Tag: Book

ちっぽけな思いから

最初に、自分一人だけで一冊の本を書こう、と思い立った時、心に決めていたのは、自分という人間の存在ができるだけ表に出ないようにしよう、ということだった。

自分の目の前で起こる出来事の一つひとつを丹念に見定めて、文章と写真で、それらをできるだけ忠実に描写する。個人的な感傷や思い入れで邪魔しないように気を配りながら、言葉を選ぶ。自分という人間が何者なのか、読者にはまったく気にされなくて構わない。そう思いながら、本を書き上げた。

そうして完成した本を読んだ僕の知り合いの何人かは、異口同音にこう言った。この本は、まぎれもなく、あなたの本だ。この本には、あなたの思い入れが、これ以上ないほどあふれている、と。そんな感想が返ってくるとは想像もしていなかったので、僕はすっかり面食らってしまった。

世界のとある場所とそこで暮らす人々のことを、徹底的に追いかけて、ただひたすらにそれを伝えようとしていたら、そこに立ち現れたのは、僕という一人のちっぽけな人間の姿だったのだ。

だったら、その逆は、あるのだろうか。

僕という一人の人間の、本当に個人的な、ちっぽけな思いから、遥か彼方への旅を始めたら、その先は、どこにつながっていくのだろうか。この世界の、底の見えない深淵につながっていくのだろうか。何かの理が、目の前に現れたりするのだろうか。

その旅は、もう始まっている。

世界を変える美しい本

この間の日曜は、吉祥寺からバスに乗って成増まで行き、終点からしばらく歩いて、板橋区立美術館へ。「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」展を見に行った。

インド各地の民俗画家たちの描いた絵を、手漉きの紙にシルクスクリーンで印刷し、手作業で綴じた本。チェンナイにある小さな出版社、タラブックスは、今の時代の流れとは真逆に位置する本たちを、世に送り出している。彼らの作る本の美しさは、それ自体に作り手たちの考え方や働き方、生き方が色濃く投影されているからこそだと感じた。同じ本づくりを生業にする者として、うらやましく思えるほどに。

本づくりという仕事を、あきらめるにはまだ早い。そんな勇気をもらえたような気がした。

はかどる日

今日は家で仕事。夕方、近所の歯医者に歯石除去をしてもらいに行ったが、その前後に、大学案件の原稿を結構順調に書き進めることができた。それでいて、夜はちゃんと米を炊いて、白菜と豚バラの酒蒸しを作ったし。我ながらよくがんばったと言える。

こういう、何もかもはかどる日というのもあるんだな、と思いつつ、ちょっといい気になっていたら、急に情報が入ってきて、新しい本に追加するためのデータ作成に急遽突入。結局、今日の仕事が終わったのは、真夜中過ぎだった。

世の中、そういうものである。

本を贈る

午後、用事でちょっと都心へ。帰りに吉祥寺で途中下車し、ジュンク堂書店に行って、本を何冊か物色。自分用ではなく、年末年始に会う予定の、実家方面の姪っ子や甥っ子たちにあげる用の本。

実家方面の人間たちとは年に一度会えればいいくらいの不義理を日頃働いているので、たまに会う時には、小さな人たちに何かプレゼントを持っていくようになった。とはいえ、僕は基本的にアマノジャクなので、世の中的には子供受けすると考えられている、おもちゃやゲームの類は持っていったことがない。たいてい、一人につき一冊、本を選ぶ。

正直、「もっと単純に喜びそうなものを持っていった方がいいかな……」と思わなくもないのだが、このご時世に、年に一度やってきて本を一冊渡していくヘンな叔父さんというのも、まあ世の中に一人くらいいてもいいんじゃないかと、自分を納得させている。

そういう自分も、もっと本を読まねばだな……。

師走の足音

この三日間は、執筆作業に集中。たまに資料探しや食材の買い出しに行ったりはしたものの、ほぼずっと家に引き籠っていた。

ほんの一週間くらい前には、そろそろ先行きが見えてきたかな……と思っていたのだが、甘かった。それから怒涛のように取材予定やら何やらが追加されて、わずかな私用の時間まで取られてしまい、王手、王手の連続状態に。詰んだ。まじで詰んだ。とにかく今は、前倒しできる作業は少しでも早く進めていくしかない。

何度も書いているけれど、フリーランスの仕事というのは、来ない時は全然来ないのに、来る時は信じられないくらい一気に集中する。もうちょっと、なだらかなペースでオファーしてもらえないかなあ……。まあ、師走の足音が近づいてきてる今ならではの現象なんだろうけど。