人の物差し、自分の物差し

昔、飲み会の席で「一番好きなラーメンの店は?」という話題になった時、ある人が都心の高級中華料理店を挙げたので、その理由を聞くと、「あの有名俳優のナントカさんの行きつけの店だから」という感じの答えが返ってきた。

その人は、ナントカさんのおすすめコメントをテレビか雑誌で見て、店に足を運んだのかもしれない。きっかけとしては別に悪くないとは思う。ただ、その時の答えはどちらかというと、自分がその高級中華料理店を好きな理由を、ナントカさんの物差しを拝借することで立派に見せようとしているように感じられた。虎の威を借る狐、みたいに。

似たようなことは、僕も、世の中の人も、多かれ少なかれ、やっているのかもしれない。何かを選ぶ時に、人の物差しを参考にする。自信のなさを、人の物差しで補強する。でも、そればっかりでは、つまらなくないだろうか。自分自身の物差しで、好きなもの、嫌いなもの、正しいこと、間違ってること、一つひとつ決めていく方が、絶対に楽しいと思う。最初から確固たる物差しを自分の中に持っている人などいないのだから、試行錯誤しながら少しずつ精度を上げて、その過程を楽しんでいけばいいのに。

友人のラダック人のツェワンさんは、近所の主婦たちが料理を習いに来るほどの料理上手で、特にカレーは絶品なのだが、「好きな料理は?」と聞いたら、「スガキヤの坦々麺は、うまいですよね。あれは、うまい」としみじみ言っていた。それでいいんだと思う。

だし巻き卵、そしてインディア

一昨日の夜は、ラダックのツアーでお世話になっているGNHトラベル&サービスの事務所で飲み会。三井昌志さん、小林尚礼さん、藤木ケンタさん、中田浩資さんという錚々たる顔ぶれ。今回の宴は、中田さんが得意料理のだし巻き卵をひたすら焼きまくって、皆にふるまうという趣向だった。大葉とじゃこ入り、まるごと明太子入り、穴子入り、そしてプレーンなだし巻き卵。中田さんの手際はどれもお見事で、ふわっふわのだし巻き卵は本当においしかった。ごちそうさまでした。

そして昨日は、日本橋で開催されたインド関連本の販売イベントと、矢萩多聞さんたちが出演するトークイベント「ぽかーんインディア」へ。4人の出演者がそれぞれインドにまつわる「ぽかーんとした話」をするイベントだったのだが、面白かった〜。特に多聞さんの「イングリッシュティーチャー」の話は、個人的に強烈にツボに入った。インドという国、本当に底が知れない……。

二日続けて、たくさん笑うことができて、なんだか気分がせいせいとしている。

雲の爆発

今日は昼過ぎ頃から不穏な天気で、都内ではあちこちで、いわゆるゲリラ豪雨が降ったらしい。家で仕事しながら時折アメッシュを見ていると、見事なくらい赤黒い(=降水量が多い)パターンが、上空をまだらに蠢いていた。

ゲリラ豪雨の直訳になるのかわからないが、集中豪雨のことを英語ではCloudburst、「雲の爆発」と呼ぶそうだ。僕がこの単語を知ったのは、2010年夏のラダック。深夜に突然発生した集中豪雨で、ラダック全土で約600名もの死者・行方不明者が出た災害の時だった。僕自身、山中でのトレッキングからほうほうのていでレーに帰り着き、街の中に貼られていた新聞の切り抜きの見出しを見て、この単語の意味するところを知った。Cloudburstという言葉は、たぶん、ずっと忘れられないだろう。

今日の東京みたいなゲリラ豪雨が、もしラダックで降ったら、家の何軒かは流されてしまっているかもしれない。草木の乏しい剥き出しの大地は、雨に対しては本当に脆い。ラダックを取り巻く自然の怖ろしさには、そういう側面もある。

家にいる日々

ここ一週間ほど、平日はほぼずっと家にいる。取り組んでいる作業は、来月下旬から始まる約2カ月間のインド取材の下準備。スケジュールを組みながら、ちまちま、こまごまと、取材項目を整理していく。いつも以上に、微に入り細を穿つことを要求される作業だ。

こういう時期は、生活パターンがしぜんと均一化されてくる。寝床から出ておひるを作り、コーヒーを飲みながら作業して、夕飯を作り、作業の続きをして、日課のエクササイズを終えてから、飲んでいい日はビールを飲み、少し本を読む、とか。これはこれで自分のペースでやれるので心地いいのだけれど、ほぼ同じパターンで毎日を過ごしていると、時間の経つのが妙に早く感じられる。あれ、さっきコーヒー飲んだのに、もう夜? みたいな感じで。

うっかりネット徘徊しかしないまま一日が終わったりしないように(苦笑)、気をつけねば。

その後のインディア

数週間前に書いた、インドのシムラーという街のホテルをBooking.comで予約したら「デポジットで1泊分の全料金をこの口座に入金しなさい、でなければキャンセル扱いにします」と、インド国内のパンジャブ銀行の口座情報がメールで送られてきた件の、その後。

とりあえずこちらからは「こっちは日本だし、銀行に送金するのは無理。もしそちらの都合でキャンセルするなら連絡してください」というメールを、間を置きながら数回送った。その間、Booking.comの方でも空室情報をウォッチしていたのだが、僕が予約していたらしき部屋が空室になり、やがてそれが埋まった頃、ホテルからメールが来た。「デポジットが払えないなら部屋をキープできないので、そちらでBooking.comからキャンセルしてください」と。案の定である。

で、こちらからBooking.comでそのままキャンセルすると、ややもするとキャンセル料がかかってしまうので、Booking.comにある「キャンセル料の交渉」という項目から再度連絡し、「ホテル側からキャンセルしてくれと言われたので減額してください」とディスカウントを交渉。結果、キャンセル料は無料になった。まあ、当たり前といえば当たり前なのだが。

交渉に時間がある程度かかることを予想して、アゴダの方からシムラーの別のホテルを予約しておいたので、ことなきを得た。6月から7月にかけて、シムラーの宿は本当に混み合うし、高くなるので、危ないところだった。

しかし、この夏のインドとの戦いは、まだまだ序の口だ……。