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「イングリッシュ・ミディアム」

2017年に公開されてスマッシュヒットを記録した、イルファーン・カーン主演の映画「ヒンディー・ミディアム」。それとストーリー上はつながりのない続編「イングリッシュ・ミディアム」がインディアンムービーウィーク2021で公開されたので、キネカ大森まで観に行ってきた。

ウダイプルの老舗菓子店一族ガシテラームの一人、チャンパクは、妻を早くに亡くし、娘のターリカーと二人暮らし。英国の大学への留学を夢見るターリカーは、猛勉強の末、見事に留学生枠に選ばれる。しかし、学校の表彰式でチャンパクが起こしたトラブルのせいで、そのチャンスはふいに。娘の夢をどうにかして叶えてやりたいチャンパクは、ロンドンに住んでいるという旧友バブルーを頼って、折り合いの悪い従兄弟のゴーピーとともに、ターリカーを連れて英国に飛ぶが……。

前作のテーマはお受験だったが、今作では海外留学。大勢のインド人の若者にとって憧れではあるが、そのために必要な莫大な費用のことなどを考えると、恐ろしく狭き門でもある。この作品でも、トラブル続出のスラップスティックな展開のそこかしこに、インドと英国、それぞれの社会に対する風刺がピリリと効いている。そんな中でも、常に底流に流れているのは、父と娘の温かなつながり。そのぬくもりをおどけながらもじんわりと表現するイルファーンの演技は、さすがだと思う。

この作品は、持病の悪化で2020年に逝去したイルファーン・カーンの最後の出演作でもある。彼の演技を見届けたい方は、映画館で、ぜひ。

「マーリ」

インド映画の特集上映「インディアンムービーウィーク2021 パート2」を開催中のキネカ大森へ、昨日に続いて今日も行ってきた。今日観たのは、ダヌシュ主演の「マーリ」。

チェンナイで下町を仕切る札付きのチンピラ、マーリ。その荒っぽい素行のせいで町の人々からは恐れ嫌われ、新任の警部アルジュンにも目の敵にされていたが、地元で盛んな鳩レース用の鳩の飼育には熱心で、一羽一羽の鳩に惜しみない愛情を注いでいた。そんな中、この界隈でブティックを新しくオープンした女性、シェリーとの出会いがきっかけで、マーリを取り巻く事態はにわかに慌ただしくなっていく……。

序盤は割とのんびりした展開で、あーなるほどーと思いながら観ていたら、インターミッションの手前あたりで、オセロで大量の石が一気にひっくりかえるような想定外の展開に。南インドのアクションコメディ特有のベタなお約束は守りつつも、最後まで飽きさせない展開で、よくできた映画だなあと感心した。

丸グラサンと奇天烈なヒゲに、チンピラのステレオタイプみたいな衣装でマーリを演じたダヌシュは、悪党を演るのが本当に楽しそうで、気持ちいいくらいに振り切れていた。本国では2019年に続編も公開されているそうなので、日本でも、ぜひ。

「マスター 先生が来る!」

今のインド・タミル映画界の至宝と呼ばれている二人の俳優、タラパティ(大将)ヴィジャイと、ヴィジャイ・セードゥパティ。それぞれ主演で数々の大ヒット作を世に送り出してきた二人が、夢の競演、しかも主役と敵役として真正面から激突する。そのとんでもない映画「マスター 先生が来る!」が、ついに日本でも日本語字幕つきで上映されることになった。何というかもう、この時点ですでに感無量である。

大学で心理学を教えるJDは、多くの学生に慕われる存在だったが、辛い過去の経験からアルコールに依存する日々を送っていた。大学内での学生会長選挙をめぐるいざこざで、3カ月の休職と、ナーガルコーイルという街の少年院での勤務を命じられたJD。しかし、その少年院は、街で急速に勢力を拡大するギャング、バワーニの悪事の温床となっていた。バワーニの非道な仕打ちから少年たちを守るため、JDは単身バワーニの一味に立ち向かおうとするが……。

丸々3時間にも及ぶ大作だが、物語自体はすこぶるシンプル。JDとバワーニの二転三転の知恵比べのような展開があるのかなと予想していたのだが、最初から思いのほか、駆け引きなしのノープランでの力勝負が展開されるので、二人の過去の作品と比べると、ちょっと意外だった。バワーニの生い立ちは冒頭である程度描かれていたが、JDの生い立ちは第三者の台詞でかいつまんで説明されただけだったので、そのあたりももうちょっと見てみたかったかなと(二人に過去の意外な因縁があったりするとなお面白かったかも)。JDとバワーニ、それぞれの人となりをもっと知ってみたかった気もするし、二人の直接の絡みももっと見てみたかったとも思う。

ヒロイン陣の存在がほぼ空気とか、少年院行きの真相それでいいのかとか、例によってツッコミどころはたくさんあるのだが、まあ……細けえことはどうでもいいんだよ(笑)。タラパティとVSPがボッコボコに殴り合う最後の対決は、単純明快に、ただただ、めちゃくちゃ熱い。あれだけでも観る価値は十二分にあるし、何ならもう一回観に行ってもいいと思ってるくらいだ。二人とも、いいぞもっとやれ。

ふわ、ぱら、しみ


ビリヤニは、うまく作ろうとすると、本当に難しい。

パッキ式と呼ばれる一般的な作り方の場合、まずグレービーを作り、バスマティ米を半炊きして、それから両方を合わせて炊き上げる。バスマティ米は銘柄によって炊き上がる時間にかなりばらつきがある。グレービーの水分量も、少なすぎればパサついたり焦げ付いたり、多すぎればベチャベチャになったりする。ちょっとした塩梅の違いで、出来上がりに大きな差が出てしまう。現に、この間作った時は、ものの見事に失敗して、ひどい出来になってしまい、めちゃめちゃ凹んだ。

今日は、うまくいった。自分でもびっくりするくらい、本当においしかった。米を頬張ると、ふわ、ぱら、しみ……と、夢のようなハーモニーを奏でる。自分にとっては、理想的なビリヤニだった。

今回の分量と調理時間はしっかり記録してあるので、次もまた、この、ふわ、ぱら、しみ、のビリヤニが味わえる。楽しみだなあ。いつ作ろうかな。

『インドの奥のヒマラヤへ ラダックを旅した十年間』

『インドの奥のヒマラヤへ ラダックを旅した十年間』
文・写真:山本高樹
価格:本体1300円+税
発行:産業編集センター
B6変形判344ページ(カラー16ページ)
ISBN978-4-8631-1302-2

2021年6月中旬に、新刊を上梓することになりました。『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々』から『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』までの間に横たわる、ラダック、ザンスカール、スピティで過ごした十年余りの旅の日々を、一冊に凝縮してまとめ上げました。これまで詳しい内容を発表していなかった各地でのトレッキングの記録をはじめ、十年間という歳月を積み重ねてきたからこそ書くことのできた、濃密な内容になったと思います。

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