「レモ」

今年、4月末から5月上旬にかけて、東京と大阪で開催されている、南インド映画祭。都合が合う日にどれか観に行こうと、各上映作品の予告編動画を見ていて、これは相当面白そうだな、と思ったのが、タミル語映画の「レモ」。で、昨日、観に行ってきた。

うだつの上がらない役者志望のSKは、オーディションで出会った映画監督に、次回作の主人公にはナースの女装をさせるという話を聞く。街の中で見かけて一目ぼれした女性、カヴィヤに婚約者がいることを知り、失意の中でナースの扮装をして監督に会いに行ったSKは、帰りのバスの中で偶然カヴィヤと話をするようになり、彼女が医師として勤める病院で働かないかと誘われて……。

いやー、楽しかった。ありとあらゆるところに「いやいやいや」とツッコミたくなるポイントが満載なのだが、それ自体が面白いというか、この映画の魅力になっている。いい意味での「おやくそく」がたっぷり用意されている安心感。シヴァカールティケーヤンのナースの扮装と演技は異様に完成度が高くて、ちゃんと品があるのもよかった。まさかの「PK」オマージュもあったり(笑)。笑ったり、ハラハラしたり、ひゃーっとなったりをくりかえして、観終わった後に包み込まれる、何とも言えない多幸感。こういうのが、インド映画ならではのよさの一つだよなあ、とあらためて思う。

「レモ」は、来週8日(月)と11日(木)にも上映されるそうなので、興味のある方はぜひ。

写真を通じて世界を愛するということ

昨日、渋谷で開催中のソール・ライター展を見た後、雑誌か何かで「ソール・ライターのような写真を撮るためのテクニック」という趣旨の記事を見かけた。構図の選び方、キーカラー、鏡やガラス、雨や雪の日、覗き見的なアングル……そんな内容だった気がする。もし、ソール・ライター自身が存命で、その記事に目を通したとしたら、たぶん例の調子で、フン、と鼻で笑うだろう。

もし、本当の意味で、彼のような写真を撮ろうとするなら、ニューヨークのイースト・ヴィレッジで、54年間、毎日、写真を撮り続けるしかない。小手先のテクニックと写真の本質は、まったく別のところにある。

完璧な構図、完璧な光線、完璧な配色、決定的な瞬間。すべての要素が完璧に計算しつくされた写真だから喚び起こせる種類の感動があることは否定しない。でも、少なくとも僕の目から見て、ソール・ライターがイースト・ヴィレッジで54年間、日々淡々と撮り続けてきた写真の一枚々々は、けっして狙いすまして撮られた完全無欠の作品ではないと思う。むしろ不完全で、微妙に揺らいでいて、思いもよらない何かが写り込んでいたり、逆に見切れていたり。理屈や計算では説明しきれない部分に、彼の写真の本質がある。

現実の世界は、いつも不完全で、人の思うようにはならないものだ。彼は、写真を撮ることを通じて、世界を愛した。ただただ、イースト・ヴィレッジの日常を、ありのままの世界を、愛していたのだと思う。

脳をとっぷり浸す日

昨日は昼から、渋谷へ。まず、Bunkamura ザ・ミュージアムで一昨日から始まったソール・ライター展に行く。一年半ほど前に彼についての映画を観て以来、この写真展も心待ちにしていたのだが、期待に違わぬ、素晴らしい内容だった。実際にじっくりと拝見させてもらった彼の作品群についての感想は、また別の折にでも書こうと思う。

夕方からは、同じくBunkamuraのオーチャード・ホールで開催された、畠山美由紀さんのデビュー15周年記念ライブ。6名のゲストが入れ替わりながら登場するという、本当に贅沢な内容。圧倒的な演奏と、台本通りにいかないMCがたまらない(笑)。歌と音楽に対する愛情が、ぎゅうっと詰まった3時間だった。

丸一日、眼から、耳から、良質なインプットを注ぎ込んで、滋養の海に脳をとっぷり浸すことができた。こういう日は、時折必要だなあ、と思う。

運命の巡り合わせ

運命の巡り合わせ、という言葉がある。その人にとって、偶然という一言で片付けるには不可思議に思えるような出来事がいくつか続いた時に、よく使われる言葉だ。

僕は数年前から、とても個人的な動機で、アラスカを取材をしている。その動機が生まれた背景には、いくつかの出来事があったのだが、それらについて近しい人に話すと、ほとんどの人が口を揃えて「それは運命の巡り合わせじゃないですか」と言う。確かに、そう言いたくなるのもわかるような、不可思議としか言いようのない符合が(20年以上前から)あった。でも僕自身は、それらの出来事を「運命の巡り合わせ」という言葉であっさり片付けてしまいたくはない、という気持でいる。

この世界は、目には見えない運命というものに支配されてなどいない。人が生きていく中で起こるたくさんの出来事の中から、何を感じ、何を選び、何をするのかは、その人自身が決めることだ。そうして選んだ道は、時には、もしかするとどん詰まりになるかもしれないけれど、そうなったとしても、僕は後悔はしない。自分で考えて、選んだ道だから。

運命なんか、アテにして、たまるものか。

夏がひたひたと

昼、歩いて吉祥寺へ。キチレコソニック2017の会場で、たかしまてつをさんたちのバンド、東京ハイボールズのミニライブを拝聴。楽しかった〜。会場にいた人たち全員が、本当に楽しそうだった。

連休に入って、みんな帰省したり遠出したりしてるのかと思いきや、吉祥寺の街は思いのほか、人が多くて、どこの店も大混雑。週明けの月火の平日、暦通りに仕事があって、この週末は普通に都内で過ごしてる人が多いのかもしれない。

運良く入って座れた武蔵野珈琲店で、今季初のアイスコーヒーをすすっていると、窓の外で、いきなりのどしゃぶり。で、すぐに何事もなかったかのように止んだ。ついこの間、やっと春になったかと思ったら、もう夏がひたひたと近づいているようだ。