サヨナラ、テレビ

家にあるテレビを、手放すことにした。

これまで持っていたのは、かれこれ10年以上前、ラダックでの長期滞在から戻ってきた頃に買った、シャープ製の26型液晶テレビ。でも、買った当時から、そんなには使っていなかった。特に東日本大震災の直後からは、すっかりラジオ中心の生活になってしまって、テレビは電源を入れる機会もめったになかった。2年前に西荻窪に引っ越してきてからも、使ったのはほんの数回で、すっかり家の中でモノリスと化していた。映画を観るのも、映画館に行くか、ダウンロードレンタルして16インチMacBook Proで観れば十分(というかMBPの画面めちゃ綺麗)とわかったし、テレビはその用途でも出番がないのだ。

で、家電リサイクルに出す前にFacebookで引き取り手を募ったところ、知人の一人が手を挙げてくれて、ついさっき、小さなお子さんと一緒に、車で引き取りに来てくれた。うちではついぞ出番がなかったが、新しい環境で活用してもらえると良いなあ、と思う。

これからは、ニュースもワイドショーもドラマもバラエティも、何にも観ない生活が始まる。まあ、これまでもほとんど観てなかったし、是が非でも観たい番組が現れるとも思えないし。ラジオとWebがあれば、僕たちには十分だ。何でもかんでも、享受できればいいってもんじゃないと思うし。

というわけで、サヨナラ、テレビ。

「サーホー」

3月の公開時には、忙しかったのと世の中が不穏だったのとで、観に行きそびれていたインド映画「サーホー」を、営業再開した新ピカでようやく観た。主演は「バーフバリ」のプラバース、ヒロインはシュラッダー・カプールという、クライム・サスペンス・アクション。普通に考えたら、ヒットしないわけがないだろう、という作品なのだが……。

……正直言って、あんまりパッとしなかった(苦笑)。インド国内でも、初動はよかったものの急激に失速したと聞いていたのだが、まあ無理もないなあ、と思った。

原因はいくつかある。物語全体の流れと各場面の演出が、わかりにくい上にちぐはぐだったこと。どんでん返しも伏線回収も、それらを脚本にちりばめること自体が目的化していて、必然性が感じられないから、感情もさほど揺さぶられない。主人公は何でもすべて計算通りでお見通しという超人的な存在なのだが、その割には各場面で結構成り行きまかせの結果オーライで物事を進めていて、それもちぐはぐだなあと感じた。

あとは、「バーフバリ」のプラバースだ、という点を強調しすぎていたのでは、とも思う。最初から最後までプラバースのキメポーズとキメゼリフで埋め尽くされたプロモビデオのような造りだった。もし、プラバース以外の俳優が主演だったら、物語も演出ももっと自然に整理されて、ましな仕上がりになっていかたもしれない。

というわけで、プラバースの次回作での改善に期待。

家でアイスラテ

日に日に、じりじりと、蒸し暑くなってきている。

家で仕事をする時、朝はペーパードリップでコーヒーをいれ、昼をすぎてだれてきそうな頃にマキネッタでエスプレッソをいれる。ただ、夏になると、朝からホットコーヒーはちとしんどい。なので、朝飲む分は前日の夜にペーパードリップでいれておいて、サーバーごと冷水で粗熱を取り、冷蔵庫で冷やしてアイスコーヒーにしておく。

マキネッタでいれるエスプレッソの方も、最近は冷たくして飲んでいる。冷凍庫の製氷皿で作っておいた氷をコップにぎっしり詰めておいて、エスプレッソを注ぎ(こうすると一気に冷える)、牛乳をちょい足して、アイスラテに。お手軽な作り方だが、これがなかなか、さっぱりしててうまい。これを書きながら、今、まさに飲んでるし(笑)。

それにしても、もう、夏か。今年は世の中がいろいろイレギュラーすぎて、何だかなあという感じである。

雑誌の編集者には向いていない

二十代後半から三十代半ば頃まで、雑誌の編集者として働いていた。最初は出版社に契約社員として勤め、途中からフリーランスになったが、仕事の内容は同じだった。その日々を通じて、僕は、編集者に必要な最低限の能力と知識と、ささやかな成功や手痛い失敗も含めた、たくさんの経験を得た。

ただ、自分が雑誌の編集者に向いていたかというと、その適性はなかった、と今は思う。

雑誌の編集者は、憧れの職業だった。でもそれは、職業というかワークスタイルそのものに対する憧れで、雑誌というメディアを通じて自分は何を伝えるべきか、というところまでは掘り下げきれなかった。月刊誌なら毎月々々、同じレベルの品質を持つ記事を企画しなければならないというのも難しかった。あとは……他の優秀な編集者さんたちが揃って持っていた、良い意味での「人たらし」の能力を、僕は身に付けることができなかった。編集者は、人と人とをつないで、円滑に回していく仕事でもあるから。

フリーランスになってしばらくするうちに、雑誌の仕事はほぼ途絶え、自分で企画する書籍の執筆や編集の仕事の方が多くなった。版元の編集者さんやデザイナーさんの力はもちろん借りるのだが、自分で発案して自分で落とし前をある程度つけられる今の形の方が、僕には向いているのだろう。

これから先、世の中に出回る雑誌の数は、ますます減っていくと思う。いつかまた、何かの形で関わるようになる日は、来るのだろうか。

自粛ポリス

先週の金曜、ひさしぶりに散髪に行った。約2カ月ぶり。最近暑くなってきたし、いつまた散髪できるかわからなかったので、思いっきり短くしてもらうことにした。お店の人は「ああ、インドに行く時くらいの短さですね」とあっさり理解してくれた。

髪を切り終わり、襟足を剃り、シャンプーをしながら、お店の人はこんな話をしてくれた。昨今の緊急事態宣言の影響で、この理髪店もゴールデンウイーク中は店を閉めていたそうだ。で、その旨を知らせる紙を店のシャッターに貼っていた時、通りがかったおばさんが、その貼り紙をスマホで撮っていた。ちなみのその理髪店、客の99%は男性である。

連休明けに再び営業を再開すると、何人かのおばさんが、店の前を通りががるたびに、店が営業している様子をガラス越しにスマホで撮っていくようになった。中にお客さんがいる時でも、おかまいなく。そのおばさんたちの不審な挙動に、「ああ、これが自粛ポリスというやつか」と合点したという。緊急事態宣言下で営業している店の様子を、SNSに晒したり、自治体に苦情として持ち込んだり、するのだそうだ。「怖いんで、SNSとか見てないですけどね」とお店の人は苦笑していたが。

今回の緊急事態宣言で、理髪店や美容院は、休業要請の対象にはなっていない。にもかかわらず、警察でも役人でもない一般の人たちが、裏付けのない正義感にかられて、そんな所業をするとは……。すっかり、監視社会じゃないか。まったく、人間というやつは。

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伊藤精一「俺のアラスカ 伝説の“日本人トラッパー”が語る狩猟生活」読了。アラスカに移り住んで罠猟師(トラッパー)とハンティング・ガイドとして暮らしてきた伊藤精一さんの口述をまとめた本。とても貴重な記録で、伊藤さんの軽妙な語り口とあいまって興味深く読ませていただいた。残念なのは、誤植が多かったこと。本文組の書体指定が変に転んでしまってる部分など、かなり気になった。見本誌までの段階で直せなかったのだろうか。