お人好しからの卒業

いつのまにか年が明けて、2021年。今年の抱負を何か一つ挙げるとしたら……「お人好しからの卒業」といったところだろうか。

人から仕事的な頼みごとをされたら、その内容をきちんと吟味し、必要な労力に対して健全なスケジュールで正当な対価が得られるかを確認する。相手が知り合いだからだとか、何か大義名分があるからとか、そういう理由で「まあ、やってあげよう」とお人好しに引き受けないようにする。途中でヤバイと気付いたら、迷わずその話から降りるようにする。

裏を返せば、ここ数年、そういう感じで何度も嫌な思いをさせられてきた、という事実がある。いいかげん学習しろよ自分、と我ながら呆れるくらい。

仕事的なものごとに対して、もっとドライになろう。本当に信頼できる人たちとだけ、正当な対価をやりとりできる仕事をしよう。自分でやりたい仕事は、自分で企画を立てて、自分の手で実行しよう。

そんなところかな。今年は、去年よりはましな一年になりますように。

「ジガルタンダ」


インディアン・ムービー・ウィーク2020・リターンズで最後に観たのは、タミル映画「ジガルタンダ」。ラジニ様主演「ペーッタ」を手掛けたカールティク・スッバラージが、その前の2014年に作った作品だ。タイトルは、舞台となるマドゥライの街の名物のアイスクリームシェイクの名前だという。

短編映画コンテストのテレビ番組に出場したカールティクは、審査員の一人の映画プロデューサーから長編の劇場公開作を撮らないかと持ちかけられる。プロデューサーの希望はコテコテのギャング映画だが、社会派映画を撮りたいカールティクは、実在のギャングを取材して脚本を作りたいと考え、身の危険を顧みず、マドゥライで最近悪名高いギャング、セードゥの取り巻きへの接近を試みる。しかし……。

上にリンクを張ったYouTubeの予告編動画だと、この作品の真の姿は、たぶんほとんどわからない。特に後半から、文字通り予測不能な超展開に次ぐ超展開が繰り広げられる。南インド特有の情け容赦ないゴリッゴリのギャング映画かと思いきや……いや確かにそういう映画なのだが……残酷さとペーソスとユーモアが入れ替わり立ち替わり現れる中に、恋とか友情とか先人の教えとか、何より、あふれんばかりの映画愛(!)がみなぎっているのだ。あと、ヴィジャイ・セードゥパティのめちゃ贅沢な無駄遣い(笑)。

映画館を出る時、すごいものを観た、すごいものを観た、と、自分でも言語化できない興奮でいっぱいになった。こんな感じの「してやられた感」は、「ヴィクラムとヴェーダー」以来だろうか。いつかまた、日本で再上映の機会があるようだったら、未見の方はぜひ観ておくことをおすすめする。いやほんと、すごいものを観た。

「人生は二度とない」


キネカ大森で開催中のインディアン・ムービー・ウィーク2020・リターンズで一番楽しみにしていたのは、2011年の公開作「人生は二度とない」。リティク・ローシャン、ファルハーン・アクタル、アバイ・デーオールの三人が主演を務め、カトリーナ・カイフやカルキ・ケクランも出るという、スペインを舞台にしたロード・ムービー。監督はファルハーンの姉で後の「ガリー・ボーイ」の監督でもある、ゾーヤー・アクタル。この顔ぶれで面白くないわけがない、と、2021年元旦の映画初めに観に行ったのだった。

親の建設会社に勤めるカビールは、インテリアデザイナーの婚約者ナターシャとの結婚の前に、独身最後の旅行に男友達とスペインへ出かけようと計画する。誘ったのは、学生時代からの二人の親友、ロンドンで株式ディーラーとして仕事漬けの日々を送るアルジュンと、デリーで広告コピーライターをしているちゃらんぽらんなイムラン。些細な喧嘩をしながらも始まった、車でスペインを巡る3週間の旅。それぞれ打ち明けられない悩みや葛藤を密かに抱える3人が、出会い、別れ、経験し、決意したものとは……。

