや予告編動画(このエントリーに埋め込んでるのは本国版の予告編)を見るのは避けて、映画館に直接行った方がいいと思う。主に序盤の展開に関する結構重大なネタバレがあるので……(何でこれをオープンにしちゃったんだろう?)。ただ、うっかり公式サイトや予告編を見てしまった方で「ああそういう映画か」と思い込んでる方も、やっぱり全編観た方がいいと思う。序盤のネタバレが吹っ飛ぶくらいの怒涛の展開が、中盤から後半にかけてあるので。

「Sui Dhaaga – Made in India」

タイ取材の行き帰りに機内で観た2本目のインド映画は「Sui Dhaaga – Made in India」。主演はヴァルン・ダワンとアヌシュカー・シャルマー。前から観たいと思っていた作品だったので、願ったり叶ったり。

舞台は北インドのとある地方都市。ミシン店の店員として働くマウジーは、父親譲りの仕立職人としての腕を活かすこともないまま、店でこき使われる日々を送っていた。ある時、店の経営者の親族の結婚式で、マウジーは犬のモノマネをさせられる。その姿を目にしてしまい、悲しみにくれる妻のマムター。マウジーは妻の言葉を聞いて店を辞め、路上での仕立屋稼業を始めるが……。

まず驚いたのが、いい意味で、主演の二人からボリウッドのトップ俳優のオーラをまったく感じなかったこと。ヴァルンはお人好しゆえにうだつの上がらない平凡な男を、アヌシュカーは無口で常に一歩下がった位置にいる控えめな妻を、それぞれ見事に演じている。そんな主人公の二人が、それぞれの秘めた才能——服の仕立とデザインの才能を少しずつ発揮して、いろんなトラブルに直面しながらも、家族や周囲の人々を巻き込んで、「Sui Dhaaga」(針と糸)としての独立開業を目指す。そのプロセスが、本当にほんわかと温かくて、時にはらはらさせられながらも、和んだ気分にさせてくれる。

サブタイトルの「Made in India」は、ある意味、この作品そのものにもあてはまる。インドだからこそ、作ることのできた映画だと思う。

「Gold」

今年のタイ取材で乗ったタイ国際航空の機内で、インド映画を2本観た。1つは「Gold」。フィールド・ホッケーのインド代表チームが、1948年のロンドン・オリンピックで金メダルを獲得するまでの実話に基づく物語だ。監督は「ガリーボーイ」で脚本を担当したリーマ・カーグティー。

ホッケーのインド代表チームは、第二次世界大戦前にも3大会連続で金メダルを獲るほどの強豪だったのだが、その3大会はすべて「英領インド」としての出場。独立国としてのインドが優勝したのは、1948年のロンドン・オリンピックが最初だった。

だが、この金メダル獲得に到るまでの道のりは、けっして平坦なものではなかった。特に、独立時にインドとパキスタンが分裂したことは、当時の社会のみならず、ホッケーのインド代表チームをも、バラバラに引き裂いてしまったのだ。アクシャイ・クマール演じるチームマネージャー、タパン・ダース(これは架空の人物であるらしい)は文字通り東奔西走し、時に私財を投げ打ってまで、代表チームの再建に取り組むのだが……。

手に汗握るスポーツものの映画としては、正直、競技のシーンにそこまでのダイナミズムはなく、演出と編集にもうちょっと頑張ってほしかったとは思う。ただ個人的には、インドとパキスタンに引き裂かれたチームメートたちが、ロンドン・オリンピックで再会するまでの道のりにぐっときた。国の威信と期待を背負わざるをえない代表選手たちが、かつてのチームメートとの友情を持ち続けていたことに。

カシミールをめぐる軋轢で、インドとパキスタンとの間では、再び緊張が高まっている。難しいことは承知の上だが、どうにかして互いに落としどころを見つけて、無辜の民が悲しみを背負わずにすむようになることを願っている。

「’96」


インディアン・ムービー・ウィーク2019が開催中のキネカ大森で3本目に観たのは、タミル映画の「’96」。ヴィジャイ・セードゥパティとトリシャーが主演の、タミル映画には割と珍しい(らしい)大人同士のしっとりした恋愛モノということで、観ることにした。

旅行写真家のラームは、故郷の町をたまたま訪れたことがきっかけで、高校時代の級友たちとの20年ぶりの同窓会に参加することになる。その会場で、かつてお互いに意識する同士だった初恋の女性、ジャーヌと再会する。翌朝のフライトで家族と住むシンガポールに戻るというジャーヌと夜のチェンナイの街をそぞろ歩きながら、二人は互いのこれまでの人生を打ち明ける……。

この作品、評価は観る人によって分かれるとは思うのだが、個人的には、正直言って、うーん……という感じだった。理由としては、3つほどある。

1つには、物語の設定についての素朴な疑問。主人公の二人は、とある理由で離れ離れになり、20年以上も連絡が途絶えていたというのだが、その一方でラームはほかの級友とはそれなりに連絡を取り続けていたという。それで互いの消息が人づてにまったく伝わらなかったというのは、普通に考えるとありえない。そこが気になってしまって、「んん?」とならざるを得なかった。

2つめは、僕が個人的に苦手に感じているインド映画特有の恋愛価値観のようなものが、予想以上にテンコ盛りだったこと。ネタバレになるので詳しくは書かないが、この作品に限らず多くのインド映画では、主人公がヒロインに朝から晩まで執念深くストーカー気味につきまとうのが、男としての愛情の深さを示している、という描写をしている例が非常に多い。でもそれは、やっぱり、今の時代とは相入れない価値観だと思うのだ。その点もどうしても受け入れられなかった。

3つめは、個人的に、主人公ラームに共感できなかったということ。外見はクマかライオンみたいにごついのに性格は内気で意気地なしという設定はわかるのだが、それにしても、さすがにうじうじしすぎだろ、と(苦笑)。人生で一番大切な思い人なら、執念や未練ではなく、勇気と決断で向き合って、踏み出すべき時に一歩を踏み出してほしかった。

……あと、職業が自分とまったく同じというのは、かなりこそばゆかった(苦笑)。旅行写真家って、インドではあんな風なイメージなのか。