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剥がれる靴底

一カ月前、インドのラダックに赴くため、早朝から列車を乗り継いで、成田空港に向かっていた時のこと。

神田駅で中央線から山手線に乗り換える時、右足の靴底に、何か引っ掛かるような感触を感じた。足を持ち上げてみると、トレッキングシューズの二重構造になっている靴底の外側の一部が、ぺろりと剥がれかけていた。

いやいやいや。まずいまずい。これから一カ月もインドに行って、取材やら何やらで毎日歩き回らなきゃならないのに、靴底が剥がれてちゃ、話にならない。どうしよう? 時間帯的に、靴を修理してくれる店はまだ開いていない。接着剤を売ってるホームセンターも開いていない。そもそも、飛行機の搭乗に間に合うように成田空港まで行かなきゃならないので、どこかに寄り道できる時間もない。はてさて……。

思案した挙句、日暮里でスカイライナーに乗り換える直前に、駅構内のコンビニに立ち寄って、アロンアルファを購入。スカイライナーの車内で、ちまちまと靴底を接着。これで、一カ月ももつのか……どうなんだ……。

結論から言うと、旅の間に何度か接着し直したおかげで、トレッキングシューズはどうにかこうにか、最後まで持ちこたえた。とはいえ、さすがにボロボロなので、今回でお役御免ということになりそうだ。はー、しかし、あの時は本当に、どうなることかと思った。

ペッパーくん

Pepper(ペッパーくん)は、2014年6月5日に誕生した身長121cmの人型ロボットです。音声や胸のタブレットを通じてのやりとり、顔認識・感情認識などの多彩なセンシング機能を搭載しており、人を惹きつけ笑顔にするそのキャラクターで、ご家庭や商業施設、教育施設、介護施設、オフィスなどさまざな場所で活躍しています。
(ソフトバンクのサイトより)

うちから徒歩数分の場所に、ソフトバンクのショップがある。用事がないので中に入ることはないが、通りに面してガラス張りの店の前を、毎日何度か行き来する。

店のドアから入ってすぐのところに、子供くらいの大きさの白いロボット、ペッパーくんが立っている。足はないが、頭と左右の手は人間の形状に近く、胸には液晶モニタがついている。顔の表情は、あるようでないというか、目の瞳孔が常に開いているようで、底なしの虚無感が漂っている。

以前、携帯の契約内容の変更か何かで店に入った時、ペッパーくんは別のお客さんのお子さん二人と、両手を指先まで細かく動かしながら、今二つ三つ噛み合ってない感じのやりとりをしていた。別のある日に店の前を通りがかった時には、周囲に誰もいないのに、ペッパーくんは斜め上を見上げながら、両手を宙でずっと動かしていた。誰と対話してたのだろう。彼にだけ、その人が見えていたのだろうか。

また別のある日、夜に店の前を通りがかると、薄明かりの中、両手を下げてがっくんとうなだれたペッパーくんが立ち尽くしていて、ぎょっとしたこともあった。

最近、近所のそのペッパーくんに、異変が起きている。顔はかろうじて正面を向いているが、背を丸め、両手をだらんと下げ、モニタは消えていて……動いていないように見える。コショウしたのだろうか。ペッパーなだけに……。

動くのをやめたペッパーくんは、通りから見えづらい柱の影に定位置を移され、力なく両手を下げたまま、開いた瞳孔で、今日も虚空を見つめている。

小代焼のマグカップ


しばらく前から、マグカップを買おうと思って、どこかに良いものがないかと、ずっと探していた。

僕は毎朝、仕事を始める前にコーヒーをたっぷりいれ、仕事机でパソコンの脇に置いて、飲みながら作業に取りかかるのをルーティンにしている。その時、コーヒーを飲むのに使っていた自分用のマグカップは2つほどあって(イッタラのオリゴのマグと、バーズワーズのパターンドカップ)、どちらも10年くらい愛用してきたのだが、もう一つ、把手つきで良い感じのカップがあるといいな、とも思っていた。

