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愉しむ気持

今日は割とのんびり。一昨日の打ち合わせの際にこちらで用意することになった、本の全体構成案を煮詰めていく。

僕は今まで、いろんなジャンルの本を作ってきたが、自分が特に好きなテーマの企画だと、どんな作業でも愉しいというか、文字通り、時を忘れて没頭してしまう。先月末に書いていたエッセイの原稿もそうだったし、今回の本(まだ作れるかどうかわからないけど)の作業もそう。本当に、愉しくて愉しくてたまらない。きっと、ニヤけた顔でモニタを見つめていたに違いない(笑)。

作り手がそうやって愉しむ気持を本に込めることができれば、それはきっと、読者にも届く。逆に言えば、作り手自身が何の思い入れも持たずに作った本には、たとえそれがどんな内容のものであろうと、一番大事なものが込められていないのだと思う。

見えないゴール

午後、赤坂で打ち合わせ。先月下旬に僕がプレゼンした本の企画について、担当になっていただいた編集者さんと話し合う。彼が社内の新刊会議でこの本の企画を提案して、トップの承認が得られれば、正式に取材と執筆に取りかかることができる。

「‥‥この本を、僕たちが作りたい形で承認してもらうにはどうすればいいのかを考えましょう!」

編集者さんにそう言ってもらえると、本当にありがたい。いい意味での共犯関係が結べたような気がする(笑)。

これから一生懸命努力しても、この本を必ず作れるようになるとはかぎらない。もしかすると、ボツになるかもしれない。見えないゴールに向かって全力で突っ走るのは、かなりの覚悟がいる。それが、この仕事の一番きついところであり、一番面白いところでもある。

どっちにしろ、何もしなければ、何も始まらない。やるしかないか。

自分の原点

夕方、渋谷へ。映画美学校で開催される「マイキー&ニッキー」という映画の試写会イベントに行く。まさか、2011年になって、ジョン・カサヴェテスの姿を日本の映画館のスクリーンでまた観ることができるとは‥‥。今日は彼の命日でもある。

上映前には、映画プロデューサーの松田広子さんによるトークショーが行われた。松田さんは当時、雑誌「Switch」の編集者として、当時日本ではほとんど知られていなかったカサヴェテス(59歳の若さでこの世を去ったばかりだった)を丸々一冊取り上げた特集号を編纂した方だ。トーク中は、松田さんが米国でピーター・フォークやサム・ショウ、ベン・ギャザラ、そしてジーナ・ローランズを取材で訪ねた時に撮影されていたビデオが上映された。それを観ていると、懐かしさとともに、いつのまにか忘れかけていた熱い気持がこみ上げてきた。

今から二十年近く前、僕は松田さんたちが在籍していた「Switch」の編集部で、使い走りのアルバイトをしていたことがある。まだ右も左もわからない青二才だった僕が、初めて本気で本作りの仕事を目指そうと決意したのは、このカサヴェテス特集号をはじめとする数々の素晴らしい記事を作り出した、松田さんたちの仕事ぶりを目の当たりにしたからだった。真のプロフェッショナルの仕事とは、ありったけの情熱と愛情を注ぎ込むものなのだということを、僕はそこで学んだ。今も手元にあるこの一冊は、僕にとっての原点であり、目標であり、ある意味で未だ越えられない壁なのだと思う。我ながら、最初からずいぶん高いハードルを設定してしまったものだ(笑)。

イベントが終わった後、たぶん十数年ぶりに松田さんにお会いして、ご挨拶をした。‥‥めっちゃ緊張した(苦笑)。松田さんは二年前に僕が勝手にお送りしたラダックの本のことを憶えてくださっていて、素直に嬉しかった。会場から外に出ても、熱い気持はまだ引かなくて、身体がカッカと火照っていた。渋谷駅まで、ダーッと一気に走っていきたいくらいだった。

今まで自分がやってきたことは、間違っていなかった。でも、やるべきこと、目指すべきものは、まだ遥か先にある。

Aside

一カ月前に登録していたAmazon.co.jpの著者ページが、ようやく正式に承認された。僕の簡単なプロフィールと主な著作の一覧が表示されるページだ。

この著者ページは、情報の登録後、Amazon側が出版社に問い合わせて本物の著者かどうかを確認してから、正式に承認される。通常は一週間くらいで承認されるらしいが、今回やたらと時間がかかったのは、Amazon側からの問い合わせが出版社にちゃんと届いていなかったためらしい。双方に確認して、ようやく承認に漕ぎ着けた次第。

まあ、あればあったで、もしかすると役に立つかもしれないページなので、とりあえず。

上阪徹「書いて生きていく プロ文章論」

このブログでも何度か書いたが、僕は最近、ある地方自治体から依頼された、文章術の講師のような仕事を担当している。その地方自治体のプログラムに参加している一般の方々が地元のNPOや市民団体を取材して書いたレポートを添削し、どこをどう直せばよりよい文章になるか、ミーティングの場で相談に乗るというものだ。

文章の書き方なんて、誰かに教わったこともなければ、教えたこともない。依頼を引き受けた時は、正直どうしたものやらと途方に暮れていたのだが、ミーティングで自分なりの取材の仕方、文章の書き方について話をすると、参加者の方々は「へぇ〜」「ほぉ〜」といった感じで、かなり興味を示してくれた。自分では日頃からごく当たり前にやっていることなのだが、ライターがどんな風に仕事をしているのかということは、世間ではあまり知られていないようだ。

そんな経験もあって、これを機に自分自身の仕事を振り返ってみようと思って手にしたのが、この「書いて生きていく プロ文章論」という本だった。

この本は「文章論」と銘打たれてはいるが、著者の上阪徹さんが冒頭で言及しているように、文章の「技術論」ではなく、「文章を書く上での心得」について書かれている。上阪さんは、経営や金融、ベンチャーなどの分野で活躍されている辣腕のライターで、知名度や実績では僕は足元にも及ばないが(笑)、ほぼ同年代で、同じようにインタビューの仕事を中心に手がけてきたこともあって、共感できる「心得」もずいぶん多かった。読者をしっかりとイメージすること、何を伝えたいのかを突き詰めていくこと、文章術と同じかそれ以上にインタビュー術が重要だということ‥‥。僕にとっては、新たな「発見」というより、自分の仕事の仕方を「再確認」させてもらった一冊。自分に足りない部分があるとすれば、それはこうした「心得」の一つひとつを、ちゃんと徹底しきれていない時があることだろう。同業者の方々も、読み進めていくうちに「うっ!」と思わされるくだりが少なからずあるのではないだろうか。

この本のあとがきで上阪さんは「考えてみれば、本書は〝自分の考え〟を〝自分の言葉〟で構成した初めての本です。もしかすると、初めての本当の自分の本、といえるのかもしれません」と書いている。すでにベストセラーを含めて何十冊もの本を出している方だけど、そんな風に「初めての本当の自分の本」と思える一冊を書けたというのは、喜びもひとしおだったのではないかと思う。自分が心の底から大切にしていることを伝えるために、ありったけの思いをこめて、文章を書く。それはこの仕事で一番、愉しくて、難しくて、やりがいのあることだから。