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「ビギル 勝利のホイッスル」

昨年に続き今年も開催されることになったインド映画祭、インディアンムービーウィーク2020。僕も何本か観に行こうと思い、最初に選んだのは、「ビギル 勝利のホイッスル」。“タラパティ”ヴィジャイが主演の、女子サッカーを題材にしたタミル語映画だ。

若くしてチェンナイのスラム街を仕切るマイケルは、かつてはビギルと呼ばれた、サッカーのスタープレーヤーだった。暴漢に襲われて重傷を負った親友の代わりに、マイケルはタミルナードゥ州の女子サッカー代表チームの監督を引き受けることになる。仇敵による卑劣な妨害の数々を受けながら、マイケルはバラバラになりかけているチームを率いて、かつての自分が手に届かなかった、栄冠を勝ち取ることができるのか……。

以前観た「メルサル」や「サルカール」と同様、この作品もヴィジャイが主演する映画らしい、いい意味での「お約束」が満載の娯楽大作だ。格闘シーンはキレッキレだし、ダンスシーンは華やかだし、笑わせどころも泣かせどころもふんだんに盛り込まれていて、3時間近い尺の長さが、まったく苦にならない。

そんな娯楽大作としての「お約束」を外さない一方で、専業主婦業の強制やアシッド・アタック、さまざまな場面での女性蔑視など、インドが(そして日本を含む世界の多くの国々が)長年の課題としている女性のエンパワーメントという社会問題も真正面から扱っている。そういったメッセージの伝え方も、アトリ監督とヴィジャイらしいな、と思う。

しいて気になった点を挙げるとしたら、この作品でのサッカーという競技の描かれ方には、正直言ってあまりリアリティがない。絵的に映えるからだろうけどヒールリフトやボレーシュートが異様に多いし、マイケルによるトレーニングや試合中の戦術指導にも、具体的にナルホドと思えるような仕掛けはほとんどない。選手を意図的に審判に体当たりさせたら一発退場になるのが普通だ(笑)。ビギルことマイケルが、選手として、監督として、何が凄いのかが、全体を通じていまいちピンと来ない。「ダンガル」での女子レスリング競技の描かれ方と比べると、もう少し工夫できなかったかな、と思ってしまう。

ともあれ、喜怒哀楽の感情デトックス効果で、観終わった後にすっきり爽快な気分になれる、良い映画だった。

スポーツへの興味を失ったことについて

気がつけば、しばらく前から、スポーツというものへの興味を失ってしまっている。

もともと、テレビの電源を入れる頻度が減っていたこともあるが、サッカー日本代表の試合中継さえ、親善試合レベルだと見なくなった。オリンピックは昔からまったく見ていない。プロ野球もJリーグもテニスも、全然である。この調子だと、次のワールドカップも見る気になれるかどうか、かなりあやしい。

何でこうなったのか、自分の中での理由をひもといてみると、おおまかに分けて、3つの原因があるように思う。まず、ショーアップされすぎた試合中継のあざとさと稚拙さにうんざりしたという点。次にFIFAや五輪組織委での長年の不祥事をはじめとする汚職と賄賂にまみれたスポーツビジネスにうんざりしたという点。そして、八百長やドーピング、脱税、レイシズムなど、選手側に蔓延する問題にうんざりしたという点、といったところか。

もちろん、この世界には、日々真摯にそれぞれの競技の道を極めようと努力している選手の方々が大勢いることは理解している。でも、そういう選手たちの努力を台無しにしてしまうほど、彼らを取り巻く最近の環境には、どす黒い汚濁が蔓延しているように見えてならない。

観戦する側も、そこまでバカじゃないのに、と思うのだが、どうなんだろ。

耳慣れた国歌

終日、部屋で仕事。昨日取材した件の構成決めと、音声起こし。ほどほどのところで切り上げ、ビールの栓を開けつつ、ひさしぶりにテレビをつける。サッカーU-23代表の五輪最終予選がちょうど始まるところだった。対戦相手はタイ。

試合前に両チームの選手が整列し、それぞれの国の国歌が流れる。タイの国歌がテレビから流れてきた時、妙に耳慣れた感じがする歌だなあ……と考えていたら、はたと思い当たった。

タイでは毎朝8時と夕方6時に、テレビやラジオからタイ国歌が流れる。人々はどこにいてもピタッと立ち止まり、直立不動で国歌に耳を傾ける。毎年秋のタイ取材では、ほとんど毎日この国歌タイムに遭遇するから、いつのまにか僕の耳にすっかり馴染んでいたのも、当たり前といえば当たり前だ。

考えてみたら、毎年約1カ月、3年連続でタイに行ってるんだよなあ……今年も行くことになるのだろうか。いったい、いつまであの国に行くことになるのだろう。うーむ。ま、いいか。

自分たちのサッカー

朝の五時に起きられる自信がなかったので、昨日の夜から徹夜して、ワールドカップの日本対コロンビアの試合を観る。グループリーグ突破のためには勝つしかない日本はリスクを冒して攻め続けたが、結局、1-4で敗れた。

今回のワールドカップに臨んだ日本代表の選手たちが揃って口にしていたのは、「自分たちのサッカー」という言葉だった。日本人特有のアジリティ(敏捷性)とテクニックを活かし、ボールも人も動かしながら攻守にわたって組織的に連動するサッカー。グループリーグを最下位で敗退という無惨な結果に終わった今、その言葉を揶揄するように使う人もいるが、個人的には、その「自分たちのサッカー」を出そうとすること自体は、間違ってなかったと思う。

ただ、ワールドカップに出場するような強豪国に対して「自分たちのサッカー」を90分間出し続けることは、相手も日本のやり方や弱点を周到に研究しているし、なかなか難しい。「自分たちのサッカー」をうまく出させてもらえない時にどうするかというアイデアの引き出しが、今の日本代表には足りなかった。

日本に先制されながら、わずか2分間で逆転に成功したコートジボワール。日本戦で退場者を出しながらもしのぎ切り、結果的にグループリーグを突破したギリシャ。先発を8人も入れ替えたために連携の精度を欠きながらも、抜け目なく隙を突いて加点していったコロンビア。どの国も日本を相手に試合を完全に支配していたわけではなかったが、要所を締め、勝負どころをきっちりとものにするしたたかさを持ち合わせていた。

自分たちと同等かそれ以上の力量を持つ相手に対して、どうやって「自分たちのサッカー」を安定した形で出し続けていくか。それをうまく出せない時は、試合の中でどう臨機応変に工夫して、しぶとく勝利をものにしていくか。そういう本当の意味での実力と勝負強さをナショナルチームが身につけるには、きっと、長い長い年月をかけての積み重ねが必要なのだろう。

でも、悲観はしていない。日本代表はこの20年ほどの間に、他の国々が驚くほど順調に力をつけ、経験を蓄えてきた。今のユース世代にも、優れた才能を持つ選手たちはたくさんいる。進むべき道は、間違っていないと思う。

そして二度寝

朝、七時頃に起きてテレビをつけ、ソファにもたれてぼーぜんとしつつ、ワールドカップの日本対ギリシャの試合を見る。

退場者を出しながらも守備の職人たちがゴール前を固めるギリシャを、なかなか崩し切れない日本。ボールは圧倒的に保持してるけど、点の入る匂いが全然しない。結局、スコアレスドローで試合終了。まあ、これもまたサッカー。

リモコンでスイッチを消し、そのままベッドに直行して、二度寝(笑)。だって眠かったんだもの。今日は一日、家にいられるし。

くやしくて寝つけないかと思いきや、思いのほか、ぐっすりと眠れた。