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トラベルライターと呼ばれて

去年あたりから、「トラベルライター・写真家」という肩書で人前で紹介される機会が多くなった。

十数年前にフリーランスになった時、僕はIT系の雑誌の編集者をしつつ、広告・デザイン系の雑誌でインタビュー主体のライターもしていた。当時はまさか、今の自分がこんな肩書で呼ばれるようになるなんて、想像もしていなかった。特に自分で肩書や営業先を変えたわけではないけれど、ラダックについて書いた二冊の本で、結果的にそういう風に見られるようになったということなのだろう。

今年の後半には、あるガイドブックの改訂のために必要な海外取材の依頼も受けているのだが、そういう完全な請け負い仕事としてのトラベルライターの業務をさらに増やしていくべきかというのは、正直悩みどころ。もちろん、やってやれなくはない。けど、それは自分にしかできない仕事かと言われると、そうでもない気がする。

行きたい場所に行き、見たいものを見て、撮りたいものを撮り、書きたいことを書く。自分らしい旅をやりきった成果をカタチにするのが、僕がトラベルライターとして力を入れていくべき仕事なのだろう。その橋頭堡にするための企画を自ら作って提案していくことを、粘り強くやっていかなければ、と思う。

雌伏の時

年が明けてしばらく経つが、去年から続いている作業とは別に、僕個人が発案した企画は、なかなかスタートが切れないでいる。

そもそも、その企画は、決して通しやすい企画ではない。どの出版社に持ち込んでも、十中八九、断られるだろう。企画の良し悪し以前に、そのジャンル自体が売れにくいという宿痾を背負ってしまっている。でも、僕はその本を作りたいのだ。それがこの世界に存在するということに、意味があると思うから。

出版社の編集者の方も、無理筋なのを承知の上で、懸命に動いてくれている。今は、じっと待つしかない。

バーナード・マラマッド「レンブラントの帽子」

バーナード・マラマッド「レンブラントの帽子」吉祥寺の一人出版社、夏葉社さんの本は、何だかんだで既刊のものはほぼ全部買い揃えていると思うのだが、なかなか読破できずにいた。何というか、普段の書き仕事で頭がくたくたの時に、さらっと読んでしまいたくなかったのだ。落ち着いてゆったりした気持の時に対峙したい、とずっと思い続けていた。

年末年始の帰省の時、新幹線での移動中や、紫煙のたちこめるコメダ珈琲店での暇つぶしの間に、「レンブラントの帽子」を読んだ。四半世紀以上前に集英社から刊行されていた同名の短編集から、代表的な三編を抜粋した本。一人で出版社を立ち上げ、最初の一冊に選んだのがこの本とは‥‥すごい選択眼と度胸だなあ、と思う。

バーナード・マラマッドの本は初めて読んだのだが、抑制が効いた中にも、非常に繊細な描写をする人だな、と感じた。何気なく声をかけたひとことがぎくしゃくとしたすれ違いを生じさせてしまう表題作に、その真骨頂が現れている気がする。

個人的には、その次に収録された中編「引出しの中の人間」の方がより印象に残った。ソ連を旅行中の米国人のフリーライターと、発表するあてのない小説を書き溜めているユダヤ系ロシア人の男の邂逅の物語。モスクワやレニングラード(現在はサンクトペテルブルク)は、僕が初めての海外一人旅の途中に立ち寄った街だ。当時はソ連が崩壊して間もない頃で、ロシア国内は混迷の極みにあったのだが、その旅のことを思い出しながらこの小説を読むと、何だか複雑な気分になる。あと、作中に登場するユダヤ系ロシア人の男が書いた四編の小説のプロットは素晴らしい。それぞれを独立した作品として読みたいくらいだ。

この「レンブラントの帽子」、夏葉社さんのTwitterで見た情報によると、今年再び増刷される予定だという。まだ読んでいないという方は、それを待って入手するといいと思う。

まだまだやれる

2012年、最後のブログ更新。

毎年同じことを言ってるようだが、今年もいろいろあった一年だった。仕事の面では、前の年からじっくり準備していた「ラダック ザンスカール トラベルガイド」をようやく上梓。ラジオに何度も出演させてもらったり、パタゴニア大崎店で大規模なスライドトークイベントをさせてもらったり、それなりにいろいろやれたと思う。夏にひさしぶりに訪れたスピティで、たくさんの村を歩いて訪ねることができたのは得難い体験だったし、母の付き添いで訪れたアラスカでは、これからの自分が目指すべきもののヒントも得られた。

でも、そうした出来事をふりかえって感じるのは、自分はまだまだやれる、ということ。その時その時で力を出し惜しみしていたわけではない。しかしこれからは、自分が一番力を使うべき分野に、もっと集約するように心がけなければならないな、と思う。仕事を選り好みするのとはちょっと違うが、一番大切にすべきものがおろそかにならないよう、うまくバランスを取っていきたい。

そう、僕は、まだまだやれる。

仕事納め

午後、自転車に乗って小金井へ。鉛色の空の下、空気はとことん冷え切っていて、自転車をこげばこぐほど、指先がぴりぴりとかじかんでくる。

昨日までにチェックを終えた初校のゲラを中村さんにお渡しし、打ち合わせの後、きょとんとしてたナロにも挨拶して(笑)、帰路につく。今にも雨が降り出しそうだったが、どうやら濡れずに家に着くことができた。

これで、今年は仕事納め。今回の本づくりの作業自体は年が明けてからもしばらく続くので、あんまり仕事が納まったような気分にもなれないのだが、今のところ特に大きなトラブルや手戻りもなく順調に進行しているので、とりあえずはひと安心。心穏やかに年を越せそうだ。

それにしても、寒いな。明日は一日、本を読んで過ごそう。