ノーベル平和賞

2010年のノーベル平和賞の受賞者は、中国人の民主活動家、劉暁波さんに決定したそうですね。中国のみなさん、おめでとうございます。みなさんにとって長年の悲願だった、中国国内在住の中国人で初のノーベル賞受賞。実に喜ばしいことです。

聞けば、劉暁波さんは、共産党の一党独裁体制の廃止や、民主的な選挙の実施、言論や宗教、集会の自由などを求めた「08憲章」の起草者だそうですね。現在は‥‥刑務所で服役してらっしゃるんですか? 国家政権転覆扇動罪? それはまたどうして? まあ、ノーベル平和賞を受賞されるほどの方ですから、中国の刑務所でもさぞかし厚遇されているのでしょうね。

国内在住の中国人初のノーベル賞受賞というビッグニュースですから、大々的に報道されているのかと思いきや、中国各紙ではほとんど報じられていないようですね。なんと奥ゆかしい国民性でしょう。NHKやBBC、CNNなどといった海外メディアの放送を遮断して画面を真っ黒にしたり、インターネット上の関連情報を削除したり、携帯電話のショートメールを制限したり、その徹底した奥ゆかしさっぷりには、いつもながらつくづく感服します。

中国外務省からは「劉暁波の受賞はノーベル平和賞を侮辱するものだ。中国とノルウェーの関係に損害をもたらすだろう」というコメントが出されているようですが、これは‥‥日本でいうところのツンデレですよね? いくらうれしいからって、国家レベルでヤクザまがいの脅しをかけるふりをするなんて、もう、照れ屋さんなんだから。

もしかすると来年は、中国人ではないけれど、たとえば世界ウイグル会議議長のラビア・カーディルさんがノーベル平和賞を受賞したりするかもしれませんね。その時は、もっと素直に受賞をお祝いしてあげたらいいんじゃないかと思いますよ、中国のみなさん。

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ダライ・ラマ法王の11月の来日スケジュールが公式発表。大阪、奈良、四国、広島での法話や講演を予定されているとのこと。今回は残念ながら、東京での講演の予定はなし。

旅音「インドホリック」

ラダックから日本に帰ってきた時、旅音の新刊「インドホリック」が、僕のいない間に発売されていたことを知った。しかも、「ラダックの風息」と同じ出版社から。そこから不思議な縁がつながって、11月3日に開催するトークイベントのゲストとしてお招きすることになったのだが、それはまた別の話。

旅音とは鎌倉在住のご夫婦で、ご主人の林澄里さんが写真とWebを、奥さんの加奈子さんが文章を担当されている。中南米を一年かけて旅した日々を描いた前作「中南米スイッチ」もそうだったが、この「インドホリック」も、瀟酒でとても美しい本だ。鮮やかな色彩のインドの情景を、みずみずしい感性で切り取った写真の数々。インド各地を約半年かけて旅した日々を綴る文章は、感動した出来事があった時も、困ったトラブルに遭遇した時も、きちんと抑制が効いていて、ニュートラルな視線に好感が持てる。

旅行記というと、自分の行為に陶酔してしまったり、妙にカッコつけてしまったり、あるいは面白おかしくウケを狙ったりしてしまいがちだが、旅音による二冊の本は、本当に自然体で、いい案配のバランス感覚でまとめられている。それはたぶん、彼ら自身が、旅というものに対する自分たちなりのスタンスを確立しているからだろう。

長い旅を経験した人の中には、疲弊して擦り切れてしまったり、何かが変質してしまう人も少なからずいる。でも、旅音の二人は、異国に対するフレッシュな好奇心と敬意を抱きながら、実にのびのびと旅を楽しんでいる。それでいて、自分たちらしさも忘れていない。「旅の達人」といった類の人たちとは違う。「旅を楽しむことがうまい人たち」なのだと思う。そして、そういう人たちが作った本というのは、読んでいても気分がいい。

