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「PERFECT DAYS」

ヴィム・ヴェンダース監督の作品は、これまでにもそれなりの数を観てきた。個人的にものすごくフィットする好きな作品もあれば、正直そこまでピンと来ない作品もあった。で、最新作の「PERFECT DAYS」に関して言えば……大当たりだった。本当に素晴らしかった。

東京の下町に暮らす初老の男、平山は、渋谷界隈にある公衆トイレの清掃を生業としている。アラームもかけずに早朝に目覚め、植木に水を吹きかけ、はさみで口髭を整え、ツナギに着替える。缶コーヒーを買い、カセットテープの音楽を聴きながらワゴン車で出勤し、各所のトイレを黙々と手際よく掃除していく。神社の境内でサンドイッチと牛乳のおひる。大木の梢の木漏れ日を、コンパクトフィルムカメラで撮る。仕事を終えると、地元の地下街の飲み屋でいつもの晩酌。夜は、古書店の百均で買った文庫本を読みながら眠りにつく。

几帳面にルーティンを反復し続ける平山の日常は、同じような毎日に見えて、実は常に少しずつ違っている。同じように見える木漏れ日が、実は唯一無二の瞬間の連なりであるように。平山自身も、過去の苦い記憶と後悔と、自分自身の行末に対する漠とした不安を抱えている。それでも彼は、次の新しい朝を迎えるたび、空を見上げ、目を細める。

何気ない、でも、かけがえのない日常。その連なりこそが人生であり、だからこそ、すべての人の人生には、何かしらの意味があるのだと思う。

これから、世界は

自宅のネットワークやプリンタの設定やら、3カ月分の連載原稿の納品やら、新規案件の打ち合わせやら、確定申告の下準備やら、あれやこれやがとりあえず片付いて、ようやく少し落ち着いた状態になった。あさってから岡山に帰省し、年明けには神戸。2023年も、あともう少しで終わる。

2024年、世界は、どうなるのだろう。ロシアとウクライナ。イスラエルとパレスチナ。世界中のあちこちで、戦禍に見舞われている罪なき人々がいる。人間にとっての尊厳とは、正義とは何なのだろう、と考え込んでしまう。アメリカの大統領選も気がかりだし、日本の政治もめちゃくちゃだし。

これから、世界は、さらにぼろぼろと壊れていくのかもしれない。そんな中で、一人ひとりの人間にできることがあるとすれば……間違っていることに対してはきちんと声を上げ、選挙があれば必ず一票を投じてくる、ということに尽きるのかなと思う。それでも、どうにもならないことばかりかもしれないけれど、ただ諦めて傍観していては、何の歯止めにもならない。

どうなるのかな、世界は。

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アーシュラ・K・ル・グィン『所有せざる人々』読了。ヒューゴー賞とネビュラ賞のダブル受賞作という評価に違わぬ、凄い長編だった……。アナレスとウラスという二つの惑星で紡がれていく、物理学者シュヴェックの物語。アナレスとウラスの環境や歴史、社会制度、文化などについて、膨大な情報量の設定が緻密に組み上げられていて、その設定の舞台上で、それぞれの惑星で起こった出来事が、章ごとに交互に語られていく。シュヴェックはなぜ、アナレスを離れてウラスに向かったのか。時の流れがくるりと円を描いて繋がるかのように、物語は最後に彼の目的を明らかにして終結する。さすが、ル・グィン……。ゾクゾクするような読書体験だった。

浅草、押上、深大寺、三鷹


二週間ほど前から、ハワイ在住の友人夫妻(ご主人が米国人、奥さんが相方の親友で日本人)がひさしぶりに来日している。先週と今週、一日ずつ時間を作って、都内のあちこちを散策して回った。

先週は、浅草での待ち合わせからスタート。日本のレトロ喫茶に興味のあるご夫妻を、純喫茶マウンテンにご案内。良い意味でカオスな雰囲気の店内で、小倉ホットケーキやクリームソーダを堪能。その後はかっぱ橋道具街をぶらついて買い物したり、たばこと塩の博物館を見学したり、スカイツリーのふもとの喫茶店で休憩したり。夜は押上のスパイスカフェをひさしぶりに訪問して、最高においしいディナーをいただいた。

