アウェイの地で

映画を観に行こうと思い立ち、渋谷へ。映画館で整理番号付きのチケットを買った後、夕方からの上映に備えて、腹ごしらえをすることにした。

僕にとって渋谷は、竹下通りほどではないにしろ(苦笑)、かなりのアウェイの地だ。あのチャラついた雰囲気にはどうにもなじめないし、店の移り変わりも早すぎてついていけない。おひるを食べるにも、どの店がいいのやらあまりよく知らない。さてどうしたものか‥‥と思案した結果、以前、誰かからちらっと噂を聞いたカフェ・マメヒコが近くにあったはずなので、iPhoneを頼りに訪ねてみることにした。

入口がものすごくわかりにくい(セブンイレブンの店内にある階段を下りる)のでどうなることかと思ったが、首尾よく辿り着くことができた。長い長いテーブルを中心にお客さんが大勢いたけれど、騒がしくはなく、ごく自然にくつろげる。ホエー豚のオムレツと、冬の深煎り珈琲を注文。酸味控えめなコーヒーはガツッとした苦みがあって、もろに僕の好み。オムレツも丁寧に作られていておいしい。店員さんたちもとても感じがいい。何より、あんまり渋谷らしくない(笑)。ここはいい店だなあ。

自分にとってアウェイと思い込んでいた街で、思いがけず、憩いの場所を見つけることができた。

アン・サリー「fo:rest」

去年の暮れ、アン・サリーが三年ぶりに新譜「fo:rest」をリリースしたことを知った。今のところ、コンサート会場とレーベルのWebサイトだけでの限定販売だという。さっそく注文して取り寄せてみた。

歌い手であると同時に、医師であり、二児の母でもあるアン・サリー。彼女の歌声には、その時々の彼女の人生が色濃く反映されている。クリスタルのように透き通る歌声が鮮烈だった初期の作品群。ニューオリンズでの三年間の体験から作られた「Brand-New Orieans」。母性愛が惜しみなく注ぎ込まれた「こころうた」。今回の「fo:rest」でのアン・サリーの歌声は、以前よりもさらにしっとりと深みを増した印象を受ける。さまざまな「命」と向き合う彼女の日々の生活が、そうした深化に繋がっているのかもしれない。

自身の作詞・作曲によるオリジナル曲をはじめ、ジョニ・ミッチェルやキャロル・キング、リンダ・ルイス、果ては松田聖子(!)の曲までカバー。ボサノヴァの定番が二曲収録されているのも個人的にはうれしい。わかりやすい華々しさは微塵もないけれど、何度でも、いつまでも聴き続けられるような、愛すべき小品に仕上がっていると思う。

このアルバムを聴いていると、冬の安曇野の森の中を一人で歩いていた時のことを思い出した。誰もいない、残雪が白く残る木立の間を、吹き抜けていった風。「fo:rest」というタイトルが意味するものは、「森」であると同時に「安らぎ」でもあるのだろう。

いきなり本丸

昼、リトスタで人に会う。とある旅行会社の方で、今月末から視察も兼ねてチャダル・トレックに行くため、僕にいくつか聞きたいことがあったのだという。

お互いにラダックや他のチベット文化圏をよく知っていることもあって、話はずいぶん盛り上がった。でも、一番驚いたのは、僕が水面下で進めている本の企画について話した時。「あそこの出版社から出せるといいんですけどねー」と何気なく口にしたら、「あ、その出版社の編集部の方、知り合いですよ。ご紹介しましょうか?」という申し出を受けたのだ。詳しく聞いてみると、まさに僕が企画の持ち込みを打診しようとしていた部署の責任者の方だった。これから城攻めに取りかかろうと思っていたら、いきなり本丸に突入してしまった感じ。びっくり。

その後、話はトントン拍子に進んで、再来週あたりには最初のプレゼンをさせてもらえそうなところまで漕ぎ着けた。この企画が先方の社内で生き残れるかどうかはまだわからないけど、うまくいけば、ちょっと面白いことになるんじゃないかと思う。手持ちの武器を各種取り揃えて、プレゼンに備えるとしよう。

団体行動

終日、部屋で仕事。といっても、来週以降の打ち合わせの日時を調整するための連絡業務くらいか。いくつかのたくらみが、水面下で徐々に進行しつつある。

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ここ数年、僕の両親は猛烈な海外旅行熱に浮かされていて、二、三カ月に一度のペースでどこかしらに出かけている。去年はたしか、ザンスカールに、アラスカに、パタゴニアに‥‥たぶんもっと行っているはず。今年は今年で、タスマニアやドロミテに行く気らしい。旅行費用も相当な金額になると思うのだが、両親にしてみれば、身体が五体満足に動くうちに、行けるところにはかたっぱしから行っておくつもりなのだろう。

こういう話を他の人にすると、「やっぱり、同じ旅好きの血が流れてるんですね」と言われたりするのだが、両親と僕とでは、根本的に違うところがある。両親が旅に出る場合は、必ずツアーか手配旅行。母親曰く「自分たち以外の同行者がいないと寂しい」のだとか。一方、僕は、いわゆるツアーというものに参加した経験がまったくない。自分勝手というか、協調性がないというか、とにかく団体行動を強いられるのがものすごく苦手なのだ。

こんな性分だから、会社勤めにも馴染めなかったんだろうな‥‥(笑)。仕事にしても、旅のスタイルにしても、収まるべきところに収まったということか。

需要と供給

太った。明らかに太った。

年末年始に安曇野に滞在していた時、日帰り温泉に置いてあった体重計に乗ってみたら、63キロに達していた。自分史上過去最高タイ。ま、そりゃそうだ。最近は、一日で忘年会を二件ハシゴするような飲み方をしてたし。

世間では、古の昔からさまざまなダイエット法が考案されては消えていったが、ダイエットにおける真実はただ一つ。カロリーの需要が供給を上回ればいい。食事はほどほどの量にして、なるべく身体を動かす。とりあえず今日は、人に会う用事のために吉祥寺まで歩いて往復して、夜に腹筋とスクワットを課してみた。

今のうちに身体を絞って、来るべき夏に備えることにしよう‥‥。