連絡先の交換

僕が初めて一人で海外を旅したのは、22歳の時。その頃は、旅先で知り合って仲良くなった人がいると、帰国した後にやりとりするために、お互いの住所と電話番号を交換したものだった。それで、旅先から絵ハガキを書いて送ったりもしたっけ。何しろ当時は、インターネットなんてほとんど使われていなかったから。

30歳の時に半年間のアジア横断の旅をした時は、連絡先として交換するのは、名前とフリーメールのアドレスに変わっていた。それでしばらく互いの状況をメールで知らせて、別の街で再び合流できそうなタイミングがあれば連絡を取って落ち合ったり。昔に比べればずいぶん便利になったけど、旅先で偶然に再会する喜びは、ちょっぴり削がれたような気もした。

そして最近は、メールアドレスだけでなく、「Facebookでフォローしてもいい?」とも訊かれるようになった。今では、インドやヨーロッパにいる知り合いとも、ほとんどリアルタイムでやりとりできる。確かに、コミュニケーションの距離感はものすごく近くなった。でも、何か味気ない気がしないでもない。

異国の切手が貼られた絵ハガキを受け取っていたあの頃の方が、やっぱり嬉しかったな、何となく。

苦を楽しむ

午後から氷雨が降り出して、寒い一日だった。

終日、部屋に籠って、ラダックの本の作業に取り組む。制作の手順の関係で、まずは本に収録する地図に必要な素材やデータの準備から。地図の作成自体は本職の方にやっていただくので、作成したい範囲を指定する画像や、その中に含まれる地名などのテキストを揃えていく。

ちまちまと細かい、果てしもなく地味な作業。他の人なら、退屈でメンドクサくてやってられない作業だろう。同じ場所なのに、地図によって地名が全然違うとかざらだし(苦笑)。でも、僕にとっては、こんな地味な作業でさえ、楽しくて仕方がない。自分自身がありったけの思いを込めて育ててきた企画に、やっと本腰を入れて取り組めるのだ。楽しくないわけがない。

苦を苦とも思わずに楽しめる。そこが、自分自身で立てた企画に取り組める時の醍醐味かもしれない。

桜の花が咲く頃に

午後、赤坂で打ち合わせ。これから作る新しいラダックの本について、担当編集者さんから現在の状況を聞き、細かいポイントをすり合わせていく。

基本的な条件面は申し分ないし、本づくりの方針についても、編集者さんと共犯関係が築けたので、いい方向に向かっていけそうな手応え。問題があるとすれば、スケジュールか‥‥。プロモーションの関係で、来年の初夏までに店頭に並べたいという要請。なら、もっと早く企画を承認してくれればよかったのに(苦笑)。まあ、やるしかないか。

打ち合わせが終わった後、赤坂から四ッ谷駅まで歩く。西の空が、燃えるような真紅に染まっている。土手の上の桜並木は、今はすっかり冬枯れだけど、桜の花が咲く頃には、新しい本のカタチができているといいな。がんばらねば。

小さなプレゼント

昨日まで降っていた雨も止んで、今日はすっきりと澄み切った青空。それにつられて、十日ぶりくらいに電車に乗って都心へ。神宮外苑の銀杏並木でも見物に行こうかと思った次第。晴れていても風は冷たく、ピーコートを着ていてちょうどいいくらい。もうすっかり冬だな。

銀杏並木の黄葉は、冷たい雨に散ってしまったのか、すでに盛りを過ぎた感じで、ちょっぴり残念。でも、ひさびさに寄ったCAFE246でうまいタコライスを食べ、隣のBOOK246で旅の本たちをゆっくり見られたのは楽しかった。旅の本ではないけど、岡山にいる姪っ子と甥っ子へのクリスマスプレゼントに、もうひとつの研究所のパラパラブックスを買う。単語帳くらいのかわいいサイズで、びっくりするくらい緻密で愉快なパラパラマンガが楽しめる。僕自身、店頭のサンプルで、しばらく素で遊んでしまった(笑)。

ぶっちゃけ、たとえば甥っ子の場合、仮面ライダーや戦隊モノのグッズなら100パーセント喜ぶとは思うのだが、それはもう岡山でさんざん与えられているから‥‥。まあ、こんな天の邪鬼な叔父がいてもいいんじゃないかな(笑)。

無神経な広告

これは、僕自身ではなく、知人が体験したことなのだけれど。

先日、知人が書店で本を買った時、ちょっと変わったブックカバーをつけられたのだという。そのブックカバーには、ソニーの電子書籍リーダーの広告が印刷されていたのだ。

ソニーや広告会社からしてみれば、自社の商品を売り込みたい読書好きな人にアピールする意図でこういう広告を企画したのだと思う。でも、知人は、自分が楽しみに買った本にそういうブックカバーをかけられてしまって、何だか残念で寂しい気持になったのだそうだ。僕がその立場でも、同じように感じたと思う。

読書好きな人すべてが、紙の本も電子書籍も分け隔てなく受け入れているわけではない。また、両方を受け入れている人でも、紙の本を買う時には愛着のある「モノ」として欲しいと思うから買う場合が多いだろう。電子書籍の広告入りブックカバーを発案した人は、それで嫌な気持になる人も少なからずいるということまで、考えが及んでいなかったのではないだろうか。

はっきり言って、紙の本が好きな人にとっては無神経な広告でしかないと思う。ソニー、残念。