今週というか昨日は、三鷹駅前で待ち合わせて、バスに乗って深大寺へ。年の瀬の土曜にしては、思っていたほど混雑してなくて、ほっとした。玉乃屋という蕎麦屋さんで、天ぷらやおでんと一緒に深大寺そばをいただく。その後は神代植物公園をぶらぶら散歩して、別のお店で団子や饅頭をいただいて、夕方、三鷹へ。ユニテやデイリーズ、まほろば珈琲店を巡った後、夜はリトスタでクリスマスディナー。四人でいただくクリスマスディナーは、二人の時とはまた違った愉しさで、本当に良い夜だった。

こうした思い出を、一つひとつ、積み重ねていく。それが、限りある人生を生きるということなのかなと、今は思う。

横浜への旅


一昨日と昨日、一泊二日で、横浜まで旅行に行ってきた。

都心から片道一時間かそこらで行ける距離の横浜に、あえて一泊の旅行をしてきたのは、二つの目的があった。一つは、関内にあるスコティッシュパブ、ワイバーンに行くこと。都心から日帰りでも飲みに行けなくはないけれど、現地で宿を取っておいた方が、心おきなく飲めるので(笑)。ワイバーンさんは噂に違わぬ素晴らしさで、お酒のラインナップはもちろん、フードも丁寧に調理されていて本当においしかった。ブリュードッグのビール、ブルイックラディのハイボール、ヘーゼルバーンなど、たらふくいただいてしまった。

もう一つの目的は、憧れの老舗ホテル、ホテルニューグランドに泊まること。数カ月前にたまたま良心的な料金で予約が取れたので、めちゃめちゃ楽しみにしていたのだ。チェックインしてみると、用意されていた部屋は、山下公園や横浜港をぐるりと一望できる眺望の角部屋。設備もサービスも、品が良くて、でも気取りすぎてなくて、何から何まで行き届いているという、素晴らしいものだった。夜はぐっすり眠れたし、朝は軽めの朝食をルームサービスでお願いして、ベイビューを楽しみながらいただいた。最高だった。

他にも、中華街で人気の謝甜記貮号店で、一時間半ほど粘って旨い中華粥をいただいたり、山下公園や赤レンガ倉庫の界隈をぶらぶら散歩したりして、独特の異国情緒の漂う街を、のんびり満喫することができた。旅って、思っていた以上に気軽に楽しめるものなのだな、と再認識した二日間だった。

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チベットのむかしばなし しかばねの物語』読了。星泉先生が編訳を手がけ、蔵西先生が挿画を担当された本で、しかばねが主人公にさまざまな物語を語り聞かせるという、枠物語形式の一冊になっている。それぞれのエピソードがチベットらしい素朴さとのどかさ、そして意外性にあふれていて、それらを彩る蔵西先生のイラストの数々も本当に美しい……。読んでいて、幸せな気分になれる本だった。

あと何度、桜を

数日前からの雨は、満開になったばかりの桜の花を、早々と散らせてしまったようだ。今日、近所の小さな公園を通りがかった時も、桜の大木の下に、薄紅色の絨毯ができていた。マンションの隣の角地にある桜は、もうすっかり葉桜だ。

今になってみると、先週の火曜と水曜のあたりが今年の花見には最善だったようで、うちも、火曜日の春分の日に花見に行っておいてよかったと思っている。初めて目黒川の桜並木を見に行ったのだが、意外とのんびりと川沿いを散策できて、八分咲きくらいの桜を堪能することができた。

僕ももう、ええ歳こいたおっさんなので、毎年桜を見るたびに、あと何度、こうして桜が咲くのを眺めることができるだろうか、と思ってしまう。そこそこ普通に生きて、あと20回くらいか。めいっぱい粘って、あと30回? 逆にもっと少なくなる可能性も、もちろんある。いずれにせよ、残された機会は、そんなに多くはない。

桜の花に感じるセンチメンタルな気持には、そういう残された時間についての気持も、かなりの割合で含まれているのだと思う。

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今枝由郎・海老原志穂訳『ダライ・ラマ六世恋愛詩集』読了。ダライ・ラマ六世の詩というと、「白い鶴よ、翼を貸しておくれ……」の詩以外はあまりよく知らなかったのだが、この本に収録された100篇の詩を通読してみると、何というか……ほんとにどうしようもないけれど、愛し愛されずにはいられなかった、魅力的な方だったのだな、と。チベット仏教の最高指導者に選ばれながら、自ら僧位を返上して還俗し、女性を愛し、放蕩三昧の日々を過ごし、若くしてこの世を去った、歴代の中でもっとも愛されたダライ・ラマの一人。我々にもわかりやすく、小気味よく読めるように配慮された日本語訳も労作だし、海老原先生によるチベット詩の詳細な解説も興味深かった。そして蔵西先生の装画が、超美麗……。