バングラデシュの記憶

バングラデシュの首都ダッカのレストランで、日本人を含む外国人20人が殺害されるテロ事件が起こった。バングラデシュでは去年から日本人や外国人が殺害される事件が時々起こっていたが、これほど大規模なテロは今までになかった。巻き込まれた方々のことを考えるとやりきれない思いがある。

僕がバングラデシュを訪れたのは、2年前の2月。ほんの10日ちょっとの旅で、自由時間もろくにないプレストリップだったが、それでもあの国の魅力は直に肌で感じることができた。膨大な数の人々がうごめくように暮らす巨大都市ダッカ、みずみずしい水田が広がる農村、霧に閉ざされたマングローブの密林、そして、穏やかでシャイで、人なつこい人々。彼らのはにかむような笑顔を思い出すと、なおさら胸が苦しくなる。

テロはもちろん絶対に許されない行為だし、今のような状況下でバングラデシュを旅したりするのは無謀だ。でも、「テロで日本人が殺された怖い人たちの国」という変なレッテルがバングラデシュに貼られてしまうのは、それはそれでよくないとも思う。いつかまた、いろんな物事が良い方向に動くようになるといいのだが……。

亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。

つながっていくもの

昼、横浜へ。中華街で2週間ほどやらせてもらっていた、ラダック写真展の撤収作業。パネルを外し、テープをはがし、梱包し……という作業に、黙々と取り組む。

お店の方によると、僕が在廊していない日でも、結構いろんな人が展示を見に来てくださっていたのだそうだ。近隣の方はもとより、埼玉とか、大阪とか、はるばる遠方から来てくれたフットワークの軽い方々も。ありがたいことだなあと思う。

昨日の夜に来ていたお客さんたちで、初対面なのに、今年の夏にほぼ同じ時期にラダックに行くからと、お酒を飲みながらすっかり意気投合してしまった方々もいらっしゃったそうだ。そんな風にして、写真展をきっかけに出会いや縁がつながっていくというのも、面白い。飲食店内での展示ならではのめぐり合わせかもしれない。

伝えていくこと。つないでいくこと。僕の役割は、そういうことなのかな、と思う。

憧れの人

昨日の夜は、ラダック写真展開催中の横浜中華街のお店で、気のおけない何人かで集まっての飲み会。割と早めの時間から夜半前まで、のんびり飲んで、愉しかった。

その席上で、「それまでずっと憧れていて、実際に面と向かって会えて、感動した人は誰か」という話題になった。僕の場合は誰だろう……取材とかでは割といろんな人に会わせてもらってるけど……。で、今、あらためて思い返してみると、これまでに二人いたかな、と思う。

一人は、写真家のセバスチャン・サルガド。十数年前、渋谷で彼の大規模な写真展が開催されていた時、来日して会場に来ていた彼に、図録にサインしてもらったのだった。自分が二十代初めの頃からずっと尊敬していた人だったから、あの時は本当に気分が舞い上がったのを覚えている。

もう一人は、ダライ・ラマ法王。これも十数年前、両国国技館での講演のために来日された時、僕は講演会場でボランティアとしてお手伝いしていたのだが、ご帰国の直前、宿泊先のホテルでほかのボランティアのメンバーとともに謁見させていただく機会に恵まれた。あの時も尋常でないくらい緊張したなあ……。

二人に共通していたのは、握手していただいた手の、柔らかさと、温かさ。たぶん、一生忘れられない感触だと思う。

完全復活

ここ数日、喉というかたぶん扁桃腺を腫らしたか何かで、呼吸も食事もままならず、ぐったりしていた。かといって医者に行ったわけでもなく、ケンカに負けて怪我した野良猫みたいにもっぱら自分の部屋で横になって耐えていたのだが、昨日あたりからだいぶ回復。呼吸が楽になってちゃんと眠れるようになり、食事も普通に飲み食いできるようになった。

気分的にも完全復活した今日は、仕事の調子もすこぶるよかった。作業が遅れていた先週収録のインタビューは、今日の夕方までに音声起こしを終わらせ、夕方からついさっきまでかけて、約8000字の草稿を一気に書き上げた。ひさしぶりに集中してキーボードを叩ける気分のよさ。内容的にも面白いインタビューだったから、もう最高である。

で、今、数日ぶりにビールを飲んでるところ。しみじみうまい。

EUとはいったいどんな組織なのか

今日は、英国で行われた国民投票でEU離脱派が多数を占めるという、衝撃的なニュースが世界を駆け巡った一日だった。その一方で、そもそもEUとは何のための組織なのか、具体的に知っていて一言で説明できる人は、そんなに多くないのではないだろうか。今年の春、とある取材でたまたまEUについて研究している方にインタビューさせていただいたのだが、その時に伺った話がとてもわかりやすかったので、ここでかいつまんで紹介しようと思う。

コンビニで販売されているミネラルウォーター。それらの中でも、エビアンやボルヴィックなどフランスから輸入されているミネラルウォーターのラベルには、EUの厳しい基準の検査をクリアした商品であることが詳しく記載されている。具体的には、「殺菌処理などを一切行っていない自然のままのものであること」「採水地の環境が完全に保護されていること」といった基準だ。こうした基準を、文字通り、世の中のありとあらゆる分野で設けて規制を行うことが、EUの仕事の7割から8割にあたると言っても過言ではないという。

つまり、「膨大な量のルールだけを作って運用している組織」というのが、EUの本質にもっとも近い形容なのだそうだ。ちなみに、EUがありとあらゆる分野に設けた規制の資料を本棚に詰めて並べると、何百メートルもの長さになってしまうほどだとか。それらの中には、環境保護活動から死刑制度の撤廃といったことまで含まれる。ルールこそが、EUをEUたらしめている最大の要素なのだ。

EUに属する国々がこんな風にあらゆる分野に統一基準を設けて運用していることで、それらの基準に共同で取り組むことで利便性が向上したり、厳しい基準をクリアした商品の国際競争力が向上したりするというメリットは確かにある。もちろんその一方で、分野によっては特定の国に何かしらの課題が生まれる場合もあるかもしれない。

しかし、今回の国民投票の結果を受けて、英国が今になってEU離脱という選択をするとしたら、どう考えてもデメリットの方が大きいと僕は思う。というか、離脱してEUのルールに縛られなくなることによって享受できるメリットはどんなものでどのくらいの規模のものなのか、正直言って見当がつかない。取材した方も「離脱しても、英国で明らかに何かがよくなる結果にはつながらないと思います」という意味のことを話していた。

ともあれ、賽は投げられた。どうなることやら。