Tag: Book

編集者とライターの目線

昨日の夜は新宿で、知人の団体主催の電子書籍関連のイベントに参加。こういう同業者が集まる会に顔を出したのは、割とひさしぶりかもしれない。

終了後の飲み会の席で、こんなことを訊かれた。本を作る時、ライターとしての目線と、編集者としての目線は、どこで切り替えているのか? と。

僕の場合、書いてる間は常にライター目線だと思う。原稿が仕上がってゲラとして目の前に出てきた時、初めて編集者モードに切り替えて、突き放した目線で本として仕上げていく。だったら、原稿を書く前に構想を練ったり、途中で構成を検討したり、書き上げた原稿を推敲する時は編集者目線ではないのかと言われると、僕はそういうのも含めて常に同じ感覚で検討している。一冊の本としての完成形をまずきっちりイメージして、そこに向かって作り込んでいくのだが、ほとんどの場合、書きはじめる前に構成は固まっていて、ものによっては台割まで決め込むこともある。それはライターより編集者の目線に近い、と指摘されるなら、そうなのかもしれないけど。

どちらかというと、制作の各段階で俯瞰して全体を見渡したり、細部の精度にこだわったりといった切り替えの方が、一人で本づくりをする際には重要になると思う。うまくいってると思い込むと、往々にして失敗の原因になるから。

「ウェブ配色 決める! チカラ 問題を解決する色彩とコミュニケーション」

「ウェブ配色 決める! チカラ 問題を解決する色彩とコミュニケーション」ウェブ配色 決める! チカラ 問題を解決する色彩とコミュニケーション
文:坂本邦夫
価格:2415円(税込)
発行:ワークスコーポレーション
A5判224ページ(カラー216ページ)
ISBN978-4862671394

編集の実作業の一部を担当した書籍がまもなく発売になります。Webデザインにおいて重要な要素となる「配色」について、単なるセオリーだけでなく、制作時のさまざまな場面で必要なコミュニケーションによる問題解決のノウハウも紹介しています。以前、僕が企画・編集を担当した「これは「効く!」Web文章作成&編集術 逆引きハンドブック」のフォーマットの流れを汲む、Web制作に役立つ一冊です。

才能と職能

「一人で、書いて、撮って、編集して、一冊の本を作れるというのは、あなたの才能ですよ」という意味のことを、最近、何人かの人から言われた。

たぶん、僕の場合、持ち合わせているのは「才能」ではない。本づくりの仕事に携わるようになってから、必要に応じて身につけてきた「職能」だ。それは、そこそこの水準には達しているかもしれないけれど、個々の分野で燦然と輝きを放つトップクラスの「才能」には追いつけない、という限界も感じている。自分の「職能」の限界は、ずいぶん前から、自分でもびっくりするくらい素直に認めている。

ただ、個々の分野で煌めく「才能」を持っている人たちが、それを世の中に向けてうまく発揮することができずに、道半ばであきらめていくのも、僕は何度も見てきた。彼らには、いったい何が欠けていたのだろう。ほんのちょっとした巡り合わせか、運か‥‥。あるいは、いてもたってもいられないほどの、何かを「伝えたい」という思いか。

今までも、これからも、僕は地べたを這いずるように、じりじりと前に進んでいこうと思う。目指す先に「伝えたい」と思えるものがあると信じて。

ぶれない軸

昨日、今日と、自宅にほぼカンヅメ状態で仕事。去年の暮れから手がけている書籍の最終的なゲラチェック。一昨日の段階で、版元から校了日を二日前倒ししてほしいというびっくりするような打診を受けたが、関係者各位のおかげで、どうにかそれにも間に合いそう。

今回の仕事は、書籍の編集の実作業(進行管理と原稿整理、校正の取りまとめなど)のみを請け負っていて、企画や構成にはノータッチなので、自分の仕事という手応えは正直それほど感じていない。依頼された部分をきっちり仕上げるという点においては、プロとして手を抜いたりはしていないけれど。

昨日のエントリーの続きみたいな感じだが、よろず屋である僕のところにはいろんな仕事が舞い込んでくる。よっぽど条件や内容が折り合わなかったりしないかぎり、基本的には引き受ける方向で検討する。その点では、変なプライドが邪魔したりはしない。依頼した側がびっくりするくらい(笑)、ホイホイと軽いフットワークで引き受ける。

ただ、僕の中心には、「自分らしい旅を、自分らしい形で本にする」という、ぶれない軸がある。その軸があるから、ほかにどんな仕事が来ても、さくっと手がけられる気持の余裕があるのだと思う。ポリバレントな能力は、ぶれない軸があってこそ、いつか、本当の意味で活かせる場面が出てくるのだとも思う。

まとめると、がんばろ、ということかな。

ポリバレントという価値

昨日の飲み会でも話題になったのだが、紀行文やガイドブックといった旅行書を作る仕事は、つくづく国際情勢に左右される産業だな、と思う。

たとえば今、ラダックが属するインドのジャンムー・カシミール州は、西方のパキスタンとの停戦ライン付近で、両軍の部隊の交戦が続いている。今のところは小規模な武力衝突だが、間違って何かがこじれたら、大きな戦争にならないともかぎらない。そうなると、ラダック自体にその影響が届かなかったとしても、ラダックに関する書籍などの企画の実現は、しばらく困難になるだろう。

カシミールに限らず、ほかの国や地域だって、天災、人災、いつ何が起こるかわからない。仮に何かが起こった時、そのせいで自分の生活が立ち行かなくなってしまったら、かなりまずい。そういう万が一のことも想定した危機管理について、あらためて考えておかなければ、と感じている。

幸か不幸か、僕は純血のトラベルライターではなく、コンピュータやクリエイティブ系の雑誌や書籍の仕事もしているし、インタビューを中心にしたライターの業務もしている。よろず屋と言えばそれまでだが、種々雑多な仕事を通じて蓄積した経験値で、どんな依頼でもそれなりに対応できるという強味はあるかもしれない。

旅について書くことを仕事の主軸にしたいけど、それ以外の仕事を変に選り好みして、間口を狭めたいとは思わない。大切な目標をおろそかにしないという前提で、自分が作ることに意味が見出せる本なら、積極的にチャレンジしたい。

昔、サッカー日本代表の監督だったイビチャ・オシムは、複数のポジションをこなせる選手のことを「ポリバレント」(多価)と呼んでいた。一人の本の作り手として、そういう価値を持てるようになりたいと思う。