研ぎ澄まされた北欧デザインの食器も、米国のダイナーで使われていたファイヤーキングのような無骨な大量生産品も、それぞれに良さがあると思うのだが、今回は日本の焼き物で何か良いマグカップはないかと探していた。手作りで、焼き上がりによって表情が一つひとつ異なるようなもの。ただ、そういう品はそもそも生産量が少ないので、ネットショップでよさそうな品を見つけてもすでに完売していたりと、なかなか良い出会いがなかった。

でも、ついこの間、見つけたのだ。これだ、というのを。

奥村忍さんが運営する「みんげい おくむら」を何気なくブラウズしていた時に目にしたのは、熊本県の小代焼ふもと窯のマグカップ。サイズ的に自分にちょうどいい塩梅で、把手もゆとりのある持ちやすそうな形。鷹揚な感じでかかっている青白い釉薬の表情もいい。値段もそこまで高くないし。

注文して、ほどなく届いた品を手に取って、ますます気に入った。しっくり手になじむし、実際にコーヒーを注いでみると、内側の白い釉薬の部分と黒いコーヒーのコントラストが、とても良い佇まいになる。おかげで、毎朝コーヒーをいれて飲むルーティンが、ますます楽しみになった。

日々の暮らしの中で何気なく使っている器や道具に、長く愛着の持てる、きちんと良いものを選ぶと、それだけ心にゆとりが持てるような気がする。このマグカップも、大事に、楽しみに使っていこうと思う。

もひとつ、眼鏡


前回に引き続き、また眼鏡の話。

先日、第6回斎藤茂太賞の授賞式で賞金をいただいたので、せっかくなので記念に何か買おうと思い、眼鏡を一つ、新調することにした。金子眼鏡店だと、今月は誕生月割引が適用されるというので、ちょうどいいかと思って。

去年の夏に金子眼鏡店で作ったセルロイド製フレームの眼鏡がとても気に入ったので、今回はそれと同じシリーズの型違い&色違いで。写真の上が去年作ったもので、下が今回のものになる。

できあがった眼鏡をかけてみると、太いフレームなのに顔にすんなりなじんで、全然無理なところがない。相方には「えっ、それ、新しいの? わからない。違和感なさすぎ」と言われたが、まあ、それはそれでいいか(笑)。

この二つはいわゆる「お出かけ用」で、日常生活ではレンズ込みで5000円くらいのを複数使い分けているのだが、いつの日か、また何かの機会に賞か何かをいただく機会があったら、記念にまた別の眼鏡を作ろうかな……いや、もうないか、そんな機会(苦笑)。

とりあえず、残りの賞金は、今後に備えて、貯金しておこう……。

忘却の眼鏡

おっさんになるにつれ、年々、もの忘れがひどくなってきている。「絶対忘れないようにしよう」と心に留めたつもりのTO DOを、5秒後にはすっかり忘れ去って、思い出すこともできなくなっていたりして。

この間、去年買った眼鏡のフィッティングを調整してもらおうと思い立って、前日の夜に、携帯用の眼鏡ケースを物入れから取り出して、メガネをまとめて保管しているボックスのふたの上に置いておいた。翌朝、その携帯用ケースにフィッティングに出す眼鏡を入れていこうと思って。

で、次の日、その携帯用ケースをリュックに入れ、コワーキングスペースでの執筆作業に向かい、仕事を終えて家に戻る前、眼鏡屋さんに寄って、「フィッティングの調整をお願いします」と言いながらケースを出して、ふたを開けたら……。

何も入ってなかった。肝心の、フィッティングに出す眼鏡を、ケースに入れ忘れていたのだ。

笑いを噛み殺している店員さんに頭を下げて、そそくさを店を後にした。あんなにとんでもない赤っ恥をかいたの、ひさしぶりだった。

いやー。やばいよ本当に。ひどい。今でも恥ずかしいわ。