期待通りというか、期待以上に、本当に面白かった。旅という行為のポジティブな面を、全面的に肯定して描いてくれているのが、とても清々しい。スキューバダイビング、スカイダイビング、ブニョールのトマト祭り、パンプローナの牛追い祭りといった大がかりなイベントを組み込み、旅の過程で3人がそれぞれの葛藤を乗り越えて成長していくさまを描いていながら、物語には無理なところも破綻もなく、ある程度のおとぎ話的展開はあれど、とても自然だ。主役の3人をはじめとする登場人物たちも、愛情を込めてコミカルに描き分けられている。今まで、ロード・ムービーはそれなりにたくさん観てきたが、それらの中でも出色の出来だ。

現実の旅なんて、そんな良いことばかりじゃないよ、と言いたくなる人もいるだろうし、その気持ちもとてもよくわかる気もする。でも、この作品に関しては、これでいいんじゃないかな、とも思う。僕自身、旅の中で「こんな経験は人生の中で二度とできない!」という思いを、たくさんさせてもらってきたから。こういうロード・ムービーを観て、「自分も旅に出てみようかな」と思い立つ人がいたとしたら、それはきっと、良い一歩だと思う。

年の瀬突貫工事

先週の月曜、鎌倉方面に出かけて、インタビュー取材の仕事をした。かれこれ2時間半くらいICレコーダーを回したのだが、対面の形でこんなに長時間インタビューしたのは、たぶん数カ月ぶりだったと思う。ひさしぶりにライターっぽい気分になった(笑)。

で、翌日から音声起こし作業に取りかかって、4日がかりくらいでどうにかすべてテキストにして、一昨日、昨日、今日と、日に3500字のペースで書き続け、前中後編3本からなるロングインタビュー記事に仕上げた。この年の瀬にこんな突貫工事になったのは、単純に〆切が年明けすぐだったから。まあ、それはそれで、さらにライターっぽい気分になったが(苦笑)。

とりあえず、ライターとしての肩の荷は下りたものの、自分の本の原稿は、まだだいぶ残っている。たぶん、あと1万5000字かそれ以上……。普段のライターの仕事とは全然違う筋力を使うので、なかなかしんどい。とはいえ、本の原稿も年明けの早いうちに最後まで書き切る約束になっているので、や、やらねば……。

そんなわけで、突貫工事は、年を跨いで、まだまだ続く。

「ジッラ 修羅のシマ」

インディアン・ムービー・ウィーク2020・リターンズで3本目に観たのは、「ジッラ 修羅のシマ」。タミル映画界の若大将ヴィジャイと、マラヤーラム映画界の名優モーハンラールが競演するギャング映画だ。

マドゥライを支配するギャングの首領シヴァンは、自分を守るために警官に撃たれて命を落とした手下の子供シャクティを、実の息子以上に愛し、自身の片腕として育て上げた。新たにマドゥライに着任した警視総監を警戒したシヴァンは、警察の内情を察知し骨抜きにするため、シャクティを警官として送り込む策略を企てる。父親の件で警察を忌み嫌いながらも、義理の父親からの頼みを断れず、渋々警官となったシャクティ。だが、その矢先に起こったある事件が、思わぬ方向へとシャクティを導くことになる……。

南インドのマドゥライを舞台としたギャングものと聞いて、血飛沫の舞うゴリッゴリの展開を想像していたのだが、思っていた以上にモーハンラール演じるシヴァンが子煩悩でお茶目で愛嬌すらあって、ヴィジャイ演じるシャクティも義理の父親が好きすぎるので、すんごく濃厚な(義理)親子愛映画になっていた。ただ、その親子愛があってこそ、中盤からこじれていく展開が活きてくるし、真の敵役の出現からのカタルシスあふれるクライマックスに繋がっている。アクションや殺陣のシーンもたっぷりで、ヴィジャイの腕っぷしの強さはいつにも増してチート感がすごい。強すぎ(笑)。

この作品、ダンスシーンも豊富で、中には日本の太秦村とかで撮影されたものもある。ただ、それを含めて全般的に、本編の場面展開とダンスシーンの映像とがかけ離れすぎているものが多くて、観ていてちょっと異物感があった。これはまあ好みの問題だろう。

ともあれ、いい意味でのお約束満載で、観終えた後にヒャッハーな気分になれる、タミル映画の正統派娯楽大作であることは間違いない。おすすめ。