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人の物差し、自分の物差し

昔、飲み会の席で「一番好きなラーメンの店は?」という話題になった時、ある人が都心の高級中華料理店を挙げたので、その理由を聞くと、「あの有名俳優のナントカさんの行きつけの店だから」という感じの答えが返ってきた。

その人は、ナントカさんのおすすめコメントをテレビか雑誌で見て、店に足を運んだのかもしれない。きっかけとしては別に悪くないとは思う。ただ、その時の答えはどちらかというと、自分がその高級中華料理店を好きな理由を、ナントカさんの物差しを拝借することで立派に見せようとしているように感じられた。虎の威を借る狐、みたいに。

似たようなことは、僕も、世の中の人も、多かれ少なかれ、やっているのかもしれない。何かを選ぶ時に、人の物差しを参考にする。自信のなさを、人の物差しで補強する。でも、そればっかりでは、つまらなくないだろうか。自分自身の物差しで、好きなもの、嫌いなもの、正しいこと、間違ってること、一つひとつ決めていく方が、絶対に楽しいと思う。最初から確固たる物差しを自分の中に持っている人などいないのだから、試行錯誤しながら少しずつ精度を上げて、その過程を楽しんでいけばいいのに。

友人のラダック人のツェワンさんは、近所の主婦たちが料理を習いに来るほどの料理上手で、特にカレーは絶品なのだが、「好きな料理は?」と聞いたら、「スガキヤの坦々麺は、うまいですよね。あれは、うまい」としみじみ言っていた。それでいいんだと思う。

変わらない味

午前中、有明方面で取材。終わった後、銀座に向かう。三井昌志さんの写真展がキヤノンギャラリーで開催中だったので。ちょうど関健作さんもいらしてて、3人でしばらく話をしたり。

銀座で何かおひるを、と思って、そういえば前に閉店したニューキャッスルが、新オーナー&別の場所で復活していたはずと思い出し、行ってみた。店の雰囲気は前とはずいぶん変わっていた(そりゃそうだ、前の古い建物の雰囲気は独特すぎた)が、味は昔食べたあの辛来飯(カライライス)と同じだった。

その後は神保町に移動し、これまた昔からある喫茶店、さぼうるで、生いちごジュースを飲んで休憩。さかいやスポーツでアウトドア用のシャツやアンダーウェアを物色し、早めの夕食に、これまた古株のスヰートポーヅで餃子中皿定食。

今日行った店で口にしたのは、どれもこれも、昔から変わらない、懐かしい味の料理だった。流行に乗ったり、奇をてらったり、世の中にはいろんな食べ物を出す店があふれているけれど、ずっと変わらない味を作って出し続け、それを支持し続ける人も大勢いるというのは、やっぱりすごいことだと、しみじみ思う。

いちごの味

晩飯の食材の買い出しに近所のスーパーに行った時、何の気なしに、いちごを1パック買った。ついでに練乳も。いちごに練乳をかけて食うなんて、もう、いつ以来だか思い出せない。何十年ぶり、くらいかもしれない。

実家のある岡山は気候が温暖で、果物栽培も盛んだった。子供の頃、果物は当たり前すぎるくらいいつも食卓にあった。マスカットや白桃など、東京で買うと目玉が飛び出るくらい高価な果物も(もちろん地元で出回るずっと安いものだが)、季節になれば毎日のようにぱくぱく食べていた。

いちごも確か、親戚が露地栽培していた記憶がある。子供の頃、収穫の手伝いというか、もいでは食べ、もいでは食べ、していた記憶もある(笑)。あの時食べた、小さないちごの味だけは、今も不思議によく憶えている。すっぱかった。でも、たまらなくおいしかった。お日さまの恵みが、ぎゅうっと詰まったような味だった。

ビフテキとメーテル

昼の間に、推敲を終えた原稿を納品。これで出発までに終わらせる必要のあった仕事は全部片付いた。夕方になって雨が止んだので、歩いて吉祥寺へ。昨日の荷造りの時に足りないと気付いたものをいくつか買う。

晩飯は、吉祥寺の立ち食いステーキ屋で、リブロースステーキ。隣では僕よりも年配のおじさんがものすごい量のサーロインステーキをもりもり食べている。カウンターの反対側では若い女の子が一人で食べてるし、カップルも二組ぐらいいる。野郎御用達の店かと思いきや、客層もいろいろだ。

僕的には、「ステーキ」よりも「ビフテキ」という言葉の方が好きで、何だか愛着が湧く。子供の頃に見た「銀河鉄道999」で、メーテルが何かにつけてビフテキを食べていたのが、ほんとにうまそうで。あれによる脳への刷り込みは半端なかったと今でも思う。

ちなみに「ビフテキ」の語源は「ビーフステーキ」ではなく、フランス語の「ビフテック(bifteck)」という説が有力なのだそうだ。どっちにせよ、カタカナ4文字の「ビフテキ」が、一番うまそうだな。

「いいお客さん」になるために

昨日は丸一日、松戸で取材。日に4連チャンというのは、さすがにしんどい。帰りに寄り道して、しばらく前からよく行っているインドカレーの店で、晩ごはんを食べていくことにした。

店内は、大勢のお客さんでにぎわっていた。この店のお客さんのほとんどは、1人か2人で、店のウリのミールスやビリヤニをじっくり味わいに来る。でも昨日は、一番奥のテーブル席に、明らかに系統の違うグループが座っていた。4人がけのテーブル席に5人で座って(おかげで通路が狭くなって店員さんが苦労していた)、フードのオーダーは数皿のサイドメニューだけで、卓上には何本ものワインボトルとビールのジョッキが並んでいた。要するに、飲み会に使っていたのだ。騒々しい声で職場の内輪ネタをしゃべりあい、ゲハハハハ、と笑っていた。

飲食店の使い方としては、間違ってはいない。お店も、ほかのお客さんも、彼らに何かを言う筋合いはない。でも、お店にとって、彼らが「いいお客さん」だったかというと、そうは言えないと思う。

お酒をたくさん飲んでワイワイ楽しく騒ぎたいなら、居酒屋に行けばいい。ほとんどのお客さんがゆったり気分でカレーを食べに来る店で、わざわざ居座って酔っ払って騒ぐ必要はない。居酒屋なら、彼らも「いいお客さん」になれるだろうに。