つながりを保つもの

昼、取材のため外出。中央線で八王子まで行き、そこから横浜線に乗り換えて、矢部という駅へ。ひさしぶりに、大学案件の取材。

本来なら今はインドにいるはずだったので、仕事関係の方々には2月の段階でその旨を伝えて、取材などの依頼はあらかじめお断りしておいた。今の時期、特に大学案件は忙しいはずなのに、こっちの都合で2週間留守にするというので、ずいぶん迷惑をかけたはずだ。

それなのに、インド取材がキャンセルになった後、そのことをメールで知らせると、大学案件の主任さんは「そんな時に乗っかるのは恐縮なところですが、取材、ありますよ!」とすぐに返事を送ってきてくれた。つながりというのはありがたいものだなあ、とこんな時だからこそ思う。

そういう仕事のつながりも、ほったらかしにしていたら、いつかは錆びてちぎれてしまう。それを保つものは、たとえ地味でも質のいい仕事を、一つひとつ、丁寧に積み重ねていくことでしかない。

メモに頼る

最近、自分の記憶力に、まるで自信が持てない。もう、ずいぶんいい歳こいたおっさんだからというのもあるが、それにしても心もとないので、最近はすっかりメモに頼っている。もらいものの大きなブロックメモの紙に、ことあるごとにメモして、目につく場所に置いているのだ。

近所のスーパーに食材の買い出しに行く時は、買わなきゃならないものを全部メモ。翌朝生ゴミを出さなきゃならない時はメモを枕元に。取材の予定がある時は、何時に家を出て何時の列車に乗り、どこで乗り換えるかまで前日のうちにメモして、財布と鍵の横に。仕事が立て込んできたらTO DOリストをメモして、デスクライトの下に。今や、物理的な紙のメモを置いとかないと、不安にかられてしまうのだ。

それにしても、ボンクラになったもんだなあ、と我ながら思う。だって、何かをグーグルで調べようとして、キーワードを入力しようとしたら、何を調べようとしてたか思い出せないくらいなんだもの。やばい(苦笑)。

「Hawaa Hawaai」

hawaahawaai先日のノルウェー取材の時に乗った飛行機では、なぜかインド映画のラインナップが充実していた。ミュージカルシーンがばっさりカットされた残念なものも多かったのだが、この「Hawaa Hawaai」はほぼノーカットだったようで、じっくり楽しむことができた。

一家の大黒柱だった父を亡くして貧しくなった家族を助けるため、ムンバイの街の駐車場にあるチャイ屋で働く少年、アルジュン。その駐車場は夜になると、お金持ちの子供たちが集まるインラインスケートの練習場になる。インラインスケートに憧れを募らせるアルジュンを見た仲間の貧しい少年たちは、スクラップ置き場で拾い集めた材料で、アルジュンのためにスケート靴を作ろうとする。そのスケート靴「ハワー・ハワーイ」が彼らにもたらしたものは‥‥。

日本でも公開された「スタンリーのお弁当箱」のアモール・グプテ監督の新作であるこの作品、主演を務めるのは前作と同様、監督の息子さんのパルソー君。あらすじだけを見れば、少年が才能と努力で困難を克服して高みを目指していくという、割とよくある設定だし、演出や俳優の演技も、あまりにもナチュラルだった前作に比べるといくぶんオーソドックスな印象だ。ただ、そこでよくあるオーソドックスな映画で終わらせないのがグプテ監督らしいところ。理不尽な貧富の格差の中で、学校にも行けずに過酷な労働を強いられている、今のインドに無数にいる子供たちの問題をきっちりあぶり出している。その点では、「スタンリーのお弁当箱」の延長線上にある作品なのだろうし、最後の最後がああいう終わり方だったのも、「この子たちにとって一番大事なのは、勝つか負けるかとかじゃなく、これなんじゃないの?」という監督のさりげないメッセージだったのかもしれない。

いきいきと瞳を輝かせる子供たちの演技は素晴らしいし、英語でなく日本語字幕で観たら、もっといろいろ腑に落ちる部分もあると思うので、日本でも公開されるといいなと思う。ぜひに。

「女神は二度微笑む」

kahaani
僕はふだん、サスペンスものの映画はあまり観ないのだが、この「女神は二度微笑む」の日本での公開が決まってからは、必ず観に行かなくてはと思っていた。国内の映画祭で観た人からの評価が異様に高かったし、インド映画界きっての演技派女優、ヴィディヤー・バーランの主演作は、これが日本初上陸のはずだったし。

インドのコルカタ国際空港に降り立った身重の女性、ヴィディヤ。彼女は、この街に出張してきたのに一カ月前から行方不明になっている夫を捜しに、はるばるロンドンからやってきていた。だが、夫が泊まっていたはずのゲストハウスにも、勤務先だったはずのNDCにも、夫を知る者は誰もいない。やがて、その先に浮上したある人物の素性と行方をめぐって、事態は思いもよらない方向に‥‥。

‥‥あー、難しい。ネタバレさせずに書くのが難しい(苦笑)。でも、期待に違わぬ傑作だったことは保証する。緻密でありながら、いくつもの驚きに満ちた脚本。ヴィディヤー・バーランの、文字通り素晴らしい演技(先週観た「フェラーリの運ぶ夢」で陽気なアイテムソングを踊ってた女性と同一人物とはとても思えない)。サスペンスやホラーによくある、激しい場面展開やアクションやでかい効果音などで観客をびびらせるのではなく、脚本と演技の力だけで、観る者を完全に映画に没入させて、最後の最後に「うわー!!!」とさせる(としか書きようがない)。すごい映画だ。

舞台となったコルカタの街の、熱気と喧騒と埃がどんよりと澱んだ猥雑な雰囲気も、なくてはならない舞台装置だ。そこかしこに挿入される街や人々の描写が、謎めいた雰囲気をさらに盛り上げる。この映画、ハリウッドでのリメイクの話も持ち上がっているようだが、舞台がコルカタでないと、その魅力も半減してしまうだろう。個人的には、昔、マザーハウスでボランティアをしていた時に乗り降りしていた地下鉄のカーリーガート駅や、大河にかかるハウラー橋が出てきた時は、何とも言えない懐かしい気持になった。

とりあえず、観た方がいいと思うし、観てもらえれば必ず納得してもらえると思う。傑作。

「山本高樹のノルウェー・トロムソ取材レポート」

tromso_bepal小学館のアウトドア雑誌「BE-PAL」のWebサイト上で、先日プレスツアーで訪れたノルウェー北部の街トロムソについてのフォトレポートの短期連載を開始しました。全6回の予定で、トロムソの街の紹介のほか、郊外での犬ぞり体験や、オーロラの撮影の模様などを写真とともにお伝えしていければと思っています。北極圏の街の様子について興味のある方は、ご覧になってみていただけるとうれしいです。よろしくお願いします。