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Overwhelming

昨日は、六本木の国立新美術館で開催中のミュシャ展へ。彼の晩年の連作「スラヴ叙事詩」20点を観る。もう本当に、ぐうの音も出ないほど圧倒的で、素晴らしいとしか言いようがない。一人の画家の、才能と情熱と理想と執念と狂気が、のたうつように大画面から溢れ出ている。頭が軽く痺れてくるほど集中して見続けた後、ブリュードッグのバーでIPAビールを飲みつつ、余韻に浸る。

ああいう圧倒的、Overwhelmingな作品には、確かに人の心をぐわんと揺さぶる力がある。僕が生業にしている文章や写真の世界でも、そういう圧倒的な作品を生み出すことを目指す人たちは大勢いる。自分はどうなんだろう? 圧倒的なものを生み出せるなら、それに越したことはないのかもしれない。でも、自分が伝えようとしていることは、もしかすると……Overwhelmingではない方がうまく伝えられるのかもしれない、とも思う。良い意味での「軽み」のような。何気ないけれど、ふっと心に触れるような。

咲き誇る満開の桜ではなく、この胴吹き桜のように。

インプット、アウトプット

昨日は、天王洲アイルで開催されている「国境なき子どもたち」の写真展へ。四者四様、それぞれの写真家の方々のまなざしとまっすぐな思いが伝わってきて、素直にじーんときた。京都から上京されていた吉田亮人さんにひさしぶりにお会いできたのも嬉しかった。

その後は青山に移動して、イッテンモノ展へ。ここでも、たかしまさんやまつばらさんにひさびさにお会いできた。個性的な作家のみなさんが手作りのイッテンモノを販売していて、ほんわかとした楽しい空間が居心地よかった。

強い思いと実力を併せ持った「伝える人」や「表現する人」のアウトプットを、こうした場に足を運んで受け止めるのは、本当に良いインプットになるなあ、とあらためて思った。自覚できる部分でも、無意識の部分でも、経験や刺激になることがたくさんある。だからこういう場に足を運ぶことを厭わないようにしなきゃな、と思う。

そういう意味では、展示やイベントだけじゃなく、本もちゃんと読まなければ。今、自分の部屋にある、買ったはいいものの手をつけられないでいる、本の山‥‥。よ、読まなきゃ(汗)。

祖父が見ていた色

だいぶ前に亡くなったのだが、母方の祖父は、画家だった。学校で美術の先生の仕事をしつつ、大きな展覧会に入選したり、個展を開いたりしていた人だった。

僕を含めた親戚の子供たちは、時々その祖父のところに集められて、ちぎり絵を作ったり、郊外に写生に行ったりしていた。僕自身は絵が得意なわけでもなかったけれど、ある時、場所は忘れてしまったが、どこか屋外で写生をした時の出来事は不思議によく憶えている。

「高樹、あの木の幹は何色に見える?」
「茶色だよ。だって、木だし」
「本当にそうかな? よく見てごらん。あの幹の影は、藍色に見えないかな?」

そう言って祖父が、水で薄めた藍色を幹の部分にさっとのせたので、まだ小さかった僕はびっくりしたのだった。

空は水色。雲は白。木の葉は緑で、木の幹は茶色。世界の色はそう決まっているのだと、あの頃の僕は思っていた。でも、世界はそんな風には決まっていない。光も色も、音も、匂いも、手ざわりも、その時々ですべて違っている。世界を写し取って誰かに伝えるには、ありのままの姿を感じ、捉えなければならないのだと、祖父は僕に言いたかったのかもしれない。

あれから長い年月が過ぎ、僕は何の因果か、絵ではないけれど、写真や文章を仕事にするようになった。うまく撮ったり書いたりできなくて悩んでいる時、ふと、この出来事を思い出すことがある。そう、この世界は、何一つ、決まってなどいないのだ。

四月の雪

雨に時折雪が混じる、寒い一日。四月とはとても思えない。

今日は朝から向ケ丘遊園の方で大学案件の取材があったのだが、至るところで電車が遅れていた。僕自身は予定の時間に間に合ったものの、それ以外の関係者が全員遅れたので、取材の時間も押して、おひるも食べられないまま午後の取材に突入。ひもじかった‥‥。隣に座っていた営業さんのおなかもきゅるきゅる鳴っていた(笑)。

取材を終えた後、恵比寿に移動。AFURIで柚子塩ラーメンを食べて一息ついて、今日から始まる竹沢うるまさんの写真展へ。風合いのある紙の質感と相まって、時に絵画のようにすら見える美しい佇まいの作品を堪能。その後は京橋に移動して、たかしまてつをさんの手帳絵&品々絵展へ。見ていて何だかほほえましく、でも時にはっとさせられる作品の数々。文具店の二階という展示空間そのものもすごくよかった。

そんなこんなで、四月の雪の中を駆けずり回った一日。今しか見られないものは、見られるなら、見ておくべきだと思う。

ワット・ロン・クンとバーンダム

池にその姿を映すワット・ロン・クン

タイ北部の街チェンラーイの郊外に、最近、多くの人々から注目を集めている二つの場所がある。「チェンラーイのブラック&ホワイト」と呼ばれるこれらの場所に共通しているのは、タイを代表する著名な芸術家によって作られた、いや、今なお作り続けられている「作品」であるということだ。