師走の足音

この三日間は、執筆作業に集中。たまに資料探しや食材の買い出しに行ったりはしたものの、ほぼずっと家に引き籠っていた。

ほんの一週間くらい前には、そろそろ先行きが見えてきたかな……と思っていたのだが、甘かった。それから怒涛のように取材予定やら何やらが追加されて、わずかな私用の時間まで取られてしまい、王手、王手の連続状態に。詰んだ。まじで詰んだ。とにかく今は、前倒しできる作業は少しでも早く進めていくしかない。

何度も書いているけれど、フリーランスの仕事というのは、来ない時は全然来ないのに、来る時は信じられないくらい一気に集中する。もうちょっと、なだらかなペースでオファーしてもらえないかなあ……。まあ、師走の足音が近づいてきてる今ならではの現象なんだろうけど。

夜間飛行

宵の口、仕事の合間に缶コーヒーを買いに家の外に出たら、一機の飛行機が、澄んだ夜空に翼端灯を瞬かせながら飛んでいくのが見えた。

今の時代のテクノロジーをもってすれば、飛行機が夜でも飛べるなんて、当たり前のように思えるかもしれない。でも、それは場所による。ラダックでは、夜の間、飛行機は飛べない。民間と軍が共用しているレーの飛行場でも、山の端がとても近いので、夜間飛行は危険なのだという。

そんなラダックでも、夜、ブォーン、と飛行機のエンジン音が響いてくることがある。それは間違いなく、満月の夜だ。標高3500メートルの高地を照らす満月の光はとても明るいので、夜でも軍用機は有視界飛行が可能なのだそうだ。

東京の夜空を横切っていく飛行機を見ながら、そんなことを思い出した。

ひさしぶりの取材

昼から八王子へ。ひさしぶりに、大学案件の取材。去年の今頃も、同じ大学でまとまった数の取材を担当したのだが、またご指名をいただいた。ありがたいことではある。

時間が来て、お相手の方がいらして、名刺交換をして、軽くやりとりをした後に、ICレコーダーのボタンを押して……という手順を踏んでいて、はたと気付いた。こういう取材をするのって、ずいぶんひさしぶりじゃないか? 俺、この案件のインタビューって、どんな感じでやってたっけ?

いや、取材という仕事は、絶やすことなく、ずっとやってきていたのだ。インドとか、タイとかで。日本語の通じる日本人の方にインタビューするというのが、ずいぶんひさしぶりな気がして。インドやタイではとにかく意思疎通を図ること自体に四苦八苦していたけど、なまじ不自由なく言葉が通じる人が相手だと、顔の表情とか、言葉のトーンの裏とか、そういうことにまで気を配らなくてはならないという、別の苦労が出てくる。

あれも取材、これも取材。自分の仕事の振れ幅というかギャップに、自分で苦笑いしてしまう。

ブームには乗らない

数日前に今年のボジョレー・ヌーボーが解禁されたのだが、世間がバブリーに大騒ぎしてたひと昔前に比べると、メディアでの扱いもめっきり少なくなった。なので、こちらとしてはすっかり安心して、ボジョレーを飲める(笑)。

たとえば酒に関してだと、ワインブームが来て、焼酎ブームが来て、ちょっと前にはウイスキーだったか。そのたびにその方面の酒は手に入りにくくなるし、店で注文するのも妙に気恥ずかしいしで、世間にそういうブームが来ると、ろくなことはなかった。女性の方だと、スイーツとかもブームの波に翻弄されがちなジャンルだろうか。

ほんと、ブームには、乗らないにかぎる。ほとぼりが冷めたところで、ゆっくり楽しむのがいい。

産毛の変化

昨日、ひさしぶりに髪を切ってもらいに近所の理髪店に行った。カットとシャンプーが終わり、顔を剃ってもらう段になって、いつも担当してくれている理容師さんが僕の頰を軽く触りながら、「ああ、元に戻りましたね」と言った。

「戻ったって、何がですか?」と聞くと、「夏の終わりに、インドからお戻りになった後にうちにいらした時に気づいて、でもその時は言わなかったんですけど……あの時はすごかったんですよ、お顔の産毛が、ごわっとしてて。でも今はいたって普通ですね」

スピティやラダック、ザンスカールで約2カ月を過ごした後、僕の顔の皮膚は、理容師さんが剃刀を当ててびっくりするくらい、産毛でごわごわになっていたのだそうだ。高地で極度の乾燥と紫外線に晒されるうちに、身体がしぜんと防衛体制を取っていたのだろう。かたや、ふんだんに湿気のあるタイでは、そこまで防御する必要はなかったということか。

しかし、「元に戻った」か……どっちが「元」なんだろうな、僕にとっては。