バトン

午後、豊田にある大学キャンパスでの取材を終えた後、都心に移動。今夜は代官山蔦屋書店で、九月に亡くなった旅行コンシェルジュの森本剛史さんのお別れの会。

会場には、びっくりするくらい大勢の人が集まっていた。100人は余裕で超えてたんじゃないだろうか。お別れの会というものにありがちな湿っぽさはほとんど感じられなくて、誰もが旧交を暖めながら、森本さんの思い出話をしては笑顔を見せていた。ここに集まった人たちはみな、森本さんが結びつけた人たちなのだ。そう考えながら周囲を見回すと、とても不思議な気持になった。

会の終わりに、会場の壁面に、映像が映し出された。森本さんが住んでいた部屋だった。壁際の棚という棚にぎっしりと詰め込まれたままの、旅にまつわる、ありとあらゆる本。次に書く本の構想を書き留めた分厚いノート。森本さんにとっては、最後の最後まで、すべてが旅であり、本だったのだ。

ふいに、ぽん、とバトンを手渡されたような気がした。いつもの、気軽な調子で。

ヤマモト君、今度はどこに旅に行って、どんな本を作るんだい? いいのができたら、持って来なよ。

それは、最後の最後まで、旅の本を作り続ける、覚悟のようなものなのかもしれない。受け取ったバトンを手に、僕はどこまで走れるのだろう。そう思うと、ぎゅっと、胸が締め付けられるような気がした。

ママ友会

昨日の夜は、古民家を改装した静かで感じのいいレストランで、ちょっとぜいたくな晩ごはんを食べた。

たいていのお客さんは黙々と料理に集中して食べていた(つまりそれくらいおいしい)のだが、昨日はひと組、かなりにぎやかなグループがいた。大きなテーブルを囲んでいた女性ばかりのグループで、大きな声で漏れ伝わってくる内容によると、ママ友の方々の集まりらしい。「女子会」と言ってたけど、「ママ友会」の方が合ってるだろう。

とにかくにぎやかだったので(苦笑)、聞こうと思わなくても、いろいろ聞こえてきた。どこそこのナントカ君は少年野球で前途有望だとか。あそこのナントカちゃんはうちの子とああだこうだとか。夫と子供を朝送り出して、家事を一通り片付けても、時間が余ってしょうがないから、ネットでついつい買い物をしてしまうとか。

僕の知り合いにはまずいないタイプの人たちの会話だったので、ある意味新鮮だったのだが、何というか、まあ、世の中にはいろいろあるんだなあと。スケールの差こそあれ、いろんな人が、いろんな場面で、悩んだり、戦ったりしてるのだな。

まあ、それはともかく、もうちょっと周りの空気を読んで、静かにごはんを食べてほしかったな、というのはある(苦笑)。

ばたばたしてる

終日、部屋で仕事。さすが師走というべきか、届くメールの数はやたら多いし、取材や打ち合わせの予定は日に日に増えていく。今抱えてるいくつかの仕事の進捗を考えると、たぶん二月の中旬くらいまでは、かなりばたばたした日々が続きそうだ。

そういえば、僕はいつもばたばたしてる、と人に言われたのだが、確かにそうかもしれない。残念なのは、そのばたばたのたぶん3分の1くらいは、さしたる利益にもつながらないばたばたなのだが(苦笑)。なんでそんなに、いろんなことをごっそり抱え込んでしまうんだろ、と我ながら思う。

まあでも、この世の中、何がどうつながって人との縁になるか、わからないし。やりたいこと、やらねばならないと思えることを、ばたばたとやるしかないな。

仕事の価値

仕事というものの価値について考えてみる。世の中にはいろんな職業があるから、一概に言えることではないけど。

いい仕事、価値のある仕事って何だろう? たっぷりと報酬がもらえる仕事? そうとはかぎらない。昔頼まれたある仕事は、確かに報酬はよかったけれど、それをしても世の中に何ももたらさない、ただその依頼主が公的機関から金を吸い取るためだけの仕事だったと知った。あれほど無駄な時間はなかったかもしれない、と今でも思う。

逆に、報酬は正直ちょっぴりだけど、隅々までとても気持よく関わらせてもらえた仕事というのも、時々ある。それは結局、目指しているものの世の中における大切さとか、関わっている人たちの熱意とか、そういうものを感じられるから「やってよかった」と思えるのだろう。

とはいえ、いい仕事には相応の対価が支払われるべきだということも、僕は大切だと常々思っている。いくら熱心に依頼されても、たとえば1文字0.1円で文章を書いてくれと言われたら、断るしかない。そんな依頼をする人は、その仕事の価値や求められる能力をまったくわかっていないからだ。

文章を書く仕事、写真を撮る仕事、本を作る仕事。依頼してくれる人たちと気持が通じ合って、よいものを世の中に届けていけるような仕事に携わりたいな、と思う。

想像してたのと違う

お昼前から午後にかけて、赤坂で打ち合わせを2件。年明けに入る予定の、新しい種類の仕事。クライアントも初対面の方々ばかりだったのだが。

「‥‥いやー、何か、想像してたのと全然違うイメージの方ですね!」

うん、やっぱりね。そう言われるよね(苦笑)。この間のラジオの収録の時も、そんな風に言われた。

世の中の人たち‥‥特に僕の本を読んでくださってる方々に、いったい僕は、どんなイメージで見られてるのだろう? ひげもじゃでごっつい探検家みたいな人? 殺しても死ななそうな感じの人?

本人はごく普通の、ひょろっとした覇気のないメガネのおっさんです。どうぞよろしく。