できれば、せめてあと1折(16ページ)はページ数に余裕を持たせて、その分、見開きや1ページ断ち落としでズバッとレイアウトされた写真をもっと見たかった‥‥というのは、贅沢すぎる注文か。フルカラーの本でこれ以上ページ数を増やすのは、採算面でかなり厳しくなるのはわかっているけれど。

準備着々

朝、荷物が届く。来週末から始まるラダック写真展で展示する写真パネルだ。先週、注文しに行った時のトラブルのこともあって、正直かなり心配していたのだが、検品したところ、仕上がりは特に問題なし。カメラのセンサーの画素数が前よりアップしているからか、解像感もそれなりにいい。展示するのが楽しみになってきた。

午後、リトスタに行って、写真展期間中のトークイベントについて詰めの打ち合わせ。使用機材や会場での物販、当日の段取りなど、プランはほぼ固まった。ミヤザキ店長からの提案で、リトスタ特製お弁当付きトークイベントという、面白いスタイルのイベントになりそうだ。どんな感じのお弁当になるのかをちらっと聞いたのだが、リトスタらしい、王道を行くお弁当になるとのこと。あまりにうますぎて、こっちが必死にしゃべってるのに、みんなはお弁当に夢中ということになったら、ちょっとカナシイけれど(笑)。

いろんな人に支えられながら、少しずつ、準備が進んでいく。

カイラスからウイグルへ

昼、綱島にあるPOINTWEATHERというお店に行く。旅の気配がそこはかとなく漂っていて、いい雰囲気。来月初旬にラダック写真展会場で開催するトークイベントにお招きするゲストの方と打ち合わせ。初対面だったが、柔和でとても感じのいい方で、時間を忘れて話し込んでしまった。いいトークイベントになるかも。

夕方、綱島から小川町に移動して、旧知の編集者さんと世間話的な打ち合わせ。何だか、明らかに疲れているように見える。結局、僕たちは、自分が面白いと思えるものを信じて作っていくしかないのだけれど。

夜、同じく小川町で、風の旅行社主催のイベントに顔を出す。チベットの聖山カイラスをテーマにしたスライドトークイベント。カイラスやグゲはずっと憧れの場所だったから、写真を見ていると心が沸き立つ。でも、ラサからペッカペカに舗装した道路が敷設されていたり、漢民族やインド人観光客がわらわらと押し寄せる一方、チベット人の巡礼者は規制されつつあるという話を聞くと、僕はもうすでに機を逸してしまったのかな、という気もする。

帰り道、新宿で途中下車して、シルクロード・タリムウイグルレストランに行く。今年の春に新宿にウイグル料理の店ができたと友達から聞いて、気になっていたのだ。ひさびさに食べた、ラグメンの味。学生の頃、初めての海外一人旅で訪れたトルファンでの日々を懐かしく思い出す。お店の人にそのことを話すと、「あの頃に比べると、トルファンはすっかり変わってしまいましたよ‥‥」と寂しそうに笑っていた。

鳥の群れ

夕方、仕事の合間に、近所のスーパーに食材の調達に出かける。買い物を終え、エコバッグを肩にかけてぶらぶら歩いていると、「チチチチチチ‥‥」と、妙に甲高い音が空に響き渡っているのに気づいた。

鳥だ。鳥の群れ。しかもすごい数の。

住宅街の道沿いに張られた電線の上に、尋常ではない数の鳥がずらっととまっている。何だか薄気味悪いし、下を通る時に糞が落ちてきたりするのも嫌なので、別の道から帰ることにした。ところが、こちらでも「チチチチチチ‥‥」という鳴き声が。見上げると、近所にあるNTTのビルの電波塔に、何百羽もの鳥が群がっているではないか。うわあ。

鳥なんて、普段は何とも思わないけれど、こうしてものすごい数が群がっているのを見せられると、鳥嫌いが嵩じて映画まで作ってしまったヒッチコックの気持もわからないではない。しかし‥‥どうしてこんな住宅地に鳥が集まっているのだろうか。