キッチンツールのアップデート

しばらく前から、台所で使っているキッチンツールを、少しずつアップデートしている。

すっかりくたびれたまな板を新しいのに買い替えたり。先が割れたフライ返しをステンレス製のものに買い替えたり。パスタや生野菜を盛り付ける時に使うステンレストングを買ったり。米びつとしてホーロー製のストッカーを買ったり。細かいところでは、壁に吸盤でつけるフックを買い足して、ぶら下げるツールの数を増やしたりもしている。

しばらく前に買ってすっかり気に入っているのは、生姜やニンニクをおろす時に使う、セラミック製のおろし皿。毎週のようにスパイスカレーを作っているのだが、これがあると、おろしてから使うまでそのまま置いておけるので、めちゃくちゃ便利だ。二人暮らしを始めて割とすぐに買ったストウブの鍋は、使い勝手があまりに良すぎて、ほぼ毎日のように使っている。

キッチンツールについて思うのは、高級品で揃える必要はないけれど、あまりに安い品物はやっぱりそれなりに限界があるし、耐久力も低いので、世間である程度定評のある定番品を徐々に揃えていくのが、一番いいような気がしている。包丁とか、ピーラーとか、手の延長線上で使うものは特に。自分で厨房に立ってあれこれ試行錯誤しているうちに、自分に合う道具もだんだんわかってくるのかな、と思う。

うちの台所の今後の課題は……刻々と増え続けるインド的な食材や調味料を、どう収納していくかという点かな。本当は、インド鍋もすっごくほしいんだけど、どうにも置き場所がない(苦笑)。

「オールド・ドッグ」

先日から、東京の岩波ホールを皮切りに始まったチベット映画特集上映「映画で見る現代チベット」。その初日、ペマ・ツェテン監督の「オールド・ドッグ」を観に行った。2011年に東京フィルメックスで話題をさらい、グランプリを獲得した作品だ。

チベットの遊牧民や牧畜民の多くは、牧羊犬を飼っている。だいたいがチベタンマスチフという種類の大型犬で、もこもことした毛並みとどっしりした体格の、迫力のある犬だ。実際、怒らせるととても怖いそうで、人間でも喉笛に噛みつかれたらひとたまりもない。僕も以前、ラダック東部をトレッキングで旅していて、途中で遊牧民のテントに近づいた時、一頭のチベタンマスチフが殺気を帯びたものすごい吠え声で威嚇してきて、めちゃめちゃ怖かったのを憶えている。

そのチベタンマスチフは、2000年代に入ってから急に中国の都市部の富裕層の間で大人気になり、目玉が飛び出るほどの高値で取引されるようになった。辺境の地でチベット人たちが飼っていた犬たちは次々と買い取られ、あるいは盗まれていった。この映画は、その頃のあるチベット人の老人と、彼の飼っていた犬、そして彼の息子と妻の物語だ。

淡々と展開されていくこの物語には、誰もが思いもよらないであろう結末が用意されている。その衝撃は、チベット人である老人が持つ信仰と死生観を重ね合わせて考えると、さらにずしりと重く、どうにもやりきれないものを感じる。でも同時に、その選択は、彼がチベット人であったからこそ選び取った、誇り高き道であったのかもしれない、とも思う。彼の世代を最後に、途絶えてしまうかもしれない道。生い茂る草むらをかきわけて歩いていく老人の背中には、決意と哀しみが満ちていた。

中国の富裕層の間で巻き起こったチベタンマスチフの大ブームは、その後、あっという間にしぼんで消え失せた。あんな大型犬が、都会暮らしになじめるはずがないのだ。

幾星霜を経て

昨日は都心で打ち合わせ。6月に出す予定の新しい本の、デザインについて。

今回の本は、既刊のシリーズのラインナップの一冊として刊行されるので、デザイナーの方は、そのシリーズ全体の装丁を担当されている方だ。業界ではとても有名な、実績のある方で、かつてその筋では知らぬ者のいない雑誌のアートディレクションも担当されていた。

かれこれ20年近く前になるが、僕はフリーライターとして、その雑誌で何度か仕事をさせてもらったことがある。デザイナーの方と直接やりとりさせていただいたわけではないが、あれから幾星霜を経て、まさか自分の本の装丁を、その方に担当していただける日が来るとは、想像もしていなかった。

いや、別に自分が出世したわけではまったくなく(苦笑)、偶然の巡り合わせなのだが、それでも何だか、じんわり嬉しかった。

竹沢うるま×山本高樹「空と山々が出会う地で、祈りの在処を探して」


写真家の竹沢うるまさんとのトークイベントに出演することになりました。昨年末に刊行された竹沢さんの紀行『ルンタ』と、僕が一年前に上梓した『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』のW刊行記念トークイベントです。

開催日時は4月17日(土)19時から、下北沢の本屋B&Bにて。少人数のご来場を受け付ける予定で、配信視聴による参加も可能です(アーカイブ視聴もご用意します)。サイン本付きの設定もあります(「冬の旅」のサイン本ご購入の方には「夏の旅」もお付けします)。予約方法や注意事項などの詳細は、下記のリンク先をご参照ください。

きっと面白いイベントになると思います。ご予約、お待ちしています!

