Wi-Fiの呪縛

帰国してからというもの、連休とかまったく関係なく、日々仕事に追われる。来年春に出す新しい本の打ち合わせ。南アフリカで撮った写真のセレクトと現像、そして原稿の執筆‥‥。来週明けには別の仕事の打ち合わせが立て続けに。そして再来週の月曜日からは、毎年恒例、約4週間のタイ取材だ。

ここ数年、タイのような観光の盛んな国はもちろん、ラダックのような辺境の地でも、宿でWi-Fiにつないでネットが使える時代になった(停電したり、上位回線が頻繁に落ちたりするけど)。一昔前は「いや〜、何しろラダックなんで、ネットにつなぐ必要のある仕事はできないですね〜」と言い訳することもできたのだが、もはやその手は通じなくなりつつある。

なので、僕もついに重い腰を上げて、海外取材用にMacBook Air 11インチを導入することにした。長期取材時には撮影済みデータを外付ハードディスクにバックアップするのにも使うので、USB-Cポートが一つしかないMacBookではなく、枯れた仕様のMacBook Airを選んだ。この僕ごときが、あろうことかMacの2台体制である。

こういう体制にしてしまうと、旅先でもむやみに忙しくなってしまうんだろうなあ‥‥宿で寝る暇もなくなるかも‥‥Wi-Fiの呪縛、恐るべし。

近所徘徊

7年間ほど使い続けてきたデスクライトが壊れてしまい、修理代も異様に高くついてしまうとわかったので、名残惜しいが廃棄することにした。捨てるにはかなり大きめの有料ゴミ袋が必要だ。ひと袋ずつバラ売りしてる店で調達しようと、夕刻、晩ごはんついでに出かける。

ネットで調べると、大きめの有料ゴミ袋をバラ売りしている店は、近所に3軒。どれもスーパーなどではなく、小さな個人経営の店のようだ。1軒目に訪ねた薬局は、日曜だからかお休み。そこからiPhoneの地図を見ながらてくてく歩き、今まで通ったこともないような細い路地を抜け、2軒目の酒屋へ。しかしそこもお休み。3軒目はさらにぐるっと回ったところにある文具店らしい。

再びiPhoneの地図を見ながらてくてく歩いてると、頭上の電線に、何百羽というムクドリが。この辺にあるNTTの電波塔周辺が、彼らの溜まり場となっているようだ。電磁波に惹かれてるのか、それとも他に理由があるのか。「こわいねー、こわいねー」と、おばちゃんが飼い犬のポメラニアンに語りかけながら空を見上げている。

ようやく辿り着いた3軒目は、文具店なのかタバコ屋さんなのか判然としない物件で、ものすごく狭い店内に老夫婦がひっそり座っていた。ゴミ袋を所望すると、机の引き出しから無造作に一枚引き出して、ほいと渡してくれた。

ほんの小さな旅のような、近所徘徊だった。

カビとの戦い

海外取材で家をしばらく留守にする時、一番神経を使うのが、カビ対策。

今住んでいるのはマンションの一階なので、普通に暮らしていても革製品などをやられることがあるのだが、海外に出かけると、場合によっては数カ月も部屋を閉め切ったままにするので、何の対策もしないでいると、本当に恐ろしいことになる(汗)。なので、出発前にはベッドシーツなどをすべて洗濯し、除湿剤を各所にセットし、クローゼットは閉め切らず、靴や革製品はなるべく湿気の少なそうな広めの場所に置く。そうしたカビ防止策の準備にも、それなりに慣れてきたと思っていた。

しかし、今年の夏は手強かった。猛烈に暑い日々が続いた後、僕が帰国する頃から毎日のように雨。部屋に戻ってみるとむわっとした湿気がたまりにたまっていて、革ベルトが2本、枕カバーが1枚、それから今年初めまで使っていた古いカメラバッグの外側がカビにやられていた。ベルトはカビを落とした後にエタノールで除菌し、枕カバーもしっかり洗濯したが、カメラやレンズにはカビが大敵なので、カメラバッグはどうにもならない。廃棄するしかなさそうだ。

嗚呼、湿気の少ない部屋に引っ越したい(苦笑)。

「Khoobsurat」

khoobsurat先日の南アフリカ取材、東京から香港に向かう飛行機の機内では、例によってインド映画を観た。だって、これから先日本で公開されるかどうかも定かでない(むしろ確率は低い)インド映画が、英語や日本語の字幕付きで観られるのだもの。使える機会は最大限利用しなければ‥‥。今回観たのは「Khoobsurat」。昨年、ディズニーが制作したインド映画だ。

インドのプロクリケットチームでトレーナーを務める理学療法士のミリーは、車椅子生活を送っているラージャスターンの貴族シェーカルの脚を治療するため、彼とその家族が暮らす邸宅に住み込みで働くことになった。しかし、シェーカルは自身のリハビリにまったく興味を示さず、妻のニルマラーは息の詰まるような厳格さで邸宅内を管理。息子のヴィクラムはビジネスのことしか頭になく、娘のディヴィヤは密かな夢を胸の奥に隠したまま。そんな中に飛び込んだ破天荒であけっぴろげなミリーの行動が、少しずつ彼らの心を動かしていく‥‥。

ディズニーの名を冠するにふさわしい、ロマンチックですんなりわかりやすいストーリー。主演のソーナム・カプールにとって、ミリーは彼女の美貌と身体のしなやかさを最大限に活かせるハマり役だと思うし、ヴィクラム役のファワード・アフザル・カーンの風格漂う物腰も見事にハマっている。物語の展開はお約束通りと言えばそれまでだけど、こういう映画は、そのまま素直に観て楽しめばいいと思うのだ。僕自身も、観ていて単純に面白かった。

この作品、日本で一般公開しても、ちゃんと受け入れてもらえるのではと思うのだが。ディズニーだし。ぜひご一考を。

自然の掟

zebra
10日間の南アフリカでの取材を終え、昨日の夜、日本に帰ってきた。

プレスツアー特有の窮屈さと時間のなさはあったものの、初めて訪れたアフリカ最南端の国での日々は、確かに得難い体験だった。特に旅の終盤、ピーランスバーグ国立公園で野生動物の姿を追いかけた二日間は、自分にとって良い経験になったと思う。

ジープで原野を走っている時、写真ではまともに撮れないほどはるか彼方を、ライオンの群れが獲物を追って全速力で駆けている姿を見た。別の場所では、ずっと以前に息絶えた後、ジャッカルやハイエナに肉も骨も食べ尽くされ、皮だけになったキリンの亡骸を見た。そこは動物園などではなく、命のやりとりが日々当たり前のように行われている自然の中なのだということ。そうした自然の掟が支配する中では、一人の人間は本当にちっぽけで無力な存在でしかないことを、身をもって感じた。

あの大陸の大地を、いつかまた、踏みしめる日が来るのかもしれない。