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大船での一日

先週の土曜は、ポルベニールブックストアでの『旅は旨くて、時々苦い』刊行記念トークイベントに出演するため、大船へ。午前中のうちに家を出て、湘南新宿ラインで移動し、昼過ぎに大船に着いた。長丁場に備えての腹ごしらえは、サバの一味焼き定食。脂の乗ったサバで、美味しかった。

午後から夕方まで、ポルベニールブックストアに在店して、写真展示や新刊の内容をお客さんに説明したり、本を購入された方へのサイン対応などをしていた。人数はそこまで多くなかったが、一人ひとりの本の平均購入冊数がすごくて、びっくりした。持ち切れるの?と心配になったくらい。お店の売上に少しは貢献できたのかもしれない。

夜からのトークイベントは、旅音の林澄里さんとのひさびさの掛け合いで、とても愉しかった。ノープランでフリーダムな感じでしゃべり倒してしまったが、林さんにうまく受け止めていただけて、つつがなく終えることができたと思う。本当に感謝しかない。

これで、九月の大きなイベントで残っているのは、今週末土曜のよみうりカルチャーの公開講座の二回目だけになった。本業の書き仕事の方もそろそろペースアップせねばだし、いろいろ整えながら進んでいこうと思う。

『旅は旨くて、時々苦い』

『旅は旨くて、時々苦い』
文・写真:山本高樹
価格:本体1200円+税
発行:産業編集センター
B6変型判240ページ(カラー16ページ)
ISBN 978-4-86311-339-8
配本:2022年9月中旬

異国を一人で旅するようになってから、三十年余の日々の中で口にしてきた「味の記憶」を軸糸に綴った二十数篇の旅の断章が、『旅は旨くて、時々苦い』という一冊の本になりました。一部の書店では、特製ポストカード2種1組とセットにして販売されます。ポルべニールブックストアでは、サイン本と特製ポストカードのセットを店頭とWebショップで販売していただく予定です。よろしくお願いします。

一冊、一冊

午後、西荻の喫茶店それいゆで、初対面の編集者の方との打ち合わせに臨む。

その出版社との仕事は今回が初めてで、作ることになりそうな本のジャンルも、今までに経験したことのない分野だ。2時間近く、あれこれ打ち合わせをしているうちに、自分の内側のテンションが、じりじり上がってくるのを感じる。未知の領域への挑戦に、少しワクワクしていたのかもしれない。

相手の編集者の方も、びっくりするほど熱心で、著者の意志を尊重するのと同じくらい、自分たちの積み上げてきた媒体の価値に自負を持っているのを感じた。今度は、良いチームワークを実現できそうな気がする。それも、少しワクワクしていた理由だったのかもしれない。

この企画が世に出るのは、どんなに早くても再来年以降になるのだが、文字通り、1ページ1ページにじっくりこだわって取り組めそうなので、楽しみになってきた。来年の後半くらいのリリースを目標にしている別の出版社との本の企画もあるし、いろいろがんばらねば。

良い本を作ろう。一冊、一冊、自分の力が続くかぎり。

チームワークについて

次に出す新刊の制作も、いよいよ佳境。来週明けに再校、六月中旬に色校、七月頭に見本誌をチェックし終えたら、無事に完成ということになる。最後の最後まで、まったく気の抜けない作業が続く。

一般的な本の場合、著者は原稿を書き終えたら、その後の作業は編集者にまるっと託して、自身は著者校正や、折々のちょっとした確認、デザイン案などで意見を求められた時に答える程度の状態に落ち着くのが普通だと思う。ただ、去年出した本と今回の本の場合、著者である僕は、原稿を書き終えてからも関わらざるをえない作業が、やたらと多い。結果的に、編集実務のほぼ九割くらいを請け負う状態になってしまっている(ちなみにその分もらっているわけではない)。

台割の策定。写真のセレクト。帯文のコピーライティング。各人からの校正のとりまとめ。デザインの修正提案。特典グッズの提案と準備。進行スケジュールの提案と不備の指摘。何もそこまでしなくても、というところまで関わってしまっている。自分の本だから何一つ適当に済ませたくないし、任すに任せられない厄介な事情もあるのだが、正直、めっちゃ疲れる(苦笑)。

これまで、いろいろな出版社と本づくりの仕事をしてきた中で、各々の担当分野で誠実に協力してくれる方々と非常に良いチームワークを実現できたこともあれば、残念ながらあまり良いチームワークにならなかったこともある。本づくりという仕事に対する姿勢や思い入れの違いとか、理由はいくつかある。僕はただ、読者の方々に喜んでもらえるような本を、一冊々々、誠実に届けていくために、できる努力を全力で尽くしていきたいだけなのだが、世の中には、それが優先事項にならない人もたまにいる。その場合は、もう、折り合えない。

いつもの本づくりでは、書いている時も編集している時も楽しくて、いつまでも校了しなければいいのに、とまで感じる時もある。でも、今作っている本は、できるだけ速やかに、事故なく無事に完成させてしまいたい、と思う。良い本にしたいとは思っているし、自分なりにやり遂げる自信もあるが、正直、あまり楽しくはないし、とにかく疲れる(苦笑)。チームワークの大切さを、痛感している。

はあ。やれやれである。

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李娟『冬牧場 カザフ族遊牧民と旅をして』読了。中国・アルタイの辺境で遊牧生活を営むカザフ族の一家とともに、真冬の放牧地で過ごした数カ月間の記録。軽やかな、でも深みのある筆致で、遊牧生活の素朴さと厳しさ、温もりと孤独が、丹念に描かれている。チベットやモンゴルと同じく、アルタイのカザフ族の遊牧生活も、中国政府が推し進める遊牧民の定住化政策によって、刻々と失われつつある。すっかり消え失せてしまうかもしれない冬牧場での素朴な生活を想う李娟さんの気持は、僕にも痛いほどわかる気がする。

次のフェーズへ

午後、表参道方面へ。今年の夏頃に出す予定の新刊の、デザインについての打ち合わせ。

去年出した「インドの奥のヒマラヤへ」と同じ方々にご担当いただくので、作業の進め方をお互い共有できているから、その点ではかなり心強く、安心してお任せできる。あとは、編集段階での著者校正と、入校前の色校正に、しっかり集中して取り組まねば、だ。

正直、自分が書き下ろした原稿、いまだにあれで大丈夫なのかどうか、自分で自信が持ち切れないでいるのだけど(汗)、ここまで来たら、次のフェーズへと突っ走っていくしかない。常に最善を目指し続けていれば、たぶん、一番良い形に収まる、はず。たぶん……。

校了まで、がんばろ。それしかない。

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焦桐『味の台湾』読了。素晴らしかった。今年これまで読んだ中ではベストの一冊。台湾ならではの食べ物や飲み物について、ひたすら滔々と綴られているのだけれど、その中に、著者自身の人生の光と影が、漂うように滲んでいて。この本に書かれていたことを思い出しながら、いつかまた台湾を訪れたい。