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「バルフィ! 人生に唄えば」

barfi

この映画と最初に出会ったのは、インドへと向かう飛行機の中。ランビール・カプール主演なのか、とセレクトして観始めたのだが、英語字幕がなかったので冒頭の時間軸の入り組んだ設定が理解できず、その後も時間切れで、最後まで観れずじまい。それでもこの「バルフィ! 人生に唄えば」のことは不思議なくらいよく憶えていて、今回、日本での公開に先立ってマスコミ試写会に呼んでいただいた時、この作品との縁を感じずにはいられなかった。

生まれた時から耳が聞こえず、話もできないバルフィは、表情と身ぶり手ぶりだけで人々に思いを伝える、陽気で穏やかな心の持ち主。彼の暮らすダージリンの街にやってきたシュルティは、資産家の婚約者がいる身ながら、正反対の魅力を持つバルフィに惹かれていく。そしてもう一人、地元の有力者の娘でありながら、自閉症だったために親から疎まれて施設で育ったジルミルも、幼なじみのバルフィに心を開いていく。ダージリンで、カルカッタで、時に思いがけない事件に巻き込まれながら、出会いと別れをくりかえす三人の行末は‥‥。

ランビール・カプールが演じた主人公バルフィと、プリヤンカー・チョープラーが演じたジルミルには、作中を通じて台詞らしい台詞はほとんどない。でも、そんなことはまるで気にならないほど、二人のあふれる思いは画面からずんずん伝わってくる。特にプリヤンカーなんて、ミス・ワールドに選ばれるほどの絶世の美女なのに、この作品を観た後だと、他でどんなにきれいどころの役を演じてたとしても、もはやジルミル以外には見えない(笑)。それくらいの名演だ。サイレント時代を含む古き佳き映画を彷彿とさせる演出も、彼らの演技をぐっと後押ししている。舞台となったダージリンとカルカッタ(という名前だった頃の話)をはじめとする情景もじんわり沁みる。

生まれついての無垢な心のままに生きるバルフィと、彼を一途に信じて追いかけるジルミル。すべてを捨てることを怖れて、一度は自分自身の心に背いてしまうシュルティ。心のままに従って素直に生きることは、誰にとっても難しい。それをいともたやすく、まるで当たり前のように、軽やかに歩んでいくバルフィには、かなわないな、と思ってしまう。

ある意味、とても映画らしい、素直な映画。150分間、どっぷり浸って、存分に楽しめると思う。

羊肉の味

昼、銀座へ。シネスイッチで映画を観ようと思ったのだが、狙っていた回の一時間前に窓口に行ったのに、すでに立ち見のみという状態で、夕方の回にずらすことに。それまでの間、千疋屋でイチゴパフェを食べたり、近くの店を冷やかして、なぜか沖縄の肉味噌の瓶詰めを買ったりする。

映画を観終えた後、何年かぶりにグルガオンへ。ライオンスタウトを飲みつつ、カリフラワーをタンドールで焼いたのをつまんで、メインはマトンカレーとバスマティライス。たっぷりスパイスが絡んだ羊肉を口に入れたとたん、これだ、と思った。ここしばらく、僕に足りてなかったもの。これからしばらく不足が続くであろうもの。ラダックやインドでは当たり前のものだった、この羊肉の味と噛みごたえ。何だか懐かしい気分になった。

願わくば、骨付きの羊肉だとさらにリアルな記憶が甦ったのだけれど(笑)。

インド映画の邦題に思う

海外の映画が日本で公開される時につけられる邦題は、昔も今もよく議論を巻き起こしてきた。たとえば、少し前に日本で公開されていた「ゼロ・グラビティ」。僕も先日のバングラデシュ行の時に飛行機内で観たのだが、あれを観た人の多くが「原題の“Gravity”の方がふさわしいんじゃない?」という感想を持ったというのが、よくわかる気がした。

で、インド映画に関しては、英語圏の映画に比べると、こうした邦題にまつわる問題がより生じやすいのは間違いないと思う。その黒歴史の最たるものが「シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦」だった(苦笑)。去年公開された「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」や「きっと、うまくいく」も、ネットでは否定的な反応もあったが、僕としては、苦労して日本語で補った結果としてのそういったタイトルだったのかなと、ある程度納得はしている。

ただ、今年夏に日本で公開される予定の映画「English Vinglish」につけられた邦題が、「マダム・イン・ニューヨーク」というものだと聞いた時は、さすがにがくっときた。邦題なのに日本語ですらなく、何の興味も魅力も感じられないカタカナ英語のタイトルとは‥‥。「English Vinglish」は熱心なインド映画ファンの間で前評判が高く、日本での公開が熱望されていただけに、なおさらだ。この作品をろくに理解してないどこかのお偉いさんが鶴の一声でつけてしまったのではないか、と勘ぐりたくなってしまう。原題をそのままカタカナで「イングリッシュ・ビングリッシュ」にしてしまった方が、よっぽどよかったのに。

邦題は、お客さんを集めるためになりふり構わず付けるものではない。その作品の魅力と価値を少しでも正確な形でお客さんに伝えるためのものだ。作品の魅力と価値をしょうもない邦題が損なってしまうようでは、何の意味もない。

こうなってくると、非常に心配なのが、「Yeh Jawaani Hai Deewani」だな‥‥(苦笑)。松岡環さんのブログでは「この青春は狂おしい」と訳されていたけど。さて、どうなることやら。

「デリーに行こう!」

「デリーに行こう!」

2月15日(土)から公開されるインド映画「デリーに行こう!」の試写会に招待していただいたので、今日の午後、観に行ってきた。そういえば、映画美学校の試写室に入ったのは初めてだ。

デリーに行こう!」についての情報は、松岡環さんのブログなどで目にしていた。エリートキャリアウーマンのミヒカと、がさつなおっさんのマヌが、ひょんなことから道連れになって、デリーに行こうとするのだが、トラブルに次ぐトラブルで、なかなか辿り着けない‥‥という、インドのラジャスタンを舞台にしたロードムービーだという。そう聞いて僕は、インドのテレビドラマとかでよくある、典型的なベタでハチャメチャなコメディ(オーバーすぎる演技とかBGMとか、それはそれで好きなのだが)なのかなという先入観を持っていた。

ところがこの映画、思いのほか丁寧ですっきりした作りで、ベタなノリが苦手な人にも、王道を行くコミカルなロードムービーとして十分楽しめる。砂漠の星空と夜明け、ラクダが牽く荷車、列車の窓から吹き込む風‥‥。最初は高飛車で潔癖性だったミヒカも、旅の中で少しずつ変わっていく。トラブルに遭うたび「たいしたことはない!」と言い放っていたマヌの口ぐせも、物語の最後に、ちゃんと腑に落ちる。単なるコメディではない深みのようなものがある。

でも思うのだが、インドを訪れる日本人の旅行者にも、インドのもろもろに対してミヒカ並みに潔癖なリアクションをしてる人って、結構多いんじゃないかなと思う。僕はもう、何だかすっかり慣れてしまったのだが‥‥その方が変なのかな?(笑)

Aside

昨年末に公開されて以来、インド映画の歴代興収記録を軽々と塗り替えてしまった話題の映画「DHOOM 3」。その劇中歌の「Malang」のフルサイズのムービー。インド映画史上もっともお金のかかったミュージカルシーンではないかとも言われているが、アーミル・カーンとカトリーナ・カイフのアクロバットを交えた熱演は、まさに圧巻。日本での公開も噂されている「DHOOM 3」、その実現に期待。