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竹沢うるま×山本高樹
「空と山々が出会う地で、祈りの在処を探して」
『ルンタ』(小学館)『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』(雷鳥社)W刊行記念

インドのスピティやザンスカール、ネパールのムスタン、中国の青海省と四川省など、世界各地のチベット文化圏をめぐる足かけ3年に及ぶ旅を綴った紀行『ルンタ』を上梓した、竹沢うるまさん。

インドのザンスカールで真冬に催される幻の祭礼を見届けるため、極寒の世界を歩いて旅した日々の記録を、紀行『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』に綴った、山本高樹さん。

旅した地域やテーマにも共通点の多い、この二人の著作のW刊行記念イベントを開催します。

二人が旅したチベット文化圏は、今の私たちが暮らしている、あふれんばかりの情報や物資に満たされている社会とは、対極の存在にあります。あらゆることが不便であるはずの辺境の地で暮らす人々の表情は、不思議に穏やかで、満ち足りているように見えた、と二人は言います。それはいったい、なぜなのでしょう。

変わっていくものと、変わらないままのもの。祈りとは、心とは、人が生きる意味とは。旅の果てに、二人がそれぞれに見出したのは……。

旅や写真、チベット文化圏に興味のある方はもちろん、今の社会にどこかしら生きづらさを感じている方にも、ぜひ聴いていただきたい、注目のトークイベントです。

■日時:2021年4月17日(土)19:00〜21:00

■会場:本屋B&B
世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK 2F
http://bookandbeer.com/

■参加費
【来店参加】:1500円(税別)
【配信参加】:1500円(税別)
【配信参加+サイン本】1500円+『ルンタ』2500円(税別)
【配信参加+サイン本】1500円+『冬の旅』1800円(税別)
【配信参加+サイン本】1500円+『ルンタ』2500円+『冬の旅』1800円(税別)
※書籍の発送はイベント後となります。

■参加方法
下記のページで、記載されている注意事項をお読みの上、お申し込みください。
https://bb210417c.peatix.com

■登壇者プロフィール
竹沢うるま(たけざわ・うるま)
1977年生まれ。ダイビング雑誌のスタッフフォトグラファーを経て、2004年より写真家としての活動を開始。2010年〜2012年にかけて、1021日103カ国を巡る旅を敢行し、写真集『Walkabout』と対になる旅行記『The Songlines』を発表。2014年第三回日経ナショナルジオグラフィック写真賞受賞。その後も、チベット文化圏を捉えた写真集『Kor La』(小学館)と旅行記『ルンタ』(小学館)など、写真と文章で自身の旅を表現している。最新作は写真集『Boundary_境界』(青幻舎)。「うるま」とは沖縄の言葉でサンゴの島を意味し、写真を始めたきっかけが沖縄の海との出会いだったことに由来する。

山本高樹(やまもと・たかき)
1969年生まれ。著述家・編集者・写真家。2007年から約1年半の間、インド北部の山岳地帯、ラダックとザンスカールに長期滞在して取材を敢行。以来、この地方での取材をライフワークとしながら、『地球の歩き方インド』『地球の歩き方タイ』の取材などで、世界各地を飛び回る日々を送っている。主な著書に『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』(雷鳥社)、『ラダック ザンスカール スピティ 北インドのリトル・チベット[増補改訂版]』(地球の歩き方)など。

リアルとオンライン

昨日は夕方から、下北沢へ。本屋B&Bからオンラインで中継されるトークイベントを、裏方としてお手伝いに。

少し前から、本屋B&Bで開催されるトークイベントの企画とコーディネートの仕事を、業務委託の形で請け負うようになった。昨夜のは自分が企画を手伝った最初の配信イベントだったのだが、店舗のスタッフの方々が店内でどんなセッティングをして、どんな段取りで中継をしているのか、間近で見ていて良い経験になった。イベント自体も、登壇者の方々のおかげでなごやかに楽しく盛り上がって、よかったなあと思う。

トークイベントというと、コロナ以前は客入れしてのリアルイベントがほとんどで、オンラインで配信するような事例は多くなかった。昨年来のコロナ禍で、今はその割合が逆転してしまっているわけだが、最新のツールを使った配信には、それはそれで配信ならではの良さもある。もちろん、配信イベントとして基本的な部分の段取りをきっちりやらないとグダグダになってしまうし、登壇者も配信であることをある程度意識しないと、チグハグな雰囲気になってしまう。

登壇者がそれぞれの自宅などからフルリモートで出演する形のイベントもツール的には可能だが、その場合はさらにグダグダ&チグハグになりやすいので、今のところ、登壇者同士は同じ現場でトークをして、それを配信スタッフが常時サポートしながら中継する形が、一番自然で無理がないのかもしれない。

将来、コロナ禍が去った後は、客入れとオンライン中継の両方を併用する形のトークイベントが増えるのではないかと思う。来場して参加する人は、登壇者を生で見られるし、ドリンクやフードやグッズ販売など、リアルイベントならではの楽しみもある。配信で参加する人は、会場から遠い場所に住んでいても視聴できるし、自宅で見られる気楽もある。開催側にとっても、収入源の種類は多い方がいい。

というわけで、来月は、そういうイベントをやります。続報を待たれよ。