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自然と人と

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この間、ほんの気まぐれに、Facebookのカバー写真を上の写真に変えた。すると、結構いろんな人からこんな風に聞かれた。

「これ、クマですよね。どうやって撮ったんですか?」
「いや、たまたまこういう場面に居合わせて、普通にそのまま」
「だって‥‥めっちゃ近くないですか、これ?」

この写真を撮った、アラスカのカトマイ国立公園のブルックス・ロッジは、アラスカの他の場所と比べても格段に近い距離で野生のブラウンベアの様子を観察できる場所として知られている。ロッジの敷地や川沿いに設けられている観察用のデッキまでの道などには、トランシーバーを持ったレンジャーが常駐して、人が不用意に近過ぎる距離でクマに遭遇しないように目を光らせている。ロッジを訪れる客も、まず最初にクマに関するレクチャーを受けなければならない。

そうはいっても、ロッジのすぐ近くの湖畔をぶらぶらしてるクマに、こんな風に結構な至近距離で行き合わせる可能性はある。そんな時に感じるのは、自分という存在の脆さ。このクマがほんのちょっと気まぐれを起こせば、僕なんて、簡単にぺしゃんこにされてしまうのだから。

人は、時に傲慢に自然を踏みにじり、取り返しのつかない仕打ちをする。軍の基地のために珊瑚の海を埋め立てるとか。でも、そうして人がこしらえたものは、往々にして長続きはしない。自然の側も、時に台風や地震や津波のように途方もない力で、人に災厄をもたらす。人は自然に対して、どんな風にして向き合っていくべきなのだろう。自然の中で、人は人として生きることを許された存在なのだろうか。

しばらく前から、そんなことを、ぼんやりと考え続けている。

極北への衣替え

二日ほど前に、このサイトのヘッダ部分にある写真を入れ替えてみた。完全に気まぐれで。

トップページと各エントリーは、早朝にワンダーレイクの北端から見たデナリ。自己紹介のページは、雪が舞う中で草を食む牡のカリブー。仕事関係のページは、早朝に霜の降りたツンドラ。写真ポートフォリオのページは、北の空に舞うオーロラ。一気に極北の装いのサイトになった。

アラスカで撮ってきた写真は、いろいろあってまだまとまった形で出せずにいるのだが、まあ、このくらいだったらいいかなという写真を今回載せている。実はまだまだ、結構キテる写真がたくさんあるのだが、まあ、そんなに焦らなくても、いつか、何かしらの形で機が熟すんじゃないかな。その時が来たら、一気にお見せします。

氷河と寝袋

この間、毛布と布団の正しい使い方というのがネットで話題になっていた。これはたぶん、羽毛布団のロフトを最大限に活かすための使い方というのがキモなのだろう。僕はもともと羽毛布団(安物だけど)の上に毛布をかけていたのだが、試しに身体の下にも薄手の綿毛布を敷いてみたところ、確かに暖かい。下に敷く毛布が分厚すぎたり、材質がアクリルだったりすると、かえって寝苦しくなりそうだけど。

まあそれはそれとして、寝る時に一番暖かい寝具は、やっぱり寝袋だと思う(笑)。さすがに自分の家でわざわざ寝袋を使ったりはしないけど、何だかんだで、寝袋で寝起きしている回数は普通の人よりもだいぶ多いはずなので、そのありがたみは十分わかっているつもり。

僕が持っているのはマウンテンハードウェア製のものが二つで、一つは使い勝手のいいスリーシーズン用、もう一つは冬のラダックやこの間のアラスカでのキャンプで使った厳寒期用。厳寒期用は、襟元までみっちりダウンが詰まっているマイナス20℃くらいまで耐えられる仕様のもので、実際、チャダル・トレックや雪のワンダーレイクでもぐっすり眠ることができた。

でも、寝袋の世界にも、上には上がある。たぶん最強クラスなのは軍用の寝袋だろう。ラダックでも、地元の人々はインド軍の放出品の寝袋を使っている。これはめっちゃでかくてかさばるのだが、インナーとアウターを組み合わせて使うモジュラー構造になっていて、両方使うとものすごく暖かい。あまりにも暖かすぎるので、チャダルあたりでは片方だけ使っている人も多かった。

どうしてそんなに過剰なほど暖かい仕様になっているのかというと‥‥インドの最北部、ラダックのヌブラよりさらに北には、今もインドとパキスタンが領有権を争っている、シアチェン氷河という場所がある。ここは標高が6000メートル前後もあって、世界で最も標高の高い戦場とも言われている。そんなとんでもない場所で野営するのにも耐えられるように開発されたのが、この過剰に暖かい寝袋なのだそうだ。

世の中、いろんな場所で寝てる人がいるものである。

北極光

Northern Lights
アラスカで目にしたもの、撮ってきた写真は、今すぐ全部公開するわけにもいかないのだが、これくらいだったらいいかな。北の空を舞うオーロラ。

ウィルダネスへの畏れ

ワンダーレイクをはじめとするデナリ国立公園のキャンプ場には、頑丈なフードロッカーが設置されている。食べ物や飲み物のほか、歯磨き粉や化粧品など匂いのするものはすべて、テントではなくフードロッカーに入れておくことが義務づけられている。テント内での料理や食事も禁止。人間が寝起きするテントから匂いを出してはいけないのだ。キャンプ場ではなく、バックカントリー・パーミットを取って原野を歩いてキャンプをする場合は、食料は頑丈なプラスチック製のベアーコンテナに入れて密閉し、テントから離れた場所に置いておくように指導されている。

もし、テントで食事をしたり、食料など匂いのするものをテントに置いていたりしたら、大げさでも何でもなく、自殺行為になる。彼の地に生息するクマをはじめとする野生動物は、匂いのするものにとても敏感だ。不用意な管理の仕方をしていると、自分のいる場所にわざわざクマを呼び寄せてしまうことになる。

今回、ワンダーレイクのキャンプ場で知り合った人は、去年、サンクチュアリ・リバーのキャンプ場でテントを張って寝ていた時、隣のテントがクマに一撃で潰されてしまったそうだ。幸い、そのテントの中にはその時誰もいなかったのだが、迂闊にもリップクリームか何か、匂いのする化粧品をテントの中に置いていたらしい。ほんのちょっとした不注意が、命取りになりかねない。

それでも、アラスカの国立公園では、人間の都合に合わせてクマなどを追い払おうという考えは一切ない。彼の地の主人公はあくまで野生の動物たちであって、人間はよそ者でしかないのだ。よそ者は分をわきまえて、自然をできるだけあるがままの姿に保つことに協力しなければならない。

途方もなく大きな手つかずの自然、ウィルダネスへの畏れと、そして憧れ。アラスカという土地の魅力の一つは、間違いなくそこにあると思う。